一元配置分散分析(対応のない多群比較)

一元配置分散分析(one-way ANOVA)は、単一の要因に基づいて分類された複数の独立な群の平均が等しいかどうかを検定する統計的手法である。「対応のない多群比較」とは、各群の観測値が互いに独立であり、同一対象の繰り返し測定ではない状況を指す。

この手法の本質は、観測データの総変動を「群間変動」と「群内変動」に分解し、それらの比を用いて平均の差の有意性を評価する点にある。すなわち、平均の差の検定を、偏差平方和という二次形式を通じて実現する方法である。

基本設定

$k$ 個の群があり、群 $i$ に属する観測値を

\[x_{ij}, \quad j = 1, \dots, n_i \quad (i = 1, \dots, k)\]

とする。総標本数は

\[N = \sum_{i=1}^k n_i\]

である。群平均および全体平均をそれぞれ

\[\bar{x}_i = \frac{1}{n_i} \sum_{j=1}^{n_i} x_{ij}, \qquad\bar{x} = \frac{1}{N} \sum_{i=1}^k \sum_{j=1}^{n_i} x_{ij}\]

と定義する。

検定する帰無仮説は

\[H_0 : \mu_1 = \mu_2 = \cdots = \mu_k\]

であり、対立仮説は「少なくとも一つの群平均が異なる」である。

確率モデルによる定式化

一元配置分散分析は、以下の線形モデルとして表される:

\[x_{ij} = \mu + \alpha_i + \varepsilon_{ij}\]

ここで、$\mu$ は全体平均、$\alpha_i$ は群効果、$\varepsilon_{ij}$ は誤差項である。識別性のために

\[\sum_{i=1}^k \alpha_i = 0\]

という制約を課す。

誤差項は以下を満たすと仮定する:

  • 独立性:$\varepsilon_{ij}$ は互いに独立
  • 正規性:$\varepsilon_{ij} \sim \mathcal{N}(0, \sigma^2)$
  • 等分散性:すべての群で分散 $\sigma^2$ が等しい

偏差平方和の分解

総平方和(SST)を

\[\mathrm{SST} = \sum_{i=1}^k \sum_{j=1}^{n_i} (x_{ij} - \bar{x})^2\]

と定義する。このとき、次の分解が成立する:

\[\mathrm{SST} = \mathrm{SSW} + \mathrm{SSB}\]

ここで、

\[\mathrm{SSW}= \sum_{i=1}^k \sum_{j=1}^{n_i} (x_{ij} - \bar{x}_i)^2\]

は群内平方和、

\[\mathrm{SSB}= \sum_{i=1}^k n_i (\bar{x}_i - \bar{x})^2\]

は群間平方和である。

この分解は恒等式

\[x_{ij} - \bar{x}= (x_{ij} - \bar{x}_i) + (\bar{x}_i - \bar{x})\]

および

\[\sum_{j=1}^{n_i} (x_{ij} - \bar{x}_i) = 0\]

により導かれる。

自由度と平均平方

自由度は以下である:

  • 総平方和:$N - 1$
  • 群間平方和:$k - 1$
  • 群内平方和:$N - k$

これらは

\[(N - 1) = (k - 1) + (N - k)\]

を満たす。

平均平方を

\[\mathrm{MSB} = \frac{\mathrm{SSB}}{k - 1}, \qquad\mathrm{MSW} = \frac{\mathrm{SSW}}{N - k}\]

と定義する。$\mathrm{MSW}$ は誤差分散 $\sigma^2$ の不偏推定量であり、$\mathrm{MSB}$ は帰無仮説のもとで同じ期待値を持つ。

F検定

仮定のもとで、

\[\frac{\mathrm{SSB}}{\sigma^2} \sim \chi^2_{k-1}, \qquad\frac{\mathrm{SSW}}{\sigma^2} \sim \chi^2_{N-k}\]

かつ両者は独立である。したがって、

\[F = \frac{\mathrm{MSB}}{\mathrm{MSW}}\]

は自由度 $(k-1, N-k)$ のF分布に従う:

\[F \sim F_{k-1,\, N-k}\]

$F$ が十分に大きい場合、帰無仮説は棄却される。

幾何学的解釈

観測ベクトル $\mathbf{x} \in \mathbb{R}^N$ に対し、分散分析は直交分解として理解できる:

\[\|\mathbf{x} - \bar{x}\mathbf{1}\|^2= \|\mathbf{P}_{\mathrm{between}}\mathbf{x}\|^2+ \|\mathbf{P}_{\mathrm{within}}\mathbf{x}\|^2\]

ここで $\mathbf{P}$ は射影行列であり、群構造に対応する部分空間への直交射影を表す。

実務上の注意

  • 等分散性が成立しない場合:WelchのANOVAを用いる
  • 正規性が弱い場合:Kruskal–Wallis検定などを検討
  • 有意差検出後:多重比較(Tukey法など)が必要

まとめ

一元配置分散分析は、独立な複数群の平均差を、偏差平方和の分解とF統計量に基づいて検定する手法である。その理論は線形モデルおよび直交射影として統一的に理解され、統計的推論の基盤を構成するものである。

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