
オヒシバ(雄日芝)は、イネ科(Poaceae)オヒシバ属(Eleusine)に属する一年生の草本である。学名はEleusine indica(L.)Gaertn.である。世界の温帯から熱帯にかけて広く分布し、日本国内でも道端や空き地、畑地周辺など、人為的な攪乱を受けた日当たりのよい場所に極めて普通に生育する雑草として知られる。
和名の「雄日芝」は、日当たりのよい場所に生える芝状の草本であり、よく似た近縁種であるメヒシバ(Digitaria ciliaris、雌日芝)に比べて茎葉が太くたくましいことに由来する。別名としてチカラグサとも呼ばれるが、これは茎が丈夫で引きちぎるのに力を要することにちなむ名称である。
オヒシバは地下茎や匍匐枝を持たず、株立ちの形態をとる一年生草本である。草丈は15センチメートルから60センチメートルほどになり、稈は叢生し、直立するか、あるいは基部で膝状に曲がって立ち上がる。
茎の基部には葉が集まってつき、葉鞘が茎を包み込むように重なり合う。葉鞘は二つ折りの形状をしており、これに包まれる茎自体も左右から扁平になる特徴を持つ。葉身は扁平で細長い線形をなし、ほぼ水平方向にまっすぐ伸びる。葉の質は柔らかく、光沢を欠く緑色を呈する。
花期は8月から10月頃である。茎の先端からは2本から6本ほどの穂状の花序が放射状に、あるいは掌状に分かれて出る。花序の長さは7センチメートルから15センチメートルほどで、その下面に多数の小穂を密につける。小穂は扁平で、複数の小花を含む。果期に形成される穎果は黄褐色を帯び、球形に近い形状をとる。
オヒシバは世界の温帯から熱帯域にかけて広く分布し、汎存種としての性格を持つ植物である。日本国内でも本州から沖縄まで広く見られ、道端、空き地、畑地の周辺、駐車場の隙間など、人間の活動によって攪乱を受けた裸地的な環境に典型的に出現する。
強い踏圧や乾燥に対する耐性が高く、他の植物が定着しにくいような踏み固められた土壌でも旺盛に生育することができる。この性質から、都市部の舗装の隙間や運動場のような環境でもしばしば見られる。近縁のメヒシバがやや湿った環境や半日陰にも適応するのに対し、オヒシバはより直射日光の当たる乾燥した立地を好む傾向がある。
オヒシバはC4光合成を行うイネ科植物として知られる。C4光合成は、高温・強光・乾燥といった環境下で光呼吸によるロスを抑えつつ効率的に二酸化炭素を固定できる経路であり、オヒシバが炎天下の攪乱地という過酷な環境に適応的に分布を広げてきた生理学的基盤となっている。
また、旺盛な種子生産能力と高い発芽率を有し、一世代のうちに多数の種子を土壌中に供給することで、攪乱後の裸地にいち早く定着する先駆植物としての性質を強く示す。根系は繊維状で発達がよく、踏圧を受けた締まった土壌にも根を張ることができる点も、耐踏圧性を支える生理的特徴の一つである。
オヒシバは、日本を含む世界各地において畑地や芝地における代表的な雑草の一つとして扱われており、農業および緑地管理の現場では防除の対象となることが多い。特に踏圧や乾燥に強い性質のため、除草後の裸地に真っ先に侵入して繁茂することもしばしばである。
一方で、近縁属のシコクビエ(Eleusine coracana)はオヒシバ属に属する栽培穀物であり、アフリカや南アジアを中心に古くから食用作物として利用されてきた。オヒシバ自体は直接的な栽培利用こそ少ないものの、同属に重要な穀物を含むという点で、人類の農耕史と関わりの深い属に位置づけられる植物である。
オヒシバ属(Eleusine)はイネ科(Poaceae)に属し、イネ科はイネ目(Poales)に含まれる。イネ目は単子葉類(Monocots)の中でもツユクサ類(Commelinids)と呼ばれるクレードに位置づけられている。
イネ科の内部では、オヒシバ属はウシクサ亜科やイネ亜科とは系統的に離れたクロリドイデア亜科(Chloridoideae)に分類される。クロリドイデア亜科は、C4光合成を行う種を多く含むグループとして知られ、乾燥や高温に適応した種が多いことで特徴づけられる。オヒシバが示す強靭な耐乾性・耐踏圧性という生態的特徴は、この亜科に共通する進化的な適応傾向を反映したものと考えられる。
オヒシバ属には、野生種であるオヒシバのほか、栽培化されたシコクビエが含まれる。シコクビエはオヒシバを起源種として人為的な栽培化を経て成立したと考えられており、両者の関係は、雑草性の野生種から栽培穀物への進化的移行を示す事例として、作物進化学の観点からも注目される系統群である。
第2版:2026-07-27.
Vita brevis, ars longa. Omnia vincit Amor.