RBAC

summary:

RBAC[Role-Based Access Control]とは,アクセス制御モデルの一つであり,個々のユーザーに対して直接的に権限を付与するのではなく,あらかじめ定義された「ロール(役割)」に権限を割り当て,ユーザーには適切なロールを付与することによって間接的にアクセス権を管理する方式である.このモデルは,大規模なシステムや組織においてアクセス権の一元管理とセキュリティポリシーの整合性を確保する手段として,実用性と拡張性に優れている.

歴史と標準化

RBACの概念は1990年代初頭に正式に定式化された.それ以前にも組織内で類似のロール概念が使われてはいたが,Sandhuらによって1996年に発表された論文「Role-Based Access Control Models」により,その理論的枠組みが明確に整理された.その後,ANSI[American National Standards Institute]およびINCITSによる標準化[INCITS 359-2004]を経て,現在では産業界・公共機関・軍事システムなど幅広い分野におけるアクセス制御の基盤技術として採用されている.

INCITSとは,International Committee for Information Technology Standardsの略であり,アメリカ国家規格協会[ANSI]に認定された情報技術分野の国家標準化機関である.もともとは「X3」と呼ばれた委員会を前身とし,情報技術に関する国家標準の策定を目的として活動している.INCITSは,ISO/IECといった国際標準化機関とのリエゾンを持ち,アメリカ国内の標準を国際標準へと接続する役割を担っている.RBACに関しては,INCITS 359-2004という文書として正式に標準化されており,この標準文書はRBACの用語,構造,操作,機能的要件などを体系的に定義している.この標準により,異なるシステム間で一貫性のあるRBACの実装が可能となり,相互運用性やセキュリティの整合性が確保されるようになった.

技術的構成要素

技術的には,RBACは主に「ユーザー」「ロール」「権限」「セッション」という4つの構成要素から成り立っている.

ユーザーは一つ以上のロールに割り当てられ,ロールはそれぞれ複数の権限を保有する.ユーザーがログインする際には,そのユーザーに与えられたロールのうち一部または全部をアクティブなセッションとして選択し,それに応じた権限でシステムを操作することが可能となる.

拡張機能

RBACは,基本機能に加えて階層的ロール[ロール階層]や制約付きRBAC[Constrained RBAC]といった拡張も含む.

階層的ロールでは,上位ロールが下位ロールの権限を継承することでロール管理を簡潔に保つことができる.例えば,「部長」ロールが「課長」ロールの権限を自動的に継承する構造を実現できる.

制約付きRBACでは,セグリゲーション・オブ・デューティ[職務分離]などのセキュリティポリシーを定義するための制約条件を導入する.例えば,あるユーザーが同時に「承認者」と「支払者」になってはならないといった制約を設定できる.

IAMとの関係

IAM[Identity and Access Management]とは,情報システムにおける「ユーザーの識別[Identity]」および「アクセス権限の管理[Access Management]」を包括的に行うフレームワークである.IAMは認証[Authentication],認可[Authorization],アカウントライフサイクル管理,監査・ロギング,ポリシー管理などを包含する広範な概念であり,現代の組織におけるセキュリティ基盤の中心をなす.

RBACは,そのIAMの中における「認可[Authorization]」の実装モデルの一つである.IAMが「誰が」「どのように」リソースへアクセスすべきかを制御する全体的枠組みであるのに対し,RBACはその制御方式のうちの「ロールベースで制御する」という方式を提供する.

例えば,IAMシステムにおいて,ユーザーが認証された後に「このユーザーは'HRマネージャ'ロールを持つので,人事データへの読み書き権限を与える」という判断を行う際,その「ロールベースの判断」はRBACの機構によって行われる.すなわち,IAMはRBACを内包する概念であり,RBACはIAMにおける認可制御の戦略の一つである.

実装と応用

クラウド環境やIDaaS[Identity as a Service]においてもRBACは中心的なアクセス制御機構として実装されている.AWS IAM,Microsoft Entra ID[旧Azure Active Directory],Google Cloud IAM,Okta,Auth0などの主要プラットフォームでもその応用が見られる.これにより,組織はアクセス権管理の負担を軽減しつつ,厳格なセキュリティ要件を満たすことが可能となっている.

さらに,より柔軟な制御を実現するために,IAMにおいてRBACを拡張したABAC[Attribute-Based Access Control:属性ベースアクセス制御]やPBAC[Policy-Based Access Control:ポリシーベースアクセス制御]なども導入されつつある.これらの新しいアプローチは,ユーザーの属性,リソースの属性,環境の状況などを動的に評価してアクセス制御を行う,より細粒度で柔軟な制御を可能にする.

RBACは,組織のセキュリティ要件と運用効率のバランスを取りながら,体系的なアクセス制御を実現する重要な技術である.標準化された枠組みと豊富な実装例により,現代の情報システムにおける認可制御の基盤として広く採用されている.IAMの歴史と技術進展の中核を成す構成要素として,今日においてもなお不可欠な存在であり,将来的にもクラウドコンピューティングやゼロトラストアーキテクチャの発展と共に,その重要性は増し続けると考えられる.

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