ワタ

概要

ワタは、アオイ科(Malvaceae)ワタ属(Gossypium)に属する多年生の小低木ないし亜低木である。学名はGossypium herbaceum L.であり、カール・フォン・リンネによって記載命名された。種小名のherbaceumは「草本状の」を意味し、木本でありながら草本のような柔らかい若枝を伸ばす性質にちなむ。

英名ではレバントコットン(Levant cotton)とも呼ばれ、アフリカおよびアジアを起源地とする二倍体の栽培綿である。前回解説した陸地綿(Gossypium hirsutum)などの異質四倍体栽培綿の起源に深く関わる、旧世界の代表的なA型ゲノム種の一つとして、綿花の進化・栽培化史を理解するうえで重要な位置を占める種である。

形態的特徴

草丈ないし樹高はおよそ1から2メートルほどで、基部が木質化する低木状の草本ないし亜低木として生育する。茎や若枝には短い毛じが密生し、葉は掌状に3から5裂する広卵形から円形の単葉で互生する。葉の裂片は近縁種に比べて丸みを帯びる傾向があり、この葉形が近縁のアジアワタ(Gossypium arboreum)などとの識別点の一つとされる。

花は葉腋に単生し、淡黄色からクリーム色の鐘状の花弁を5枚持つ。花弁の基部にはしばしば紫紅色の斑紋(花心斑)が入り、開花後は赤みを帯びて変色していく。花の基部を包む3枚の総苞片は、縁に鋸歯を持つ心臓形を呈する。雄しべは多数が合着して雄しべ柱を形成し、その内部を花柱が貫くという、アオイ科に共通する花構造を持つ。

果実は蒴果で、成熟すると数室に裂開し、種子表面には白色の長い種子毛が密生する。この種子毛が繊維として利用されるが、栽培品種にあっても異質四倍体の陸地綿などに比べると繊維長が短く、短繊維綿(ショートステープルコットン)に分類される。

分布と生態

本種の野生型(亜種africanum)はアフリカ南部を中心に分布し、乾燥から半乾燥のサバンナや疎林、岩礫地などに自生する。栽培型はアフリカから西アジア、南アジアにかけて古くから広まり、地中海東岸(レバント地方)を経由してヨーロッパにも伝播した歴史を持つ。

乾燥や高温に対する耐性が比較的高く、灌漑水の乏しい半乾燥地でも栽培が可能な種として重宝されてきた。もっとも、収量や繊維長の面で異質四倍体の陸地綿や海島綿に劣るため、20世紀以降の世界的な綿花生産では次第にこれら四倍体種に取って代わられ、現在の栽培面積は限定的なものとなっている。

花は主にハナバチ類などの昆虫によって送粉される虫媒花であるが、自家和合性が高く、自家受粉によっても結実する。葉や苞葉の分泌腺からはゴシポールを含む防御物質が生成され、食植性昆虫に対する化学的防御に寄与している点は、同属の他種と共通する特徴である。

生理・化学的特徴

ワタ属に共通する化学的特徴として、葉、茎、種子などの分泌腺に蓄積されるゴシポールと呼ばれるテルペノイド系の色素の存在が挙げられる。本種においてもこの物質が防御機構として機能しており、家畜飼料として種子粕を利用する際には、他のワタ属種と同様、除去や低減処理が必要となる点は共通している。

遺伝学的には染色体基本数x=13の二倍体(A1型ゲノム)であり、近縁のアジアワタ(A2型ゲノム)とともに、現存する2種のみのA型ゲノム二倍体種として知られる。ゲノム解析の結果、両種のA型ゲノムはおよそ70万年前に共通祖先から分岐したと推定されており、それぞれ独立に進化してきたことが示されている。

本種の持つA型ゲノムは、異質四倍体の栽培綿が成立する過程で交雑に関与した祖先系統と近縁の関係にあると考えられており、四倍体綿のA亜ゲノムの起源をめぐる研究において、本種のゲノム配列は重要な比較対象として位置づけられている。

人との関わり

ワタは、旧世界における最も古い栽培綿の一つであり、アフリカや西アジア、南アジアにおいて数千年にわたり繊維作物として利用されてきた歴史を持つ。地中海東岸地域を経由してヨーロッパへも伝わり、レバントコットンの英名はこの伝播経路に由来する。

近代以降、繊維長や収量においてより優れた異質四倍体の陸地綿や海島綿が世界の綿花市場を席巻するようになったため、本種の商業的な栽培面積は大きく縮小した。もっとも、乾燥耐性の高さや旧世界系統に特有の遺伝資源としての価値から、育種素材としての重要性は現在も維持されている。

近年ではゲノム解読が進められ、栽培品種と野生型(亜種africanum)のゲノム比較を通じて、栽培化の過程で生じた遺伝的変化を明らかにする研究が活発に行われている。これは、四倍体栽培綿とは独立した栽培化の事例として、作物の家畜化・栽培化の一般的な理解にも寄与する重要な研究対象となっている。

系統的位置と進化的特徴

ワタは、被子植物のうち真正双子葉類、バラ類(アオイ類)に位置づけられ、アオイ目(Malvales)アオイ科(Malvaceae)に属する。アオイ科の中ではアオイ亜科(Malvoideae)ワタ連(Gossypieae)に含まれ、この連はゴシポールを合成する分泌腺の存在という共有形質によって特徴づけられる単系統群である。

ワタ属(Gossypium)は旧世界と新世界にまたがり約50種前後を含むが、その大部分は二倍体であり、異質四倍体種は前回解説した陸地綿を含む7種に限られる。本種の属するA型ゲノム系統は、旧世界(アフリカからアジア)に自生する二倍体群であり、新世界に自生するD型ゲノム系統とはおよそ600万年前に分岐したと推定される、系統的にも地理的にも隔たった関係にある。

約100万年から200万年前、A型ゲノムに近縁な旧世界系統の花粉が、大西洋を隔てた新世界のD型ゲノム系統(Gossypium raimondiiに近縁な種)の胚珠に何らかの経路で到達して交雑が生じ、続く染色体倍加によって異質四倍体の栽培綿群が成立したと考えられている。ワタは、この歴史的な種間交雑に関与した旧世界側の祖先系統に最も近縁な現存種の一つであり、四倍体栽培綿の起源を解明するうえで欠くことのできない比較対象として、進化学的に重要な位置を占めている。


第2版:2026-07-25.

Vita brevis, ars longa. Omnia vincit Amor.





















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