
クレマチス(学名はClematis L.)は、キンポウゲ科(Ranunculaceae)センニンソウ属(Clematis)に属する植物群の総称である。属名はギリシャ語で「巻きひげ」や「つる」を意味する語に由来し、その名の通り多くの種がつる性の生育形態を示す。世界の温帯から熱帯にかけて300種以上が知られる大きな属であり、日本にもセンニンソウやカザグルマなど複数の野生種が自生する。観賞価値の高い大輪の花を咲かせる種や園芸品種が多く、庭園やフェンス仕立てなどで広く栽培されることから「つる性植物の女王」とも称される。
多くの種がつる性の木本または草本であり、葉柄や小葉柄が他物に巻きつくことで這い上がる独特の登攀様式を持つ。葉は対生し、単葉または羽状複葉となる種が多い。花には一般に花弁を欠き、花弁状に発達した萼片が花冠のように見える点が本属の大きな特徴である。萼片の数は4枚から8枚程度と種によって幅があり、色調も白色、紫色、桃色、青色など多様である。
雄しべと雌しべはともに多数あり、螺旋状に配列する原始的な構造を保持する。果実は痩果であり、多くの種で花柱が羽毛状に伸長して残存し、これが集合してぼんぼり状ないし房状の綿毛質の集合果を形成する。この羽毛状の花柱は種子の風散布に適応した構造であるとされる。
世界の温帯域を中心に、一部は熱帯高地にまで分布する広域分布属である。生育環境は種によって幅広く、林縁部や河川敷、山地の草原、岩礫地など多様な立地に適応した種が知られる。つる性の種は樹木や低木に巻きひげ状の葉柄で絡みつきながら光を求めて生育し、林冠へと到達する戦略を持つ。
開花期は種によって春から秋まで幅があり、ハナバチ類やハナアブ類などの昆虫が訪花して送粉を担う種が多い。種子は羽毛状の花柱によって風散布され、比較的広範囲へと分散する能力を持つ。温帯域の落葉樹林や林縁部の遷移過程において、先駆的に定着する種も見られる。
キンポウゲ科に広く見られる特徴として、多くの種の茎葉や根に有毒な配糖体であるプロトアネモニンの前駆物質ラヌンクリンを含有する。植物体を傷つけると酵素反応によりプロトアネモニンが生成され、これが皮膚や粘膜に強い刺激性を示すため、接触性皮膚炎を引き起こすことが知られている。
この刺激性成分は草食動物に対する食害忌避効果を持つと考えられており、本属が持つ化学的防御機構の一つとされる。乾燥や加熱によりプロトアネモニンは比較的不安定な二量体であるアネモニンへと変化し、毒性が低下する性質を持つことも知られている。
クレマチスは観賞用植物として世界的に人気が高く、特に大輪の花を咲かせる交配品種群は19世紀以降ヨーロッパを中心に育種が盛んに行われ、数多くの園芸品種が作出されてきた。日本原産の種であるカザグルマやテッセンなども古くから観賞用に栽培され、これらは西洋における品種改良の重要な交配親としても利用されてきた歴史を持つ。
一方で、日本に自生するセンニンソウなどは有毒植物としても知られ、誤食による中毒事例が報告されることがあるため注意が必要である。また漢方や民間療法においては、一部の種の根や茎が利尿や鎮痛を目的として利用されてきた歴史も持つが、毒性成分を含むことから取り扱いには専門的な知識が求められる。
クレマチス属は被子植物の中でも比較的初期に分岐した系統群に属し、真正双子葉類(Eudicots)の中でもキンポウゲ目(Ranunculales)に位置づけられる。キンポウゲ目はバラ類やキク類といった真正双子葉類の主要な系統群よりも早期に分岐したグループであり、被子植物の進化史を考える上で基部的な位置を占める系統として重要視されている。
属の所属するキンポウゲ科の中では、センニンソウ属は花弁を持たず萼片が花弁化するという特異な花形態を発達させた系統であり、この点は同科の他属であるオダマキ属(Aquilegia)やキンポウゲ属(Ranunculus)などとは異なる進化的方向性を示している。分子系統解析により、つる性の生育形態と羽毛状に発達した花柱を持つ痩果という組み合わせは、本属内で独自に進化した派生形質であると考えられている。
第2版:2026-07-26.
Vita brevis, ars longa. Omnia vincit Amor.