| 世代 | 年 | 代表GPU | 最大の意味 |
|---|---|---|---|
| Tesla | 2006 | G80 / Tesla C870 | GPUコンピューティングの始動 |
| Fermi | 2010 | GF100 / Tesla M2050 | GPUを汎用並列計算機へ |
| Kepler | 2012 | K20 / K20X | GPU計算の大規模化・省電力化 |
| Maxwell | 2014 | GTX 750 Ti / Tesla M40 | 電力効率の大幅改善 |
| Pascal | 2016 | Tesla P100 | AI/HPCアクセラレータへの転換点 |
| Volta | 2017 | Tesla V100 | Tensor Core登場、AI計算へ本格転換 |
| Turing | 2018 | Tesla T4 / RTX 20 | Tensor Core+RT Core |
| Ampere | 2020 | A100 / RTX 30 | AI学習・推論を大規模化 |
| Hopper | 2022 | H100 | Transformer時代への最適化 |
| Ada Lovelace | 2022 | L40 / RTX 40 | 推論・生成・グラフィックス効率化 |
| Blackwell | 2024 | B100 / B200 / GB200 | LLMをラック単位で処理 |
| Blackwell Ultra | 2025 | B300 / GB300 | Rubinへ向けたスタック成熟の橋渡し |
| Rubin | 2026 | Rubin GPU / Vera Rubin | エージェントAI・推論工場へ |
NVIDIAのGPUの歴史を正確に整理するには、アーキテクチャの登場年、代表GPUの発表年、実際の出荷年、そして製品ブランドを区別する必要がある。NVIDIAは新しいGPUアーキテクチャを年次のGTC(GPU Technology Conference)で発表し、その後に実際の製品が数か月から1年ほど遅れて出荷されるというサイクルを繰り返してきた。またデータセンター向けの製品は、同じアーキテクチャのGeForce向け製品よりも発表・出荷が半年から1年以上遅れることが多い。この区別を踏まえたうえで、NVIDIAのGPUは、グラフィックス専用プロセッサから汎用並列計算装置へ、さらにAI専用アクセラレータへ、そして現在ではラックスケール・システム全体を指す「AIファクトリー」の構成要素へと、設計思想そのものを変化させてきた。
「Tesla」は特定のアーキテクチャ名というより、NVIDIAが2007年頃から展開したGPUコンピューティング製品のブランド名である。基盤となるG80アーキテクチャは2006年にGeForce 8800 GTXとして発表され、その汎用計算能力を業務用途向けに製品化したTesla C870が2007年に発売された。CUDAはこのG80世代とともに公開され、GPUの大量の演算器を一般的な数値計算に利用するという考え方を広めた。
この段階の重要性は、GPUのピーク性能そのものよりも、GPUをプログラム可能なアクセラレータとして利用する計算モデルと、それを製品ブランドとして確立したことにある。現在のTensor CoreのようなAI専用演算器はまだ存在せず、CUDA CoreによるFP32・FP64などの浮動小数点演算が中心であった。
Fermiアーキテクチャは2009年後半のGTCで発表され、翌2010年にGeForce GTX 480や、データセンター向けのTesla C2050/M2050として製品化された。TeslaブランドがそのままFermiアーキテクチャに引き継がれた点も特徴で、Fermi世代からGPUの汎用性と倍精度浮動小数点演算能力が本格的に重視されるようになった。
この時代のGPUは、現在のようなAI専用アクセラレータというより、CPUと協調して科学技術計算を高速化する「並列計算プロセッサ」という位置づけであった。
Keplerアーキテクチャは2012年のGTCで発表され、まず同年にTesla K10・K20・K20Xが投入された。翌2013年にはK40が、2014年には2基のGPUダイを1枚のボードに搭載したK80が発売されており、Kepler=K80という単純化は避け、K20/K20X(2012)→K40(2013)→K80(2014)という時系列で捉えるのが正確である。
Kepler以降に重要性を増したのが、GPU単体の性能だけでなく複数GPUをどう接続するかという問題である。ここからGPU間通信の帯域とレイテンシーが、GPUそのものの演算性能と並ぶ重要な設計要素になっていった。
