カワラケツメイ

Chamaecrista nomame.

カワラケツメイ[河原決明]は, マメ科ジャケツイバラ亜科カワラケツメイ属に属する一年草[まれに多年草となることがある]であり, 学名を Chamaecrista nomame[Makino]H.Ohashi とする植物である.日本の在来植物の一つであり, 河原や乾燥した草地に自生することからこの名を持つ.別名をネムチャ・ノマメ・マメチャ・コウボウチャ[弘法茶]・ハマチャ[浜茶]などといい, 古くから薬用および茶用植物として広く利用されてきた点でも重要である.

分類と系統

カワラケツメイはマメ科[Fabaceae]に属するが, その中でもジャケツイバラ亜科[Caesalpinioideae]に分類される.この亜科は, いわゆる典型的な蝶形花を持つマメ科植物とは異なり, 比較的原始的な形質を保持するグループとして扱われてきた.属としてはカワラケツメイ属[Chamaecrista]に属し, 世界に約270種が知られ, 主に熱帯アメリカを中心として熱帯から温帯にかけて広く分布する一群の中の一種である.

なお, 本種の学名はかつて Cassia nomame [Makino] Honda や Senna nomame [Makino] T.C.Chen などの異名[シノニム]も用いられてきたが, 現在は Chamaecrista nomame [Makino] H.Ohashi が正名として使用される.生薬名は「山扁豆[さんぺんず]」である.

形態的特徴

本種は高さ30〜60cm程度に成長する小型の草本である[栽培環境によっては1mに達することもある].茎は細く中実[中空ではない]で, 直立またはやや斜上し, 微細な毛が密生する.

葉は互生し, 偶数羽状複葉[長さ3〜8cm]である.小葉は披針形から卵形で先端がとがり, 15〜35対と多数並ぶ.葉柄の上部[最下小葉付け根付近]に無柄の黒いいぼ状の蜜腺が1個つく点が本種の識別に有用である.なお, 本種は夜間・雨天・著しい乾燥時などに小葉を閉じる就眠運動を示すが, オジギソウのように触れた刺激では閉じない.この点は同じジャケツイバラ亜科の近縁種と区別する際にも重要である.

花は8〜9月頃[花期は8〜10月]に咲き, 葉腋に直径約6〜7mmの鮮やかな黄色の5弁花を1〜2個ずつつける.花弁はほぼ同形の倒卵形であり, 蝶形花にはならない.各花弁はむしろほぼ同形・同大に揃っている点がジャケツイバラ亜科の中でも本種の特徴である[近縁のアレチケツメイでは下側の1枚が特に大きいことで区別できる].雄しべは4本[まれに痕跡的な5本目を持つ]で不等長である.雄しべは不等長」で4本ある.

果実は扁平な細長い豆果[長さ3〜4cm, 幅5〜6mm]で, 短毛がある.成熟すると黒褐色となり, 乾燥した日には音を立てて裂開し, 内部の4〜12個の種子を弾き飛ばす.種子は長さ約3〜5mmの平行四辺形〜菱形で, 黒褐色の光沢を持つ.

生態と分布

カワラケツメイは, 本州・四国・九州に分布し, 国外では朝鮮半島・中国東部および東北部にも分布する.北海道には自生しない.国際的な分布域は上記の東アジアに加え, 台湾・インド・東南アジア・オーストラリア・アフリカ[エチオピア・タンザニアなど]・マダガスカルにまで及ぶ広域分布種の一つでもある.

生育環境は山際の草地・土手・道端・川原の砂地・原野など, 日当たりが良く排水性の高い攪乱を受けやすい場所に適応しており, 先駆植物的性格を持つ.ただし近年, 河川改修による河原植物群落の変化や帰化植物[特に北アメリカ原産の近縁種アレチケツメイ]の増加により, 本種は減少傾向にあり, 一部の自治体では絶滅危惧植物に指定されている.

根には根粒菌との共生による窒素固定能力があり, 貧栄養土壌でも生育可能である.この性質はマメ科植物に共通する重要な生態的特徴である.

また, 本種は絶滅危惧種に指定されているチョウ・ツマグロキチョウの食草としても知られており, 生態系保全上の観点からも注目される種である.

