
セイシボク(青紫木)は、トウダイグサ科(Euphorbiaceae)セイシボク属(Excoecaria)に属する常緑低木である。学名はExcoecaria cochinchinensisで、Excoecaria bicolorを異名とする。英名はChinese crotonまたはBlindness treeと呼ばれる。原産地はベトナムを中心とするインドシナ半島東部とされ、古くから観葉植物として世界各地で栽培されてきた。最大の特徴は葉の表裏における著しい色彩の対比であり、表面は光沢のある濃緑色を呈するのに対し、裏面は鮮やかな紅紫色を帯びる。この配色の美しさから観賞価値の高い植物として珍重される一方、茎葉を傷つけると分泌される乳白色の樹液には強い毒性があり、扱いには注意を要する植物としても知られている。
セイシボクは通常高さ1から2メートル程度に生長する亜熱帯性の常緑低木で、まれに樹高が高くなる個体も報告される。茎は木質で、細い小枝を多数分岐させ、こんもりとした樹形をつくる。葉は対生し、葉身は卵状披針形から倒披針形を呈し、先端は尖る。葉質は紙質でやや光沢を有し、葉身長は6から14センチメートル、葉幅は2から5.5センチメートルほどである。葉縁には浅い鋸歯が見られる。既述の通り、葉の表面は濃緑色、裏面は紅紫色を呈し、この対照的な色彩がセイシボクの観賞上の最大の特徴となっている。花は小さく目立たない黄色の花で、直径はおよそ0.2センチメートルと微小である。花序は穂状花序をなし、開花期は4月から10月にかけてである。本種は雌雄異株であり、雄花序と雌花序は別個体につく。果実は球形の蒴果で、径はおよそ0.8センチメートルに達する。
セイシボクの自生地はベトナムを中心とするインドシナ半島東部にあり、より広くはアメリカ大陸を除く世界の熱帯地域に類似した近縁種が分布する。日本へは明治初年に渡来したとされ、以来観葉植物として温室や鉢植えで栽培されてきた。生育には半日陰の環境を好み、直射日光に長時間さらされると葉焼けを起こしやすい。耐寒性は低く、冬季には10度以上の気温を保つことが望ましいとされる。繁殖は主として挿し木によって行われる。同属には、マングローブ林の構成種として知られるシマシラキ(Excoecaria agallocha)があり、こちらはインドから太平洋方面、および日本では沖縄・奄美大島にかけて自生する。セイシボク属全体としては旧世界の熱帯域におよそ20から40種が分布するとされ、種数の見積もりは文献によって幅がある。
トウダイグサ科の多くの植物と同様、セイシボクの植物体を傷つけると乳白色の樹液が分泌される。この樹液には多様なジテルペン類が含まれており、とりわけダフナン型およびチグリアン型のジテルペンエステル類は皮膚や粘膜に対して強い刺激性を有し、東南アジアの一部地域では古くから毒矢や漁毒として利用されてきた歴史がある。樹液が目に入ると激しい痛みや一時的な視力喪失を引き起こすことがあり、これが英名Blindness treeの由来となっている。これまでの化学成分研究では、葉や枝からエクスコラブドン類などの高度に酸素化されたジテルペノイド、ロリオライド、メガスチグマン配糖体、フラボノイド、トリテルペノイド、ステロール類など多数の代謝産物が単離されている。一方で、伝統医療の分野ではこれらの毒性成分を含む部位が驚くべきことに薬用にも転用されており、止血、駆虫、抗掻痒、下剤などの目的で用いられてきた記録がある。
セイシボクは古くから観葉植物として親しまれてきた植物であり、日本でも明治期の渡来以降、昭和期にかけて一般家庭でも栽培される機会が多かったとされる。近年は流通量が減少し、希少性の高い観葉植物として再評価される傾向にある。葉の表裏における緑と紅紫のコントラストが最大の観賞価値であり、生垣や鉢植え、温室植物として利用される。一方、東南アジア地域の伝統医療においては、葉を煎じて下痢や赤痢の治療に用いたり、乳液を潰瘍の治療や止血に応用したりする例が記録されている。ただし樹液の毒性は強く、皮膚に触れると湿疹を生じることがあるため、剪定や植え替えの際には樹液が皮膚や目に触れないよう注意が必要である。同属のシマシラキは材に沈香に似た芳香を有することから、沖縄・奄美地方では古くから香木として珍重され、キナンコウボク(奇南香木)と呼ばれてきた。
セイシボクは被子植物のうち真正双子葉類(Eudicots)に属し、その中でもバラ類(Rosids)、さらに詳細にはキントラノオ目(Malpighiales)に分類される。キントラノオ目は形態的多様性が大きく、系統関係の解明が難しかった分類群であるが、分子系統学的研究の進展により単系統性が支持されるに至った。セイシボクが属するトウダイグサ科(Euphorbiaceae)はキントラノオ目の中でも種数の多い大科であり、乳液を分泌する種を多く含む点で特徴づけられる。セイシボク属(Excoecaria)はこの科の中でエズマトウダイグサ亜科(Euphorbioideae)に位置づけられる群であり、乳液に含まれる刺激性ジテルペンエステル類の生合成は同亜科に広く見られる化学的形質と関連する。マングローブ環境に適応したシマシラキのような種の存在は、本属が陸生から汽水域の特殊な環境へと生態的に多様化してきた進化的背景を示唆するものである。
第1版:2021-07.
第2版:2026-08-10.

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