レッドアンデス

概要

レッドアンデスは、ナス科(Solanaceae)ナス属(Solanum)に分類されるジャガイモ(Solanum tuberosum L.)の栽培品種のひとつである(Solanum tuberosum L. 'Andes Red')。「アンデス赤」「アンデスレッド」の名でも流通し、育成当初は「ネオデリシャス」と呼ばれていた。学名の表記としては、種としてはSolanum tuberosum L.であり、レッドアンデスはその中の一栽培品種として位置づけられる。

本品種は、昭和46年から49年(1971年から1974年)ごろにかけて、名城大学名誉教授の川上幸治郎らによって育成された。種子親(母親)に赤い表皮を持つ「アーリーローズ(Early Rose)」を、花粉親(父親)にアンデス原産の二倍体栽培種「ソラナム・フレハ(Solanum phureja)」を用いて交配し、選抜系統名「M72218」として選抜された三倍体の種間雑種系統である。この系統名から、交配自体は1972年に行われた可能性が高いと考えられている。当初は「ネオデリシャス」の名で品種登録が出願されたが、この出願は取り下げられ、育成が行われた岡山県牛窓町において「アンデス赤」の名で地域特産品として評価を受けたことから、この名称とその派生形であるレッドアンデス、アンデスレッドの呼び名で全国に広まった。北海道十勝地方でも地域在来品種として栽培されており、大手飲料メーカーのスナック菓子シリーズの原料品種としても知られている。

形態的特徴

いもの大きさは中程度で、形は球形から扁円形を示す。表面はやや凹凸に富み、目(芽の付け根のくぼみ)の深さは中程度である。最大の特徴は、サツマイモを思わせる紅色を帯びた表皮であり、この赤紫色はアントシアニン色素に由来する。果肉は鮮やかな黄色を呈するが、部分的に紅色を帯びることもあり、これも同じくアントシアニンの蓄積によるものである。花の色は紅色を帯びた紫色を示す。

肉質は粉質で、加熱すると煮崩れしやすい性質を持つ一方、なめらかな舌触りと甘みを兼ね備える。ジャガイモ全般に共通する形態的特徴として、食用部分であるいもは根ではなく、地下匍匐茎の先端が肥大した塊茎であり、表面に見られる「目」は退化した葉の葉腋にあたる腋芽の集まりである。地上部は複葉をつけ、花は集散花序に咲き、結実すればナス科に特徴的な液果を生じるが、栽培上はもっぱら塊茎の栄養繁殖によって増殖される。

分布と生態

ジャガイモという種そのものの起源は、南米大陸のアンデス山脈、とりわけペルーからボリビアにかけてのチチカカ湖周辺の高地であり、この地域で数千年前に野生種から栽培化されたと考えられている。レッドアンデスの花粉親である「ソラナム・フレハ」も、こうしたアンデス地方に自生・栽培されてきた二倍体栽培種であり、本品種の名称「アンデス赤」「レッドアンデス」は、この地理的な起源を反映したものである。

本品種は熟期が中晩生に区分され、春と秋の二期作が可能であるという他の品種にはあまり見られない特性を持つ。日本国内では、育成地である岡山県牛窓町を中心に地域特産品として栽培が続けられてきたほか、北海道十勝地方でも地域在来品種として原原種の増殖が行われ、一定の作付面積を保っている。芽が出やすく生命力が強い一方で長期貯蔵にはあまり向かない性質もあり、主要品種である男爵薯やメークインと比べると流通量は限られている。

生理・化学的特徴

ジャガイモの塊茎や芽、日光に当たって緑化した表皮には、ソラニンやチャコニンといった配糖体アルカロイド(グリコアルカロイド)が含まれており、これらは摂取すると腹痛や嘔吐、神経系の症状を引き起こす有毒成分として知られる。光にさらされると表皮のクロロフィル合成が進むと同時にこれらの配糖体アルカロイドも増加する傾向があるため、緑化した部分や発芽部は取り除いて調理する必要がある。

レッドアンデスの表皮や果肉に見られる赤紫色は、こうした配糖体アルカロイドとは異なる成分であるアントシアニン系色素によるものであり、抗酸化作用を持つ色素として近年注目される機能性成分のひとつである。この色素の蓄積は、赤色や紫色を呈する複数のジャガイモ品種に共通して見られる性質であり、レッドアンデスもこうした「カラフルポテト」と呼ばれる品種群の代表例のひとつに数えられる。肉質が粉質であることは、細胞内のデンプン粒の蓄積密度が高く、加熱時に細胞同士が分離しやすいことに起因し、これが独特のほくほくとした食感を生み出している。

人との関わり

レッドアンデスは、その粉質でほくほくとした食感と、ほのかな甘みが評価され、ポテトサラダやコロッケ、じゃがバターなど、いもの形を崩して用いる料理に特に適した品種として利用されてきた。煮崩れしやすい性質のため煮物にはあまり向かないが、フライやジャーマンポテトのように表面を香ばしく焼き上げる調理法との相性も良いとされる。

育成の経緯としては、当初大手飲料・食品メーカーによる品種登録出願が行われたものの取り下げられ、その後は岡山県や北海道の産地が主体となって地域特産品としての位置づけを固めてきたという、やや特殊な来歴を持つ品種である。この品種を基に育成された、表皮が赤い「ジャガキッズレッド」や表皮が紫色の「ジャガキッズパープル」といった加工用品種も知られており、生食用としてだけでなく、スナック菓子原料としても一定の役割を果たしてきた。

系統的位置と進化的特徴

レッドアンデスの基となるジャガイモは、真正双子葉類(Eudicots)のキク類(Asterids)に含まれ、ナス目(Solanales)ナス科(Solanaceae)ナス属(Solanum)に位置づけられる。ナス科内部では、ナス属はSolanoideaeと呼ばれる亜科に含まれ、ジャガイモを含む一群は、しばしばペトタ節(Solanum section Petota)として扱われる。この節には、栽培種であるジャガイモのほか、花粉親として用いられた「ソラナム・フレハ」を含む多数の野生・栽培種が含まれ、これらは倍数性の異なる複雑な種群を形成していることで知られる。

栽培種であるジャガイモは、南米アンデス地方の野生種から人為的な選抜を経て栽培化された作物であり、地域や系統によって倍数性が大きく異なる複雑な遺伝的背景を持つ。花粉親の「ソラナム・フレハ」が二倍体の栽培種であるのに対し、種子親の「アーリーローズ」は一般的な四倍体系統に由来すると考えられ、両者の交配によって三倍体という中間的な倍数性を持つ種間雑種系統が生じた点は、ジャガイモの品種改良史における倍数性操作の複雑さを示す好例である。

レッドアンデス自体は、こうした異なる倍数性・異なる地理的系譜を持つ二つの系統を人為交配によって組み合わせることで成立した品種であり、野生下での自然な種分化の産物ではなく、育種家による選抜という人為的な過程を経て生み出されたものである。表皮・果肉に見られるアントシアニンの蓄積という形質は、アンデス地方の野生種・在来種に広く見られる色素形成能力が、種間雑種化と選抜の過程を経てなお受け継がれてきたことを示す一例といえる。


第2版:2026-07-08.

Vita brevis, ars longa. Omnia vincit Amor.





















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