
Adhatoda vasica Nees
アダトダは、キツネノマゴ科キツネノマゴ属に属する常緑低木であり、インド亜大陸を中心とする南アジア原産の薬用植物である。正式な学名は Justicia adhatoda であり、Adhatoda vasica Nees はそのシノニム(異名)として扱われる。日本語ではアダトウダ、アドハトダとも呼ばれ、英語では「Malabar Nut」、サンスクリット系伝統医学では「ワサカ(Vasaka)」の名で広く知られる。古代よりアーユルヴェーダ医学において重要視され、特に呼吸器疾患に対する薬用植物として著名である。
バシチンを成分に含む。
本種はインド、スリランカ、ネパール、パキスタンなど南アジアを中心に分布する。現在では東南アジア、中東、アフリカ熱帯域などにも導入されている。温暖な気候を好み、日当たりの良い場所から半日陰まで適応する。比較的乾燥にも強いが、適度な水分条件で旺盛に成長する。人里周辺、林縁、荒地などに生育し、薬用植物として栽培されることも多い。花には昆虫が訪れ、昆虫媒花として機能している。
アダトダは薬理活性成分を豊富に含むことで知られる。特に葉にはキナゾリン系アルカロイドであるバシシン(vasicine)およびバシシノン(vasicinone)が含まれる。これらの化合物は去痰作用および鎮咳作用を示し、呼吸器疾患に対する薬効の主要因とされる。気管支に対する作用については、バシシンは用量依存的な気管支収縮作用と拡張作用の両面を示し、バシシノンはより顕著な気管支拡張作用を有することが報告されている。また、バシシンには強い子宮収縮(oxytocic)作用があることが薬理学的に確認されており、この点は臨床上および安全性の観点から特に重要である。さらに、抗炎症作用、抗菌作用、抗酸化作用なども報告されている。葉の苦味や独特の香気は、これら二次代謝産物に由来する。キツネノマゴ科植物には多様なフェノール化合物やアルカロイドを含むものが多く、本種も高度な化学防御系を発達させた植物の一例である。
アダトダは南アジア伝統医学において極めて重要な薬用植物である。アーユルヴェーダでは「ワサカ」として知られ、咳、喘息、気管支炎、結核など呼吸器疾患の治療に古くから利用されてきた。葉の煎液、粉末、抽出物などが利用され、現在でもハーブ医薬や民間薬として広く用いられている。また、薬理研究対象としても重要であり、含有アルカロイドの作用機序について多くの研究が行われている。一方で、バシシンの強い子宮収縮作用により、妊娠中の使用は流産・早産を引き起こす危険性があるとされており、伝統的にも堕胎薬として用いられてきた歴史をもつ。医療的利用にあたっては、妊婦への禁忌を含む十分な専門的知識が不可欠である。
アダトダはキツネノマゴ科(Acanthaceae)キツネノマゴ属(Justicia)に属する。キツネノマゴ科は熱帯〜亜熱帯地域を中心に多様化した植物群であり、草本から低木まで多様な形態を含む。本属植物は唇形花と昆虫媒花形質を特徴とし、多くが薬理活性物質を含有する。進化的には、アルカロイドなどの二次代謝産物の発達が植食防御および病原防御に重要な役割を果たしたと考えられる。また、比較的大型で目立つ花は昆虫送粉への適応を示しており、熱帯環境における送粉者との相互作用を反映している。さらに、人類による長期的薬用利用によって栽培・移植が繰り返されてきたため、本種の現在の分布には人為的影響も大きく関与している。
第1版:2005-05.
第2版:2026-05-11.
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