利用[薬用・飲用]

カワラケツメイは生薬名「山扁豆[さんぺんず]」として知られ, 民間薬として古くから利用されてきた.「決明子」とはエビスグサ[北アメリカ原産]の種子を指す生薬名であり, 本種はエビスグサとは別種であるが, 類似した薬効を持つとされることからその名が関連付けられている.

薬用部位は果実のついた全草[地上部]であり, 葉・茎・果実を乾燥・焙煎して煎じて飲用する.この茶は「弘法茶」[弘法大師・空海が庶民に広めたとの伝承による]・「浜茶」・「豆茶」・「合歓茶」など, 地域によってさまざまな名称で呼ばれる.カフェインを含まない健康茶として, 現代でも愛飲されている.

成分としては, アントラキノン類・フラボノイド類[ルテオリン, cassiaoccidentalin類, isocassiaoccidentalin B, カルコン類のbuteoinなど]・ミネラル・脂肪油[β-シトステロール等]・食物繊維[乾燥重量の50%以上]などが含まれる.

伝統的に知られる効能は, 利尿作用・整腸・緩下作用・消炎作用などである.「決明」の名称から目への薬効が連想されることはあるが, 本種[カワラケツメイ]における眼精疲労への効果は民間的なものにとどまり, エビスグサの「決明子」が眼病に用いられてきた文脈と混同しないことが重要である.現代における研究では, フラボノイドによるリパーゼ阻害活性[脂肪吸収抑制], 肝機能保護, 骨強化[骨粗鬆症予防の可能性]なども報告されているが, これらはいずれも引き続き検討が必要な段階にある.

文化的・歴史的側面

日本では古くから身近な野草として認識され, 農村部を中心に夏〜秋の採取植物の一つであった.乾燥・焙煎して保存が利くため, 日常的な健康維持のための飲料として重宝されてきた歴史を持つ.青森県野辺地町では藩政時代に北前船で伝来したとされ, 豪商の茶粥文化として地域に根付いたとの記録が残る.今日でも茶粥・アイスクリーム・麺類など多様な加工食品に用いられ, 地域の特産品として活用されている.

また, 「決明」という名称は中国の伝統医学[中医学]に由来し, エビスグサを指す漢名「決明」が「目の病を決[切り開く]して明かりを取り戻す」という意味を持つことに由来する.カワラケツメイはこのエビスグサと同様の薬効を持つ植物として河原に自生することから, 「河原の決明[の仲間]」と名付けられたものである.

なお, アサヒ飲料の「十六茶」の原料16素材の一つとしても使用されており, 現代においても商品化された形で広く流通している点も注目される.

近縁種との区別

本種と混同しやすい植物として以下のものがある.

総括

カワラケツメイは, 河原などの攪乱環境に適応した日本在来のマメ科植物であり, 形態的にはジャケツイバラ亜科特有の非蝶形花・偶数羽状複葉・葉柄蜜腺などの特徴を示す.就眠運動や窒素固定など生理・生態的にも興味深い性質を持つ一方, ツマグロキチョウの食草という保全上の重要性も有する.また, 弘法茶・浜茶などの名で知られる薬用・茶用植物としての長い利用史を持ち, その成分研究も近年進展しつつある.都市部を中心に生育地が減少していることから, 自然史的・民族植物学的・保全生態学的観点の複数の側面から検討する価値のある種である.

マメ科>ジャケツイバラ亜科

#Duparquetioideaeには,唯一の Duparquetia orchidacea が含まれる.この種は,西アフリカの熱帯地域に生息する.

マメ目>マメ科

バラ群>マメ目

真正双子葉類>バラ群

被子植物>真正双子葉類

参考文献 References

  1. 長谷部光泰(2021)「植物の進化」,『特別展「植物 地球を支える仲間たち」』,NHK・NHKプロモーション・朝日新聞社.
  2. 長谷部光泰(2020),『陸上植物の形態と進化』,裳華房.
  3. Stevens, P. F.(2001 onwards). Angiosperm Phylogeny Website. Version 14, July 2017 [and more or less continuously updated since]." , http://www.mobot.org/MOBOT/research/APweb/

Vita brevis, ars longa. Omnia vincit Amor.





















植物用語集 ヒイロサンジコ ヤブラン ニガキ アカンサス・モリス タカラダネオダカマ