Maxwellアーキテクチャは2014年2月、GeForce GTX 750 Ti(GM107)として最初に登場し、電力効率を大きく改善した世代である。データセンター向けのTesla M40は、それから1年以上遅れた2015年11月に発売されており、「Maxwellアーキテクチャの登場」と「データセンター向け代表GPUであるM40の発売」は年が異なる点に注意が必要である。
Maxwellはこの方向性を強化した世代であり、GPUを大規模な計算インフラとして利用するための基盤を整えた。ただし、この段階ではまだ「AI GPU」という現在のイメージとは異なり、GPUコンピューティング全体を高効率化する段階であった。
Pascalアーキテクチャは2016年のGTCで発表され、同年にTesla P100として出荷された。P100ではHBM2による高いメモリ帯域と、初代NVLinkによる高速なGPU間通信が重要な役割を果たした。
AIやHPCでは演算器を高速化するだけでは十分ではなく、メモリ帯域とGPU間通信の両方を含めた設計が求められる。そのためPascalでは、演算性能、メモリ帯域、GPU間通信を一体として高速化する設計が明確になった。ちょうどこの時期にディープラーニングが急速に発展し、GPUの主要な用途そのものが変化し始めた。
Voltaアーキテクチャは2017年5月のGTCで発表され、同年後半にTesla V100として出荷された。V100に搭載されたTensor Coreによって、ニューラルネットワークで頻繁に利用される行列演算を専用ハードウェアで高速化するようになった点が最大の転換である。
ここでGPUの設計思想は、「大量の汎用浮動小数点演算を高速に実行する」ことから、「AIで頻繁に発生する演算を専用回路で極めて高速に実行する」方向へ変化した。現在のH100やB200、そしてRubin GPUに搭載されているTensor Coreも、このVoltaで始まった思想の延長線上にある。
Turingアーキテクチャは2018年8月に発表され、同年、データセンター向けT4と、GeForce RTX 20シリーズがほぼ同時期に出荷された。AI向けTensor Coreに加えて、レイ・トレーシングを高速化する専用演算器RT Coreが新たに導入された点が特徴である。
T4は大規模なAI学習だけでなく、推論処理を効率的に実行することを重視した製品であり、NVIDIAがGPUを単一用途のプロセッサではなく、異なる種類の演算を専用アクセラレータで処理するヘテロジニアスなプロセッサへ変えていったことを示す世代である。
Ampereアーキテクチャは2020年5月のGTCで発表され、同年にデータセンター向けA100が、続いてGeForce RTX 30シリーズが出荷された。A100はAI学習と推論、HPCの双方をターゲットとする代表的なGPUである。
AmpereではTensor Coreがさらに強化され、FP16・BF16に加えてTF32が導入された。またMIG(Multi-Instance GPU)により、1つの物理GPUを複数の独立したインスタンスに分割できるようになり、GPUが単なる「計算装置」からデータセンターで共有・仮想化される計算資源へ変化したことを示す重要な進歩となった。
Hopperアーキテクチャは2022年3月のGTCで発表され、同年後半にH100が出荷された。一方、同じHopper世代に属するH200は2023年11月に発表され、実際の出荷は2024年第2四半期である。したがって「H100/H200」を単純に2022年の代表GPUとして並べるのは正確ではなく、H100=2022年発表・出荷、H200=2023年発表・2024年出荷と区別すべきである。
Hopper最大の特徴はTransformer Engineであり、計算の性質に応じてFP8・FP16・BF16を使い分けることで、精度を大きく損なわずに計算量とメモリ帯域を削減する。ChatGPTをはじめとする生成AIが急速に普及した時期とH100の普及時期が重なったことも、NVIDIAのデータセンターGPU事業が急拡大した大きな理由である。
Ada Lovelaceアーキテクチャは2022年9月に発表され、GeForce RTX 40シリーズがほぼ同時期に、データセンター向けL40がやや遅れて出荷された。Hopperが主としてデータセンターのAI・HPCを対象とするのに対し、Ada Lovelaceはグラフィックス、生成AI、推論などを幅広く対象とする点で目的が異なる。
したがって、2022年を単純に「Hopper世代」と一括りにするのは正確ではなく、NVIDIAは同じ時期にデータセンター向けHopperと、グラフィックス・推論向けAdaという異なる製品系列を並行して展開していた。
Blackwellアーキテクチャは2024年3月のGTCで発表され、同年後半から2025年にかけてB100・B200・GB200が順次出荷された。GB200ではGrace CPUとBlackwell GPUを組み合わせたSuperchipが構成され、それを多数結合したGB200 NVL72では72基のGPUを1つのNVLinkドメインとして接続する。
