summary:
DataFusionは,列指向メモリフォーマットであるApache Arrowを基盤とし,メモリ効率と並列性を最大化しながら,SQLクエリやデータフレーム演算を高速に実行する機能を提供する.スタンドアロンで利用可能であるだけでなく,より大規模なデータプラットフォームの組み込みコンポーネントとしても機能することを意図して設計されている.
DataFusionは,もともとRustコミュニティ内で,安全性と並列処理能力に優れるデータ処理基盤を求める動きの中から生まれたプロジェクトである.2019年頃に開発が始まり,その後Apache Arrowプロジェクトに統合される形で公式コンポーネントとなった.Apache Arrow自体が「データのメモリ表現の標準化」を目指していたことから,DataFusionはそのArrowメモリフォーマットをネイティブに扱う最初のSQLエンジンの一つとなった.
技術的には,DataFusionはまずSQLクエリを受け取り,これを解析[パース]し,論理クエリプランを生成する.この論理プランは,リレーショナル代数に基づく最適化パスを通過し,プロジェクション,フィルタリング,結合といった演算を効率化する.その後,物理クエリプランに変換され,並列実行される演算ノードとして各演算が実装される.各ノードは,Apache Arrowの列指向データを入力および出力とし,バッチ処理単位で動作する.この設計により,メモリコピーを極力削減し,CPUキャッシュ効率を高めることが可能となっている.
DataFusionはスレッドセーフであり,内部でRustの非同期並列実行モデル[tokio等]を活用できるよう設計されている.これにより,マルチコアCPU上で高スループットなクエリ実行を実現している.また,DataFusionは単なるSQLエンジンにとどまらず,カスタム演算子や拡張データソースの追加が容易であり,ユーザー自身が独自の最適化ルールや物理演算プランナーを組み込むことも可能である.
現代のデータ基盤においては,DataFusionは軽量かつ組み込み可能なコンポーネントとして注目されている.たとえば,Ballistaという別プロジェクトでは,DataFusionの実行エンジンを分散環境に拡張し,数百台規模のクラスタでSQLクエリを並列実行する試みがなされている.さらに,DataFusionのコンセプトは,InfluxDBやDatabendなどのデータベース製品にも応用され,現代的なデータ処理アーキテクチャにおける重要な技術要素となっている.
また,DataFusionは,SIMD[Single Instruction Multiple Data]命令セットを活用したベクトル化演算をサポートし,処理性能をさらに向上させている.クエリの実行時には,述語のプッシュダウンやパーティションプルーニングなどの高度な最適化技術も適用され,大規模データセットに対しても効率的な処理が可能となっている.加えて,Parquet,CSV,JSON,Avroなど多様なファイル形式の読み書きに対応しており,異なるデータソース間での統合クエリも実行できる柔軟性を備えている.
Mathematics is the language with which God has written the universe.