
サトウキビは、イネ科(Poaceae)サトウキビ属(Saccharum)に属する大型の多年生草本であり、学名はSaccharum officinarum L.である。ニューギニア島を起源地とする栽培植物であり、太い茎の内部に高濃度のショ糖を蓄積する性質から、世界における砂糖生産の中心的な作物として古くから栽培されてきた。原種としてのSaccharum officinarumは糖度が高く繊維質に乏しいいわゆる高貴種(ノーブルケイン)に位置づけられるが、現在商業的に栽培されているサトウキビの大部分は、本種と近縁の野生種であるSaccharum spontaneumなどとの種間交雑によって育成された複雑な雑種品種群であり、本種はその重要な交配親としての役割を担っている。
茎は直立し、多数の節を持つ稈(かん)を形成しながら旺盛に生育し、高さは3から6メートルに達することもある。稈は太く、内部に柔組織が発達し、この組織の細胞内にショ糖が高濃度で蓄積される点が本種の最大の特徴である。稈の表皮は緑色から赤紫色、黄色を帯びるなど品種によって変異に富み、しばしば蝋質の粉を帯びる。
葉は稈の各節から互生し、細長い線形から広線形で、縁には細かい鋸歯状の突起を持ち、触れると皮膚を傷つけるほど鋭い。葉身の基部は葉鞘となって稈を包み、葉鞘は稈の伸長に伴って下方から順次枯死し脱落していく。花序は稈の先端に形成される大型の円錐花序であり、羽毛状の長い毛を密生した多数の小穂を着け、開花時には銀白色から淡黄色の穂となって風になびく。栽培品種の多くは種子稔性が著しく低下しており、繁殖はもっぱら稈の一部を用いた挿し木的な栄養繁殖によって行われる。
原産地はニューギニア島とその周辺のメラネシア地域とされ、およそ8000年前に現地の住民によって栽培化されたと考えられている。栽培化の後、人間の移動と交易に伴って東南アジア、インド、太平洋諸島へと伝播し、さらに大航海時代以降には中南米やアフリカなど世界の熱帯・亜熱帯域へと広く導入された。現在では野生状態での自生はほとんど知られておらず、専ら栽培植物として世界各地の熱帯・亜熱帯気候の農地に分布している。
生育には高温多湿な気候と十分な日照を必要とし、年間を通じて高い気温と適度な降水量が確保される地域で最も生産性が高い。生態生理学的には、イネ科の中でも高い光合成効率を持つC4型光合成経路を備えており、強い日射条件下でも旺盛な乾物生産を行うことができる。栽培圃場では株から多数の分げつを生じて密な群落を形成し、収穫後も残された地下部から再生する株出し栽培(ラトゥーン栽培)によって、一度の植え付けで複数年にわたる連続収穫が可能である。
本種の生理学的な最大の特徴は、稈の柔組織細胞の液胞内に高濃度のショ糖を蓄積する能力にある。ショ糖の蓄積は、光合成によって葉で合成された糖が師管を通じて稈へと転流され、スクロースシンターゼやインベルターゼといった酵素群の活性バランスによって合成と分解が制御されることで進行する。成熟した稈では乾物重の大きな割合をショ糖が占め、この高いショ糖蓄積能こそが本種が製糖作物として選抜されてきた根拠となっている。
前述のとおり本種はC4型光合成を行う植物であり、葉肉細胞と維管束鞘細胞の間でCO2を濃縮する仕組みを備えることで、高温や強光、乾燥といった環境ストレス下でも高い光合成能力を維持できる。このC4回路は、同じアンドロポゴン連(Andropogoneae)に属するモロコシ(Sorghum bicolor)やトウモロコシ(Zea mays)とも共通する生理的特徴である。また、稈や葉にはフラボノイド類やフェノール性化合物が含まれており、これらは病害抵抗性や紫外線防御などに関与するとともに、近縁種間の系統関係を推定するための化学的指標としても利用されてきた。
サトウキビは、人類が利用する糖の主要な供給源として、世界の砂糖生産量の大部分を担う農作物である。搾汁した液を煮詰めて結晶化させることで白砂糖や粗糖が製造されるほか、搾汁を発酵・蒸留してラム酒などの酒類を製造する原料としても古くから利用されてきた。搾汁後に残る繊維質のバガスは製紙原料やボイラー燃料、近年ではバイオエタノールの原料としても活用されており、特にブラジルなどでは大規模なバイオ燃料生産の基幹作物として重要な位置を占めている。
栽培品種の育成史においては、糖度が高いものの病害抵抗性や環境適応性に乏しい本種と、糖度は低いが強健な性質を持つ近縁野生種Saccharum spontaneumとの交雑育種が20世紀初頭から本格化し、両種の長所を兼ね備えた複雑な雑種品種群(いわゆるモダンケイン)が世界各地で作出された。今日、商業栽培されているサトウキビのほとんどはこうした種間雑種であり、本種はその育種における最も重要な祖先種の一つとして位置づけられている。日本国内では沖縄県や鹿児島県の南西諸島が主要な栽培地であり、黒糖の原料としても伝統的に利用されてきた。
本種は単子葉類のうちコミリナ類(Commelinids)に含まれるイネ目(Poales)イネ科(Poaceae)に位置づけられる。イネ科の中ではキビ亜科(Panicoideae)に属し、その内部でモロコシやトウモロコシなど多くのC4型作物を含むアンドロポゴン連(Andropogoneae)に分類される。アンドロポゴン連の中でサトウキビ属(Saccharum)は、近縁のススキ属(Miscanthus)やエリアンサス属(Erianthus)などとともに、しばしば「サッカルム複合群」と呼ばれる系統的に非常に近接したグループを形成しており、これらの属間の境界は属間交雑や網状進化のために現在も分類学上の議論が続いている。
サトウキビ属は高度な多倍数性と異数性を示すことで知られ、本種Saccharum officinarum自体が高い倍数性を持つ複雑な倍数体であることに加え、栽培品種の育成過程で本種とSaccharum spontaneumとの属間・種間交雑が繰り返されたことにより、現代の商業品種のゲノムは複数の祖先種に由来する染色体が混在する高度に複合的な構成となっている。このような倍数化と種間交雑を通じた進化は、アンドロポゴン連に広く見られる進化的傾向であり、ショ糖蓄積能や高い光合成効率といった農業上有用な形質の獲得と密接に関連していると考えられている。
第2版:2026-07-19.
Vita brevis, ars longa. Omnia vincit Amor.