クサギ

概要

クサギ(臭木)は、シソ科(Lamiaceae)クサギ属(Clerodendrum)に属する落葉低木、あるいは小高木である。学名はClerodendrum trichotomum Thunb.である。日本全土から朝鮮半島、中国にかけて広く分布し、日当たりのよい荒地や林縁、伐採跡地などに真っ先に侵入する先駆種として知られる。

和名は、葉や茎を傷つけると独特の臭気を放つことに由来する。一方で、夏に咲く白い花は甘くジャスミンに似た芳香を放つという対照的な性質を持ち、秋には紅紫色の萼と鮮やかな藍色の果実が美しい対比をなすことから、観賞植物としても親しまれている。

形態的特徴

クサギは樹高3メートルから4メートルほどになる落葉低木ないし小高木である。若い小枝はしばしば4稜を帯び、成長するにつれて丸みを帯びる。葉は対生し、大形の単葉で、葉柄は長く、葉身は広卵形から卵形を呈する。葉には特有の臭気成分が含まれ、傷つけると強く匂いが立つ。

花期は7月から9月頃である。枝先に集散花序を頂生し、花序の枝は3分岐を繰り返しながら伸長する。萼と花筒はいずれも紅紫色を帯び、花冠は細い筒部を持ち、先端が5裂して平開する。雄しべは4本、雌しべは1本あり、いずれも花冠から長く突き出て弧を描く。花は白色で、強い芳香を放つ。

果実は核果であり、秋に熟すと光沢のある藍色となる。この果実を包む萼は果時に肥大して赤みを増し、紅紫色の萼と藍色の果実との鮮やかな色彩の対比が本種の特徴的な景観をつくる。果実の青色色素の構造は名古屋大学の研究者らによって明らかにされ、種小名にちなんでトリコトミンと命名されている。

分布と生態

クサギは日本の北海道から沖縄にかけて広く分布するほか、朝鮮半島や中国にも分布域を持つ。日当たりのよい原野、荒地、道端、林縁などに生育し、比較的貧栄養な立地でも旺盛に生長する。

特筆すべき生態的特徴として、山火事や伐採などの撹乱を受けた跡地にいち早く侵入し定着する、先駆樹種としての性質が挙げられる。種子から速やかに発芽し、生長も早いため、撹乱後の裸地における植生回復の初期段階を担う存在として位置づけられる。芳香のある花は多くの昆虫を引き寄せ、とりわけアゲハチョウの仲間が訪花する姿がしばしば観察される。

生理・化学的特徴

クサギの葉に含まれる臭気成分は、食害に対する防御的な機能を持つと考えられている。一方で花には対照的に甘い芳香成分が含まれ、送粉者となる昆虫を誘引する役割を果たしている。同じ植物体の異なる部位が、防御と誘引という相反する化学的戦略を使い分けている点は興味深い特徴である。

果実に含まれる青色色素トリコトミンは、媒染剤を用いずとも絹糸を鮮やかな空色に染めることができる色素として知られており、天然染料としての機能性を持つ化学成分である。また紅紫色の萼を鉄媒染すると渋みのある灰色が得られることも知られており、萼にも染色に利用可能な色素成分が含まれている。

人との関わり

クサギの果実は古くから草木染の材料として利用されてきた。媒染剤なしで得られる鮮やかな空色は貴重な染色であり、赤い萼を鉄媒染して得られる渋い灰色とあわせて、染織文化において重宝されてきた歴史を持つ。

観賞面では、芳香のある白い花と紅紫色の萼、藍色の果実が織りなす色彩の妙が評価され、欧米では英名ハーレクイン・グローリーバウワーの名で観賞用に栽培されている。日本国内でも庭木や公園樹として植栽される例が見られる。また若葉を山菜として利用する地域もあり、民間療法においてリウマチや高血圧に対する薬用植物として用いられてきた伝承も残る。

系統的位置と進化的特徴

クサギ属(Clerodendrum)はシソ科(Lamiaceae)に属し、シソ科が含まれるシソ目(Lamiales)は、真正双子葉類のコア真正双子葉類のうち、キク類のシソ類と呼ばれるクレードに位置づけられる。クサギは従来、クロンキスト体系や新エングラー体系においてクマツヅラ科(Verbenaceae)に分類されてきたが、分子系統解析の進展によりAPG体系ではシソ科に移されるという、大きな分類学的変更を経た植物である。

クサギ属自体も、かつては約400種を含む広義の属として扱われてきたが、近年のDNA系統解析により単系統性が問い直され、ロテカ属(Rotheca)、フォルカメリア属(Volkameria)、オヴィエダ属(Ovieda)などが分離される形で再編が進められている。クサギ自体は狭義のクレロデンドルム属(Clerodendrum)に残るとされ、先駆種としての強い定着力を持つ生態的性質は、撹乱の多い環境に繰り返しさらされてきた進化史を反映していると考えられる。


第2版:2026-07-27.

Vita brevis, ars longa. Omnia vincit Amor.





















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