ここでNVIDIAの製品概念は、GPUカードからGPUサーバー、さらにラック全体を一つの巨大なAI計算機として設計する方向へ変化した。大規模LLMではモデルのパラメータやKV Cacheが1枚のGPUのHBMに収まらないため複数GPUへの分散が不可欠であり、GPU間通信性能がAIシステム全体の性能を決定するという認識が明確になった世代である。
Blackwellアーキテクチャを踏襲しつつ強化したBlackwell Ultra(GB300)は、2025年に量産段階に入った製品ブランドである。基本的なラック構成はGB200 NVL72から継承しつつ、メモリ容量や相互接続帯域、電力設計を改良し、後続のVera Rubinプラットフォームへ向けたハードウェア・ソフトウェアスタックの成熟を進める役割を担った。
Rubin世代の製品・アーキテクチャ上の正式な呼称はRubin GPUであり、CPU側にはVera CPUが組み合わされる(「R100系」という呼称はNVIDIAの公式なものではない)。アーキテクチャは2024年以降のロードマップで示され、2025年秋のGTCで具体的な仕様が明らかにされた。Rubin GPUは2つのレティクル限界サイズのダイで構成され、最大288GBのHBM4メモリと、1パッケージあたり最大50PFLOPS(NVFP4)規模の推論性能を備える。CPU側の88コアArmベースVera CPUと組み合わされ、GPU間・CPU間の相互接続には新世代のNVLink 6が用いられる。
製品プラットフォームとしては、GB200・GB300 NVL72の後継にあたるVera Rubin NVL72(当初は「NVL144」というダイ数ベースの呼称も用いられたが、後に72基のGPUパッケージを数える従来どおりのNVL72という名称に整理された)が、2026年後半に量産・本格出荷される計画である。さらに長文脈処理に特化した新しいGPUカテゴリとしてRubin CPXが発表されており、Vera CPU・Rubin GPU・Rubin CPXを組み合わせたVera Rubin NVL144 CPXプラットフォームは、数百万トークン規模のコード生成や動画生成のような長文脈推論のプリフィル処理を専門に担う設計になっている。
生成AIの初期段階ではGPUを大量に並べてモデルを学習することが最重要であったが、現在は学習済みモデルによる膨大な推論リクエストの処理、さらにエージェントAIにおける複数回の推論・ツール利用・検索・コード実行の連鎖が重要になっている。そのため単位電力・単位コスト当たりにどれだけ多くのトークンを生成できるかという「推論経済性」が、Rubin世代を特徴づけるキーワードとなる。
NVIDIA GPUの世代交代を通して見ると、変化は大きく四段階に分けられる。
第一段階は、Teslaブランド確立からPascalに至るGPUコンピューティングの確立である。GPUをCPUの補助的なグラフィックス装置ではなく、並列計算アクセラレータとして利用する基盤が形成された。
第二段階は、VoltaからAmpereに至るAIアクセラレータ化である。Tensor Coreによってニューラルネットワークの行列演算がハードウェアの中心的な処理になった。
第三段階は、HopperからBlackwell・Blackwell Ultraに至るTransformer・LLMへの最適化とスケールアップである。ここではGPU単体の性能以上に、HBM容量、メモリ帯域、NVLink、NVSwitch、ネットワークが重要になった。
第四段階がRubin以降のAIシステム・AIファクトリー化である。GPUはもはや単独のアクセラレータではなく、Vera CPU、メモリ、ネットワーク、ストレージ、冷却、ソフトウェアと一体になった巨大な計算システムの構成要素となっている。
したがって、この歴史を研究用途で整理する際には、アーキテクチャの発表年、代表GPUの発表・出荷年、製品ブランド名を単純に一つの年・一つの名称に集約しないことが重要である。特にTesla(ブランド)、Kepler(K20/K20X→K40→K80の時系列)、Maxwell(アーキテクチャ登場とM40出荷の時差)、Hopper(H100とH200の時差)、Rubin(Rubin GPU/Vera CPUという正式名称)という各世代の区別を踏まえることで、NVIDIAがGPUという製品を並列演算器からAIアクセラレータへ、さらにラックスケールコンピュータ、そしてAIファクトリーへと拡張してきた歴史がより正確に把握できる。
Mathematics is the language with which God has written the universe.