
センナリバナナは、バショウ科(Musaceae)バショウ属(Musa)に分類される栽培バナナの一型であり、学名はMusa chiliocarpa Backer ex K.Heyneとされることが多い。和名は、一つの花序に極めて多数の小さな果実を稠密につけ、その数がおよそ1000個にも達するとされることに由来する。原産地はジャワ島やマレー半島とされ、東南アジアを中心に古くから栽培されてきた。なお、本種の分類上の位置づけには一定の揺れが見られ、栽培バナナの基本種であるMusa acuminataの特異な一型として扱う見解がある一方、Musa acuminataとMusa balbisianaとの交雑に由来する系統としてMusa×chiliocarpa Backerの学名を充てる見解も存在し、AAB群の栽培品種'Pisang seribu'に対応する名称として整理されている場合もある。果実は親指ほどの大きさしかなく、通常は食用よりも家畜飼料や観賞用として利用される点に特色がある。
草姿は他の栽培バナナと同様であり、地下の根茎から葉鞘が幾重にも重なり合って形成される偽茎を持つ。偽茎の高さはおよそ2から3メートルに達し、外見上は樹木のように見えるが、木部を持たない多年生の大型草本である。葉は大型で長楕円形をなし、葉鞘が互いに巻き重なることで直立した偽茎を支えている。
最大の特徴は花序と果実の形態にある。偽茎の先端から伸びる花序は長さ1から2メートルに及び、その軸に沿って苞に包まれた小花群が多数配列する。雌花群が先に開花して結実したのち、雄花群を含む花序の先端部がなお伸長を続けるため、結果として一つの花序に非常に多数の果房が連なる姿となる。個々の果実は成熟した栽培バナナの果実に比べて著しく小さく、親指ほどの大きさにとどまるが、その分、数において他の栽培品種を圧倒し、一花序あたり数千個に達する例も報告されている。
本種はジャワ島やマレー半島を中心とする東南アジアの熱帯域で伝統的に栽培されてきた栽培型であり、野生状態での自生は知られていない。栽培バナナ全般に共通する特徴として、高温多湿な熱帯気候を好み、肥沃で排水のよい土壌での生育を必要とする。繁殖は種子によらず、地下茎から発生する吸芽を株分けして増殖させる栄養繁殖が主体であり、これは本種を含む多くの栽培バナナ品種が種子形成能を著しく低下させた単為結果性の系統であることとも関係している。
温帯地域においては露地での越冬が困難であることから、日本国内では温室や観賞用の熱帯植物展示施設において栽培される例が中心であり、京都府立植物園や国立科学博物館附属自然教育園、つくば実験植物園などの温室で見ることができる。花序が結実してから果実が完全に稔るまでには長い期間を要し、栽培下では花序を紐で吊るすなどして重みによる倒伏や折損を防ぐ管理が行われている。
バショウ属植物の果実は、未熟な段階では果肉にデンプンを多量に蓄積しており、成熟に伴ってこのデンプンが糖へと分解されることで甘味を増していく。この成熟過程は植物ホルモンであるエチレンによって強く制御されており、収穫後追熟を行う一般的な栽培バナナと同様の生理機構が本種にも共通するとみられる。果皮や果肉には各種のフェノール性化合物やカロテノイド系色素が含まれ、これらは抗酸化的な機能を担うとともに、成熟や傷害に応じた褐変反応にも関与する。
本種の果実は小型であるため糖と繊維質の比率が通常の栽培バナナとは異なり、渋味の原因となるタンニン様のフェノール性物質を比較的多く含む未熟な段階では渋味が強く、これが食用に適さないとされる一因ともなっている。一方で、完熟した果実は小さいながらも本来のバナナに似た芳香と甘味を呈することが報告されており、香気成分としてはエステル類を主体とする揮発性成分が寄与しているものと考えられる。栽培バナナ全般に見られるカリウムなど無機成分に富む性質も、本種の果肉において共有されているとみてよい。
センナリバナナは、その名の由来ともなった果実の稠密な着生数の多さから、実用作物としてよりも観賞用あるいは話題性のある珍奇植物として扱われることが多い。果実自体は小さく渋みも残りやすいため一般に食用には向かず、東南アジアの原産地においては主に家畜の飼料として利用されてきた。他方で、完熟した果実を試食すると小型ながらバナナらしい風味を持つことが報告されており、食用としての可能性が全くないわけではない。
日本国内では、熱帯植物を扱う植物園の温室において話題性の高い展示植物として栽培される例が多く、一つの花序に密生する数千個規模の小果実が houseboat 状に連なる様子は来園者の関心を集める展示物となっている。また、本種の存在は、栽培バナナが単一の均質な作物ではなく、Musa acuminataやMusa balbisianaを基盤として多様な栽培型や交雑系統を生み出してきた歴史を持つことを示す好例としても位置づけられ、バナナの栽培化と品種分化を理解するうえで教育的な価値を持つ植物といえる。
本種は単子葉類の中でもコミリナ類(Commelinids)に含まれるショウガ目(Zingiberales)に位置づけられる。ショウガ目にはショウガ科(Zingiberaceae)やクズウコン科(Marantaceae)、オウムバナ科(Heliconiaceae)などが含まれ、いずれも大型の葉を持つ多年生草本を中心とするグループである。その中でバショウ科(Musaceae)は、バショウ属(Musa)、エンセーテ属(Ensete)、ムセラ属(Musella)の3属からなる比較的小さな科であり、いずれも肥大した偽茎を発達させる点で共通する。
バショウ属の栽培バナナは、野生種であるMusa acuminata(ゲノム型A)とMusa balbisiana(ゲノム型B)を基盤として、種間交雑と倍数化を繰り返しながら多様な栽培系統へと分化してきたことが分子系統学的研究によって明らかにされている。多くの栽培品種は三倍体であり、種子形成能を欠く単為結果性を獲得することで、無核で食べやすい果実という農業上有利な形質を進化的に固定してきた。本種についても、単一のMusa acuminataの変異型とする見方と、Musa acuminataとMusa balbisianaの交雑に由来するとする見方の双方が存在すること自体が、栽培バナナ群がまさにこうした交雑と倍数化を通じた複雑な進化史を歩んできたことを反映しているといえよう。
初版:2006-08-19@京都府立植物園.
第2版:2026-07-19.
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