OSI参照モデル

定義:OSI Reference Model

OSI参照モデル(OSI Reference Model)とは、メーカーや機種の異なるコンピュータシステム同士が通信できるようにするため、ISO(国際標準化機構)とCCITT(現ITU-T)が共同で策定した、通信機能を7つの階層に分けて整理する概念モデルである。
このモデルに基づいて実際に策定された通信プロトコル群は別途、OSIプロトコルスイートと呼ばれ、モデルそのものとは区別される。

策定された背景

1970年代、コンピュータネットワークは各メーカーが独自に開発した通信方式によって構築されていた。IBMのSNA(Systems Network Architecture)のように、同一メーカーの製品同士であれば通信できても、異なるメーカーの機器同士を接続することは困難であった。このため、ネットワークは事実上、単一ベンダーの機器で固めるしかなく、利用者は特定メーカーに依存せざるを得なかった。

この問題を解決するため、1977年にISOが、通信の仕組みを標準化する作業を開始した。並行してCCITTでも同様の検討が進められ、両者の文書は1983年に統合された。統合された内容は1984年に、ISO側ではISO 7498として、CCITT側ではX.200として、それぞれの標準体系の中で公表された。同一の内容が二つの国際機関から並行して発行されている点は、OSI参照モデルがISO単独の産物ではなく、電気通信分野(CCITT)と情報処理分野(ISO)の合意によって成立したことを示している。

モデルの構造

OSI参照モデルは、通信という一つの機能を、独立性の高い7つの層に分割する。各層は次の原則に従う。

  • ある層は、直下の層が提供するサービスだけを利用する
  • ある層は、直上の層に対してサービスを提供する
  • 同じ層同士は、論理的に対等な立場で通信する(この関係を「ピア・ツー・ピア通信」と呼ぶ)

この設計により、ある層の内部実装を変更しても、隣接する層に影響を与えにくくなる。たとえば、物理的な伝送媒体を銅線から光ファイバーに変えても、その上位の層の設計を作り直す必要はない。この「層ごとに責務を分離する」という考え方自体は、後のTCP/IPをはじめ、現在のネットワーク設計全般に受け継がれている。

7つの層

7つの層は、下から順に次のように定義される。

  • 第1層 物理層(Physical Layer)
    ビット列を電気信号、光信号、電波などの物理的な信号に変換して伝送する層。コネクタの形状、電圧、周波数など、物理的な仕様を扱う。
  • 第2層 データリンク層(Data Link Layer)
    直接接続された機器同士の間で、ビット列をフレームという単位にまとめ、誤り検出や再送、媒体へのアクセス制御を行う層。EthernetやWi-Fiのアドレス(MACアドレス)はこの層で扱われる。
  • 第3層 ネットワーク層(Network Layer)
    異なるネットワークをまたいで、送信元から宛先までパケットを転送するための経路選択(ルーティング)とアドレッシングを担う層。IPはこの層に位置づけられる。
  • 第4層 トランスポート層(Transport Layer)
    送信元と宛先のアプリケーション間で、データを過不足なく、必要であれば順序通りに届ける層。TCP、UDP、QUICはこの層に対応する。
  • 第5層 セッション層(Session Layer)
    通信の開始・維持・終了、すなわち一連のやり取りのまとまり(セッション)を管理する層。
  • 第6層 プレゼンテーション層(Presentation Layer)
    文字コードやデータ形式の変換、暗号化、圧縮など、データの表現形式を扱う層。
  • 第7層 アプリケーション層(Application Layer)
    利用者やアプリケーションソフトウェアが直接利用する通信機能を提供する層。電子メール、ファイル転送、Webアクセスなどの機能がここに該当する。

モデルとしては残り、規格としては普及しなかった理由

OSI参照モデルは概念的な枠組みであり、それ自体は特定のプロトコルを指定していない。ISOとCCITTはこのモデルに基づいて、X.25、CLNP(ネットワーク層)、TP4(トランスポート層)などの具体的なプロトコル群も策定した。しかし、これらのOSIプロトコルスイートが実際のネットワークで広く採用されることはなかった。

理由の一つは時期である。OSIのプロトコル群が実装・製品化される前に、すでにARPANETで実運用されていたTCP/IPが多くのネットワークに普及し始めていた。もう一つの理由は複雑さである。OSIは7層すべてを厳密に定義しようとしたため仕様が大部であり、実装の負担が大きかった。これに対しTCP/IPは、必要な機能に絞った単純な構成であったため、実装・普及が早く進んだ。

こうした経緯から、1980年代から1990年代にかけて両陣営が並行して普及を試みたものの、最終的にネットワークの実用規格として定着したのはTCP/IPであった。実際のインターネットが採用しているのは、リンク層・インターネット層・トランスポート層・アプリケーション層という、より単純な4層構造(TCP/IPモデル)である。

その一方で、通信機能を7つの層に分けて説明するという概念的な整理の枠組みだけは、規格の勝敗とは別に、教育・説明用のモデルとして定着した。両者はおおむね次のように対応づけられる。

  • 物理層・データリンク層 → TCP/IPモデルのリンク層(Ethernet、Wi-Fiなど)
  • ネットワーク層 → インターネット層(IP)
  • トランスポート層 → トランスポート層(TCP、UDP、QUIC)
  • セッション層・プレゼンテーション層・アプリケーション層 → アプリケーション層(DNS、HTTP、MCP、A2Aなど)

つまり、規格として勝敗が決したのはTCP/IPだが、通信の役割を層として整理して説明する語彙は、OSI参照モデル由来のものが今も広く使われ続けている。ネットワークの解説において、「データリンク層」「トランスポート層」といった用語は、実装されたOSIプロトコルではなく、この概念モデルの用語法を指していることがほとんどである。

参照

Mathematics is the language with which God has written the universe.





















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