
カツラ(桂)は、カツラ科(Cercidiphyllaceae)カツラ属(Cercidiphyllum)に属する落葉高木である。学名はCercidiphyllum japonicum Siebold et Zucc. ex Hoffm. et Schult.である。日本の北海道から九州にかけての山地に分布するほか、朝鮮半島にも自生し、山地の渓流沿いや湿り気のある谷筋を好んで生育する。
和名の由来には諸説あるが、紅葉から落葉にかけての時期に葉が甘い香りを放つことから「香出(かづ)る」が転じたとする説が広く知られている。ハート形をした葉と、秋に見せる美しい黄葉が特徴的で、庭木や街路樹としても親しまれるほか、良質な材が家具や碁盤、将棋盤などに利用されるなど、観賞と実用の両面で古くから人々に親しまれてきた樹木である。
カツラは樹高10メートルから30メートルに達する落葉広葉高木であり、幹は1本、あるいは複数本になることもある。樹皮は暗灰褐色を呈し、若い時期から縦方向に浅い裂け目が入り、樹齢を重ねるとこの裂け目から樹皮が剥落する様子が見られる。
枝には長枝と短枝の別があり、長枝には葉が対生してつくのに対し、短枝には葉が1個だけつくという独特の着葉様式を示す。葉には葉柄があり、葉身は卵形から腎形を呈し、基部は心形から切形をなす。葉縁には円い鋸歯が並び、先端は円形から鈍形となる。この心形の葉の形がハート形と称され、本種を特徴づける外見上の大きな特徴となっている。
カツラは雌雄異株であり、花期は4月頃、葉の展開に先立って花を咲かせる。花には花弁も萼片もなく、苞に包まれた雄しべあるいは雌しべのみからなる、極めて単純化された構造を示す。雄花は8個から13個ほどの雄しべを持ち、花糸は細い。雌花は3個から5個、まれに8個ほどの雌しべを持ち、柱頭は淡紅色を帯びた糸状をなす。
果実は袋果であり、熟すと裂開する。種子は翼を含めて長さ5ミリメートルから7ミリメートルほどで、カツラでは種子の一端にのみ翼が形成される。この点は、両端に翼を持つ近縁種ヒロハカツラ(Cercidiphyllum magnificum)との識別点となる。
カツラは日本国内では北海道から九州にかけての山地に広く分布し、国外では朝鮮半島にも自生する。生育地は山地の渓流沿いや谷筋など、水分条件の良好な湿潤な立地に集中する傾向があり、乾燥した尾根筋よりも谷沿いの環境を好む。
大木に成長しやすい性質を持ち、日本各地には樹高30メートルを超える巨木が残されている。古くなった個体の周囲には、いわゆるひこばえ(孫生え)が多数発生し、根元から複数の幹が株立ち状に群生する姿を示すことも珍しくない。こうした萌芽更新の能力の高さは、渓畔という攪乱を受けやすい環境に適応した生態的特性と考えられる。
カツラの落葉に特徴的な甘い香りは、マルトールという成分の生成によるものとされる。葉が枯れて分解が進む過程で糖分が変化し、カラメルや醤油、香ばしい綿菓子を思わせる独特の芳香が生じると考えられている。この現象は生葉の状態では顕著でなく、落葉し枯れて水分が失われていく過程で香気成分が生成される点が興味深い特徴である。
花に花弁や萼片を欠く単純化した構造は、風媒花に典型的にみられる適応であり、昆虫を誘引するための装飾的な器官を持たない分、繁殖のための資源配分を効率化していると考えられる。また、渓流沿いという冠水や土砂の攪乱を受けやすい環境に適応し、萌芽による旺盛な再生能力を備えている点も、本種の生理生態的な特徴として挙げられる。
カツラは、ハート形の葉と美しい黄葉から観賞価値が高く、庭木や公園樹、街路樹として広く植栽されている。神社の境内などにも植えられ、神木として扱われる例も見られるなど、日本人の生活や信仰と深く結びついてきた樹木である。
材は軽く柔らかで加工がしやすく、狂いが少なく耐久性にも優れることから、家具材や建築材、下駄、器具材など幅広い用途に利用されてきた。特に均質でくせのない木目を持つことから、碁盤や将棋盤の材料としても重宝されている。芳香を持つ材質であることも、こうした工芸的な利用価値を高める一因となっている。
カツラ属(Cercidiphyllum)はカツラ科(Cercidiphyllaceae)に属する。カツラ科が含まれるユキノシタ目(Saxifragales)は、真正双子葉類(Eudicots)のコア真正双子葉類(Core eudicots)のうち、上位バラ類(Superrosids)に位置づけられるクレードであり、バラ類(Rosids)の姉妹群にあたる系統として扱われる。
カツラ科は、カツラとヒロハカツラの2種のみからなる小さな科であり、世界的に見ても日本と中国にのみ分布する隔離分布を示す点が特徴的である。かつては独自の目に位置づけられることもあった系統的に孤立した科であったが、分子系統解析の進展によりユキノシタ目に含まれることが明らかとなった。
花に花弁や萼片を欠くという単純化された構造は、被子植物の進化史における派生的な適応形質と考えられており、風媒への特化が進んだ結果として二次的に失われたものと解釈されている。日本と中国という限られた地域にのみ生き残る隔離分布の様相は、かつてより広く分布していた系統が、地質学的な時代を経て現在の分布域に縮小してきた進化史を反映していると考えられる。
第2版:2026-07-27.
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