
アマ(亜麻、学名:Linum usitatissimum L.)は、アマ科(Linaceae)アマ属(Linum)に属する一年草である。原産地はコーカサス地方から中東にかけての一帯とされ、古代エジプト時代から人類が利用してきた最も古い栽培植物の一つに数えられる。
茎の靭皮繊維からはリネン(亜麻布)が作られ、種子(亜麻仁)からは亜麻仁油が得られるという、繊維作物と油糧作物の双方の性質を兼ね備える点が本種の大きな特徴である。種小名usitatissimumはラテン語で「最も有用な」を意味し、この植物が古くから多面的に利用されてきたことを物語っている。
草丈はおよそ1メートルから1.2メートルほどになる一年草である。茎は細く、直立し、上部でわずかに分枝する。原種の亜麻は本来宿根性であるが、産業用に改良された栽培品種の多くは一年草として扱われる。
葉は互生し、細長い披針形で光沢のある緑色を呈し、柄を持たずに茎に直接つく。花は春から夏にかけて咲き、直径1.5センチメートルほどの5弁花で、淡青色または白色を呈する。花弁は薄く繊細な質感を持ち、風にそよぐ様子が観賞的価値としても評価される。果実は球形の蒴果で、内部に扁平な卵形の種子を複数含む。種子は光沢のある褐色を呈し、これが亜麻仁として利用される部位である。
アマの原産地はカフカス地方から中東にかけての一帯と考えられており、古代から中東およびユーラシア大陸西部の広い範囲で栽培化が進められてきた。現在では気候の穏やかな温帯地域を中心に、世界各大陸で栽培されている。
比較的冷涼で湿潤な気候を好み、繊維の質を重視する栽培では株を密に播種して分枝を抑え、まっすぐで長い茎を得る方法がとられる。一方、種子の収量を重視する栽培では株間を広くとり、分枝と結実を促す方法がとられるなど、利用目的に応じて栽培様式が使い分けられてきた点も本種の特徴である。花は虫媒花であり、昆虫による送粉を経て蒴果内に種子を稔らせる。
アマの種子(亜麻仁)は、油分を30から40パーセントほど含み、その脂肪酸組成のおよそ半分をα‐リノレン酸が占める点が栄養学的に特筆される。α‐リノレン酸はn‐3系(オメガ3)多価不飽和脂肪酸であり、植物油の中でも際立って高い含有率を示すことから、亜麻仁油はn‐3系脂肪酸の代表的な供給源として利用される。
種子にはまた、リグナン類の一種であるセコイソラリシレシノールジグルコシドが豊富に含まれ、これは植物エストロゲン様の作用を持つ化合物として知られる。加えて、種皮には水溶性の粘液質(ムシレージ)が多く含まれ、水に浸すとゲル状に膨潤する性質を持つ。一方で、種子には青酸配糖体の一種であるリナマリンも含まれており、未加工の種子を大量に摂取した場合には加水分解に伴って生じる青酸による中毒のおそれがあることから、利用にあたっては加熱処理や適量の摂取が求められる。
アマは、繊維作物としても油糧作物としても、人類の歴史の中できわめて古くから利用されてきた植物である。茎の靭皮部から得られる繊維は紡がれて亜麻糸となり、これを織ることでリネン(亜麻布)が作られる。リネンは通気性と吸湿性に優れた高級繊維として、衣類や寝具、テーブルリネンなどに広く用いられてきた。
種子を圧搾して得られる亜麻仁油は、食用としてはもちろん、乾性油としての性質を活かして油彩画用の溶き油や塗料、ワニスの原料としても古くから利用されてきた。近年では、亜麻仁油やアマ種子に豊富に含まれるα‐リノレン酸やリグナン、食物繊維などの機能性が注目され、健康食品や機能性表示食品の素材としての需要が高まっている。種子を煎じたものやすり潰したものは、喉の炎症や消化不良の緩和、あるいは湿布として皮膚の炎症を和らげる目的で、伝統的な民間療法にも用いられてきた。
アマは、被子植物のうち真正双子葉類(Eudicots)に属し、その中でもバラ類(Rosids)と呼ばれる大きな系統群、さらにその下位のマメ類(Fabids)に含まれる。マメ類の中ではキントラノオ目(Malpighiales)に位置づけられ、キントラノオ目の中でアマ科(Linaceae)に分類される。
アマ科の中では、亜科アマ亜科(Linoideae)に含まれ、属名はLinumである。キントラノオ目はきわめて多様な科を含む大きな目として知られ、形態的にはまとまりを欠くように見えるが、分子系統学的解析によって単系統性が支持されている点が特徴的である。アマ科はその中で比較的小さな科の一つであり、細い茎と繊細な5弁花、蒴果という比較的均質な形態を保ちながら分化してきた系統である。
アマ属の中で、栽培種であるアマは、野生の近縁種からの長期にわたる人為選抜を経て、繊維の長さや強度、種子の油分含量などの形質が改良されてきたと考えられている。特に、繊維利用に適した細く直立した草姿と、油糧利用に適した分枝性で多稔性の草姿という、栽培目的に応じた形態的な分化が生じている点は、人為選択がもたらした興味深い進化的分岐の一例として位置づけられる。
第2版:2026-07-17.
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