
スギモリケイトウ(杉森鶏頭)は、ヒユ科ヒユ属に属する一年生の大型草本であり、鮮やかな紅紫色から深紅色を呈する太い花穂を垂れ下げる、あるいは直立させる観賞用・食用植物として知られている。学名の扱いについては文献間で一定の揺れが見られ、Amaranthus hybridusを基準としつつも、日本国内では特に栽培変種であるAmaranthus hybridus var. paniculatusがスギモリケイトウの名で呼ばれることが多く、これは中南米原産の別種として扱われるAmaranthus cruentus(フジゲイトウ)の異名ないし近縁の栽培型として整理されることも少なくない。すなわちスギモリケイトウという和名は、単一の狭義の分類群のみを指すのではなく、Amaranthus hybridusを基本種とする一連の栽培型・近縁種群に対して慣用的に用いられてきた名称である点に留意が必要である。
本種群は、中央アメリカを起源地とする野生種から、穀物用・野菜用・観賞用として選抜されてきた栽培アマランサス類の一角を占め、乾燥に強く生育が早いという実用上の利点から、世界各地で帰化植物としても広く定着している。
草丈はおよそ0.5から2.5メートルに達し、条件によってはそれ以上に生長する個体もある。茎は直立し、しばしば紅色を帯び、若い時期には無毛からわずかに軟毛を伴う程度である。葉は互生し、長い葉柄を持つ卵状披針形から広卵形で、葉先は鋭頭または鈍頭となる。葉身にはしばしば紅紫色の色素が現れ、特に栽培品種では葉全体が濃い紅色を呈するものも多い。
開花期になると、茎頂および上部の葉腋から、多数の小花が密に集合した太く長い穂状花序(花穂)を形成する。花穂は品種により直立するものと下垂するものがあり、色調も紅紫色、深紅色、緑色を帯びるものまで変異に富む。個々の花は花弁を持たず、小さな苞と萼片状の花被片に包まれる目立たない構造であるが、無数に集合することで遠目には鶏冠状の華やかな塊として認識される。雌雄同株であり、風媒によって受粉する。結実後は多数の微小な種子を含む胞果(蓋果)を形成し、成熟すると上部が蓋のように外れて種子を散布する。種子は扁平な円形で、黒色から淡黄白色まで品種による差異が大きい。
原産地は中央アメリカから南アメリカ北部にかけての地域と考えられており、先コロンブス期の中南米において既に穀物用・野菜用として栽培化が進んでいたとされる。現在では観賞用・農業用として世界各地に導入されており、温帯から熱帯にかけての幅広い気候帯で栽培可能であるとともに、休耕地や道端、畑地周辺などに野生化した個体が見られる地域も多く、北アメリカやユーラシア各地では帰化植物として定着している。
生態的には典型的な先駆植物(パイオニア植物)としての性質を示し、攪乱を受けた裸地に速やかに侵入して旺盛な生育を見せる。開花期には昆虫による訪花も見られるが、送粉様式の主体は風媒であり、多量の花粉と種子を生産することで繁殖上の優位性を確保している。乾燥や貧栄養な土壌への耐性が高く、この生理的な強靭さが、雑草としての旺盛な繁殖力と、農作物としての栽培しやすさの両面を支えている。
本種を含むヒユ属植物の生理学的特徴として特筆すべきは、C4型光合成を営む点である。C4植物は、維管束鞘細胞と葉肉細胞との間で炭素固定の役割分担を行うクランツ構造を発達させており、高温・強光・乾燥といった環境下でも効率的に光合成を行うことができる。ヒユ属はこのC4回路のうち、リンゴ酸を主たる脱炭酸基質とするNAD依存性リンゴ酸酵素(NAD-ME)型の経路を用いる代表的な双子葉植物として、光合成研究の分野でもしばしば取り上げられる。
色素化学の面では、ヒユ属を含むナデシコ目の中核的な系統群に特有の窒素含有色素であるベタレイン(ベタシアニン・ベタキサンチン)を蓄積することが大きな特徴である。花穂や葉に現れる紅紫色は、主にベタシアニン系色素であるアマランチン(amaranthin)に由来し、これは一般の植物に広く見られるアントシアニンとは生合成経路が全く異なる色素である。ベタレイン色素とアントシアニン色素は同一の植物体内で共存することがほとんどなく、この相互排他性は分類学的にも重要な化学的指標とされている。種子には良質なタンパク質とともに必須アミノ酸であるリシンが比較的多く含まれる一方、葉には蓚酸や硝酸塩が蓄積しやすい性質もあり、多量摂取に際しては留意が必要とされる。
スギモリケイトウおよびその近縁の栽培アマランサス類は、古代中南米文明において主要な穀物・野菜として重要な位置を占めてきた。種子は小型ながら栄養価が高く、いわゆる擬似穀物(シュードシリアル)として粥や焼き菓子に利用されるほか、若い葉は葉菜として炒め物や汁物に用いられる地域も多い。中南米では現在でも「キントニル」などの名で親しまれる伝統的な野菜として利用が続いている。
観賞面では、鮮烈な色調の花穂を持つことから、切り花やドライフラワー、花壇の彩りとして世界各地の園芸で用いられており、日本国内でもケイトウ類と並ぶ夏から秋にかけての花卉として親しまれている。加えて、その色素であるベタシアニンは天然着色料としての利用可能性が研究されており、テンサイ由来のベタニン色素の代替候補として食品工業分野からも注目されている。中国など一部地域では、近縁種を含むヒユ属植物が生薬としても用いられてきた歴史がある。
スギモリケイトウは、被子植物(Angiosperms)のうち真正双子葉類(Eudicots)に属し、さらにその内部の中核真正双子葉類(Core eudicots)の中でも、キク類(Asterids)と姉妹関係にあるとされる大系統群であるスーパーアステリッド類(Superasterids)に位置づけられる。所属する目はナデシコ目(Caryophyllales)であり、科としてはヒユ科(Amaranthaceae、基準属はヒユ属 Amaranthus)が充てられる。ヒユ科内ではヒユ亜科(Amaranthoideae)に属し、属としてはヒユ属(Amaranthus)に位置づけられる。
ナデシコ目は、アカザ科(旧Chenopodiaceae、現在はヒユ科に統合)をはじめとする塩生・乾生植物群を多く含む系統群であり、この目に固有の化学的特徴であるベタレイン色素の生合成能力は、キク類を含む他のほとんどの真正双子葉類が持つアントシアニン色素とは独立に進化した形質であると考えられている。この色素代謝の分岐は、ナデシコ目が他の中核真正双子葉類から早期に分かれた系統であることを裏づける進化的証拠のひとつとされる。
ヒユ属内では、Amaranthus hybridusは変異に富む多形的な種として知られ、多くの近縁種や栽培品種が本種、あるいは本種を含む複合種群に由来する、または本種との自然交雑に由来すると考えられている。実際、観賞用・穀物用として選抜されたAmaranthus cruentusやAmaranthus hypochondriacusなどの栽培種は、いずれもAmaranthus hybridusを祖先種とする栽培化の過程で成立したとする見解が有力であり、スギモリケイトウという名で呼ばれる栽培型群は、野生種から穀物用・観賞用への人為選抜が進行しつつある進化的にも動的な系統であるといえよう。
第2版:2026-07-18.
Vita brevis, ars longa. Omnia vincit Amor.