Definition:
$\sigma$-代数は,集合に対して,測る[測度を定義する]ことができる部分集合の"整った集まり"を定めている.より数学的に言うなら,可算な操作[補集合・和集合]に閉じた部分集合族を選び,そこに測度を割り当てられるようにするための枠組みである.
つまり,測度や確率を定義できる測れる集合たちの体系である.
上記において,組 $(X, \mathcal{F})$ を可測空間という.
以下は $\sigma$-代数の重要な性質である:
有限集合 $X = \{1,2,3\}$ 上の $\sigma$-代数の例を考える.
$\sigma$-代数[シグマ代数]の概念は,20世紀初頭の測度論と確率論の厳密化の過程において定式化されたものであり,その中心的人物はフランスの数学者アンリ・ルベーグ[Henri Lebesgue]である.ルベーグは1902年に自身の学位論文「積分,長さ,面積」[Intégrale, longueur, aire]において,リーマン積分を超える新たな積分概念であるルベーグ積分を定義するにあたり,「測れる集合」の体系的な取り扱いが必要であることを認識し,可測集合の族に対して閉じた演算を導入した.この体系が現在の$\sigma$-代数の前身である.
ルベーグ自身は「$\sigma$-代数」という語を用いてはいなかったが,彼の定めた可測集合族は,今日でいうところの$\sigma$-代数の公理を満たしていた.すなわち,全体集合を含み,補集合に関して閉じ,可算和に対して閉じた集合族として構成されたものである.このような構造に対して測度[例えば長さや面積]を定義することによって,より一般的な関数に対する積分を定義可能となった.
この理論的基盤は,エミール・ボレル[Émile Borel]による先駆的な研究にも依拠していた.ボレルは1894年頃から測度論の基礎概念を発展させており,特にボレル集合の概念を導入していた.ルベーグはボレルの研究を発展させ,より一般的な測度論的枠組みを構築したのである.
その後,20世紀前半において測度論が形式体系として整備されるにつれて,「$\sigma$-代数」という用語とその公理系が明確化された.この過程では,ドイツの数学者フェリクス・ハウスドルフ[Felix Hausdorff]やカラテオドリ[Constantin Carathéodory]らも重要な貢献を行った.とりわけ,ロシアの数学者アンドレイ・コルモゴロフ[Andrei Kolmogorov]は1933年の著書『確率論の基礎』[Grundbegriffe der Wahrscheinlichkeitsrechnung]において,確率空間の構成要素としての$\sigma$-代数を明確に定式化し,現代確率論の公理的基礎を築いた.彼は,確率空間を三つ組,すなわち標本空間,$\sigma$-代数,確率測度の組で定義し,これにより確率という概念を直感的な頻度や賭けの枠組みから脱し,厳密な数学的対象として定義可能にした.
また,上記の公理から,空集合の包含や可算交集合に関する閉性など,他の重要な性質が導かれる.
このようにして$\sigma$-代数は,ルベーグの測度論における技術的要請から生じ,コルモゴロフによって公理的体系に昇華された.その後,現代数学においては,ルベーグ積分,確率論,実解析,関数解析,さらにはエルゴード理論やマルコフ過程の理論に至るまで,あらゆる分野において基盤的構造として不可欠な存在となった.
さらに20世紀後半以降,ボレル集合,完備性,生成$\sigma$-代数,フィルトレーション,停止時刻などの概念が発展し,$\sigma$-代数は単なる静的構造から,情報の増加や時系列的変化を捉えるための動的枠組みへと拡張された.特に確率過程論においては,時間発展に応じて拡大する$\sigma$-代数族[フィルトレーション]を通じて「いつ・何が観測可能か」という情報の流れを捉える枠組みが構築され,現代の金融数学や情報理論においても中核的役割を担っている.
Mathematics is the language with which God has written the universe.