
ハナキリン(花麒麟)は、トウダイグサ科(Euphorbiaceae)トウダイグサ属(Euphorbia)に属する常緑性の低木状多肉植物である。学名はEuphorbia milii var. splendens(Bojer ex Hook.)Ursch et Leandriとされ、マダガスカル島に隣接するブルボン島(現レユニオン島)において、フランス海軍提督ピエール・ベルナール・ミリウス男爵によって発見されたことに由来して命名された。刺の密生した多肉質の茎と、周年にわたって咲き続ける鮮やかな苞が特徴であり、観賞用に広く栽培される。英名では「クラウン・オブ・ソーンズ(茨の冠)」とも呼ばれ、イエス・キリストが被せられた茨の冠がこの植物であったという伝説にちなむ名も持つ。
本種は低木状の多肉植物であり、樹高は品種によって15~200センチメートルほどの幅を持つ。茎は直立するが、成長して高くなると半つる状となり、他の物に寄りかかったり這ったりする性質を示す。茎は細い円柱状で多肉質であり、褐色の円錐形の鋭い刺が稜に沿ってらせん状に密生する点が最大の特徴である。
葉は倒卵形から倒披針形で、長さ3~3.5センチメートルほどとなり、全縁で革質の質感を持つ。葉は主に若い茎の先端付近に集中してつくが、茎が成熟するにつれて脱落し、刺のみが残るようになる。花に見える部分は、実際には花序を包む一対の苞葉(杯状花序を構成する構造)であり、中央に小さな真の花を包み込む。この苞は赤、橙、黄、桃、白、クリーム色など多彩な色をとり、直径1~2センチメートルほどの丸みを帯びた形状を示す。花期はほぼ周年にわたり、特に春から秋にかけて盛んに咲く。
本種の原産地はマダガスカル島であり、同島に固有の多数の近縁変種・近縁種とともに分布する複合種群(ハナキリン複合体)の一員である。原産地では乾燥した岩場や丘陵地に自生し、半つる状に茂りながら生育する低木として見られる。
本種を含む多肉質のトウダイグサ属植物は、乾燥した季節性の気候に適応した生態を持ち、茎に水分を蓄える多肉質組織を発達させることで、乾季における水分不足に耐える性質を備えている。刺は、草食動物による食害を防ぐための防御構造として機能していると考えられる。
本種を含むトウダイグサ属の植物に共通する重要な生理化学的特徴として、茎や葉を傷つけると分泌される白色の乳液(ラテックス)が挙げられる。この乳液には毒性のある化学成分が含まれており、皮膚や粘膜に対して刺激作用を及ぼすほか、誤って摂取した場合には吐き気、嘔吐、下痢、めまいなどの症状を引き起こすことがある。この乳液の分泌は、傷口を塞いで感染を防ぐとともに、食害者に対する化学的防御としても機能していると考えられている。
苞の鮮やかな色彩は、アントシアニン系やカロテノイド系の色素の蓄積によって発現するものであり、真の花自体が小さく目立たない分、この苞の着色が送粉者を誘引する視覚的な役割を担っていると考えられる。
本種は、周年にわたり長く咲き続ける鮮やかな苞と、乾燥に強く育てやすい性質から、観賞用の鉢植え植物として世界中で広く栽培される。日本国内でも一般家庭の庭や鉢植えとして親しまれており、繁殖は主に挿し木によって行われる。
茨の冠にまつわる伝説から、キリスト教文化圏では象徴的な植物として扱われることがあり、英名の「クラウン・オブ・ソーンズ」や「クライスト・プラント」といった名称もこの伝承に由来する。中国では、花の形が梅の花に似ることから「虎刺梅」とも呼ばれ、華南や西南地域では露地栽培も行われている。乳液に毒性があるため、家庭で栽培する際には、切り口に触れた手で目や口に触れないようにするなど、取り扱いに注意が必要である。
トウダイグサ属(Euphorbia)は、真正双子葉類(Eudicots)バラ類(Rosids)に含まれるキントラノオ目(Malpighiales)に属し、トウダイグサ科(Euphorbiaceae)を構成する属の一つである。トウダイグサ属は、被子植物の中でも屈指の種数を誇る大属であり、乳液(ラテックス)の分泌や、杯状花序(キアチウム)と呼ばれる特殊化した花序構造を進化させてきた点で、著しい多様化を遂げた系統群として知られる。
杯状花序は、複数の退化した単性花が集合して一つの花のように機能する構造であり、真の花弁を欠く代わりに、周囲の苞葉が花弁のような役割を担うように進化した点が、本属における重要な進化的特徴である。マダガスカルに分布する本種を含む近縁種群は、乾燥した環境への適応の中で、多肉質の茎と密生する刺という形態を独自に発達させてきたと考えられ、これは同じ島嶼環境における適応放散の一例として位置づけられる。
第2版:2026-07-20.
Vita brevis, ars longa. Omnia vincit Amor.