
モロコシ(蜀黍、唐黍、学名:Sorghum bicolor(L.)Moench)は、イネ科(Poaceae)モロコシ属(Sorghum)に属する一年生のC4型穀物である。タカキビ(高黍)、コーリャン(高粱)、あるいは英語由来のソルガムの名でも広く知られる。
熱帯アフリカのサバンナ地帯を起源とし、トウモロコシやコムギ、イネ、オオムギに次いで世界で5番目に多く生産される穀物である。乾燥や高温、痩せた土壌に対する耐性がきわめて強く、アフリカやインドなどの半乾燥地域において主食用穀物として重要な位置を占める一方、先進諸国では主として飼料用作物として利用されている。
草丈は1から3メートルほどになる一年草である。茎は直立し、太さは3センチメートルほどに達する。葉は互生し、広線形で長さは約1メートル、幅は約10センチメートルに及ぶ大形の葉であり、葉縁には細かい毛が見られる。
9月頃、茎の頂端から総状花序ないし円錐花序を伸ばし、長さ30センチメートルほどの大きな穂を形成する。小穂は多数つき、花弁を欠く風媒花であり、雄蕊は黄色を呈する。花後には長さ0.2から0.4センチメートルほどの小さな果実(穎果)を結び、その色は赤、白、黄色、茶色など品種によって多様である。
モロコシ属は、アフリカおよびユーラシアの低緯度地域を中心に、熱帯から亜熱帯にかけて広範に分布する属である。栽培種であるモロコシの祖先野生種は、西アフリカのサバンナ地帯からエチオピア高原にかけての地域に分布していたと考えられている。
栽培化はおよそ5000年前、野生種であるヨシモロコシ(Sorghum arundinaceum)とスーダングラスとの交配を経て、この地域で成立したと推定されている。この地域は、モロコシのほかにもフォニオ、テフ、トウジンビエ、シコクビエ、バンバラマメ、アフリカイネなど数多くの穀物が栽培化された、いわゆるスーダン農耕文化圏の一大栽培化センターに位置づけられる。モロコシは乾燥や半乾燥の環境によく適応し、一時的な過湿や冠水、アルカリ性土壌や塩分にも耐性を示すことから、他の主要穀物が栽培困難な厳しい環境下でも安定した収量を得られる作物として、乾燥地農業において重要な役割を果たしている。
モロコシはC4型光合成を行う植物であり、これは高温かつ強光条件下で光合成効率を高く維持できる生理的特性であって、本種が乾燥・高温環境に強い適応力を示す基盤となっている。
穀粒の種皮には、品種によってタンニンが多く含まれるものがあり、タンニンはタンパク質などの栄養成分の消化吸収を阻害する働きを持つため、色の濃い品種は精白を十分に行うか、あるいはタンニン含量の低い黄色や白色の品種を選ぶ必要がある。また、発芽したばかりの若い芽にはシアノゲングルコシドの一種であるジュリンが含まれており、酵素の作用によって青酸(シアン化水素)を生じる潜在的な危険性が知られている。ただし、これは発芽初期の新芽に限られた現象であり、成熟した穀粒そのものには関係しない。
モロコシは、アフリカやインドをはじめとする多くの地域で主食用穀物として利用され、粥やパンなどに加工して食されてきた。アフリカや中国では、穀粒を原料とした醸造も古くから行われており、中国では高粱を原料とする蒸留酒がよく知られている。
食用以外の用途もきわめて多岐にわたり、デンプンや糖、アルコールの製造原料としても利用されるほか、家畜の飼料としては穀粒だけでなく、牧草として茎葉部分も広く用いられる。先進諸国においては、タンニン含量の問題や食味の点から食用としての利用は限定的であり、主に飼料用作物としての栽培が中心となっている。日本では「タカキビ」の名で餅や菓子の材料として利用される例もあり、地域によっては伝統食material としての利用も見られる。
モロコシは、被子植物のうち単子葉類(Monocots)に属し、その中でもツユクサ類(Commelinids)と呼ばれる大きな系統群に含まれる。ツユクサ類の中でイネ目(Poales)に位置づけられ、イネ目の中でイネ科(Poaceae)に分類される。
イネ科の中では、亜科キビ亜科(Panicoideae)、連モロコシ連(Andropogoneae)に含まれ、属名はSorghumである。モロコシ連には、モロコシ属のほかにトウモロコシ属(Zea)やサトウキビ属(Saccharum)など、C4型光合成を発達させた重要な農作物を含む属が多く含まれており、キビ亜科の中でも特に多様化と農業上の重要性の両面で顕著な系統である。
モロコシ属の中で栽培種であるモロコシは、野生種ヨシモロコシとの交配を経て西アフリカからエチオピア高原にかけての地域で成立したと考えられており、その後の人為選抜によって、脱粒性の喪失や穀粒の大型化、多様な種皮色の獲得など、栽培化に伴う典型的な形質変化を遂げてきた。さらに世界各地への伝播の過程で、デュラ系統やカフィア系統など、乾燥への耐性や利用形態の異なる複数の地方系統(レース)へと多様化しており、これは環境適応と人為選択の双方が織りなす進化的分化の代表例として位置づけられる。
第2版:2026-07-17.
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