
フモトシダ(学名:Microlepia marginata(Panz.)C.Chr.)は、コバノイシカグマ科(Dennstaedtiaceae)フモトシダ属(Microlepia)に属する常緑性の中型シダ植物である。和名は、山地の麓やその周辺のやや乾いた林床に多く生育することに由来する。単羽状複葉を基本とする葉形と、葉裏の縁近くに並ぶポケット状の胞子嚢群を特徴とし、日本を含む東アジアから東南アジアにかけての温帯から亜熱帯域に広く分布する、身近で普通に見られるシダである。
フモトシダは常緑性の多年生シダ植物であり、草丈はおおむね60センチメートルから100センチメートルに達する。根茎は径4ミリメートルから5ミリメートルほどで、地表を横に長く這い、赤褐色の毛を密生する。
葉柄はわら色を呈し、硬く、長さ50センチメートルから70センチメートルに及ぶ。葉柄基部には根茎と同質の毛があり、その量には個体差が見られる。中軸および羽軸の腹面には黄褐色の短毛が生じ、葉身の両面にも毛が多く、全体として毛深い印象を与える。
葉身は厚めの紙質から草質で、長さ約70センチメートル、幅25センチメートル以下の卵状披針形から披針形を呈し、基本的には単羽状複葉であるが、切れ込みの深浅には変異が認められる。葉先は長く尖る。羽片は22対から25対ほどが対をなして並び、長さ5.5センチメートルから8センチメートルの線状披針形で先端は尖り、基部は耳状に張り出すのが特徴的である。
胞子嚢群(ソーラス)は各裂片の縁に寄って着生し、包膜はポケット状で、これに長毛を伴う。この包膜がポケット状を呈する点は、近縁のコバノイシカグマ属(Dennstaedtia)に見られるコップ状の包膜とは異なり、両属を区別する重要な形質となっている。なお、毛の多い型はケブカフモトシダとして区別されることがあり、また近縁種イシカグマ(Microlepia strigosa)との自然交雑によって生じたクジャクフモトシダのような雑種も知られている。
フモトシダは、日本では東北地方南部以南の本州、四国、九州、沖縄にかけて広く分布し、国外では朝鮮半島、中国、インドシナ半島からネパールに至る温帯から亜熱帯アジアの広い範囲に産する。
生育地としては、山地の麓や丘陵地にあるやや乾いた林床を好み、林内のやや明るい斜面や道端などにも普通に見られる。常緑性であるため一年を通じて葉を保持し、早春に新葉を展開して秋季まで旺盛に生育する。他の多くのシダ植物と同様に、胞子によって繁殖するとともに、地表を這う根茎を伸長させることで栄養繁殖的にも群落を広げる。
フモトシダを含むシダ植物は、種子植物とは異なり独立した配偶体(前葉体)と胞子体の世代交代を行う点に生理的な特徴がある。葉裏に形成された胞子嚢から放出された胞子は、湿った林床で発芽して独立栄養性の前葉体を形成し、そこで受精が成立したのちに新たな胞子体(通常目にするフモトシダの株)へと成長する。この生活環は、やや湿り気を保ちながらも過湿を嫌う林床という同種の生育環境と密接に結びついていると考えられる。
化学成分に関しては、フモトシダそのものを対象とした詳細な成分分析の報告は乏しく、種特異的な代謝産物について確立した知見は限られている。ただし、同科のシダ植物には一般にタンニン類やフラボノイド類などのポリフェノール性二次代謝産物が広く分布することが知られており、フモトシダにおいても葉や根茎にこうした防御的な二次代謝産物が含まれている可能性が指摘される程度にとどまる。この点については確定的な記述を避け、今後の分析的研究が待たれる分野であるとするのが妥当である。
フモトシダは、日本の低山から丘陵地にかけての林床でごく普通に見られるシダであり、里山の植生を構成する身近な存在として、植物観察や自然観察の対象として親しまれている。特別な栽培用途や薬用としての利用は広く定着していないが、同じフモトシダ属の近縁種の中には、例えばハワイのイシカグマ(Microlepia strigosa)のように、伝統的な儀礼や装飾に用いられてきた例も知られており、属全体として人の生活文化と一定の接点を持つ植物群であるといえる。
また、フモトシダは形態変異に富み、毛の多寡や羽片の切れ込み方によって複数の変種・品種(ケブカフモトシダなど)や、近縁種との自然交雑によって生じた個体(クジャクフモトシダなど)が記載されており、シダ植物の分類学や種内変異を学ぶ題材としても取り上げられることがある。
フモトシダは、維管束植物のうち大葉シダ類(Polypodiophyta、モニロファイト)に属し、その中でも胞子嚢の壁が単層の細胞からなる薄嚢シダ類(真嚢シダ類に対する系統群)に含まれる。現生シダ植物の中で最も種数の多いウラボシ目(Polypodiales)に属し、同目の中ではコバノイシカグマ亜目(Dennstaedtiineae)を構成するコバノイシカグマ科(Dennstaedtiaceae)に位置づけられる。コバノイシカグマ科は、ウラボシ目の中でも比較的初期に分岐した系統の一つとされ、フモトシダ属(Microlepia)はこの科の中で最も種数の多い属であり、同科内ではコバノイシカグマ属(Dennstaedtia)と近縁な関係にあるとされる。
フモトシダ属は、胞子嚢群を覆う包膜が基部と左右で葉の裏面に融合し、先端側で開口するポケット状を呈する点で特徴づけられ、これがコップ状の包膜を持つコバノイシカグマ属との識別形質にもなっている。フモトシダ(Microlepia marginata)は、同属の中では比較的単純な単羽状複葉を保つ種であり、より細かく切れ込む複雑な葉形を示す近縁種群との比較を通じて、属内における葉形進化の一端を示す分類群として位置づけられる。なお、かつてはイノモトソウ科という広義の科にまとめられていた群であるが、その後の系統学的研究に基づき、コバノイシカグマ科として独立の科に区分されるに至った経緯を持つ。
第2版:2026-07-26.
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