
オガタマノキ(Magnolia compressa Maxim.)は、モクレン科(Magnoliaceae)モクレン属(Magnolia)に属する常緑高木である。日本に自生するモクレン科植物の中で唯一の常緑樹であり、早春に芳香のある小さな花を咲かせる。古くから神社の境内に植栽され、榊の代用として神事に用いられてきた樹木としても知られる。
オガタマノキは常緑高木で、高さ10から15メートル、幹の胸高直径は30から80センチメートルほどになるが、大きなものでは高さ20メートル、胸高直径1.5メートルに達することもある。樹皮は暗灰褐色で平滑である。枝は暗緑色で、無毛か、あるいは褐色の伏毛が見られ、托葉が脱落した痕である托葉痕が枝を一周する点がモクレン科に特徴的である。
葉は互生し、長さ5から12センチメートル、幅2から4センチメートルの長楕円形から倒卵状楕円形で、縁は全縁である。葉の表面には光沢があり深緑色を呈し、裏面はやや白色を帯びる。葉柄には毛があり、長さ2から3センチメートルである。
花は両性花で、葉の展開とほぼ同時期の2月から4月頃に、葉腋に直径約3センチメートルの花を単生する。花には芳香があり、花被片はふつう12個で、いずれも花弁状をなし、帯黄白色で基部が紅紫色を帯びる。果実は袋果が集合した集合果で、長さ5から10センチメートルほどのブドウの房状をなし、10月から11月頃に赤く熟して裂開する。1個の袋果には2から3個の種子が入る。
オガタマノキは日本では本州の関東地方以西の太平洋側から四国、九州、南西諸島にかけて分布し、国外では台湾、フィリピンにも見られる。沿岸部や島嶼部にごく稀に自生するとされ、自然状態での分布は限られる一方、神社の社叢にしばしば植栽され、そこで大木として保存されている例が多い。
常緑性の樹冠を形成し、温暖な沿岸域の照葉樹林的な環境に適応した性質を示す。果実は赤く熟して目立つ色彩を呈し、鳥類などの動物による種子散布に適応した形質と考えられる。
オガタマノキの花や葉には芳香性の精油成分が含まれ、これがモクレン属に広く共通する強い香気の由来となっている。モクレン科の植物は系統的に古い形質を残す一群として知られ、精油成分には甲虫による送粉に適応した香気物質が含まれると考えられている。個々の化学成分に関する詳細な分析報告は限られるが、近縁のモクレン属植物と共通する精油組成を持つと推定される。
オガタマノキは、その芳香と常緑性から神聖な樹木とみなされ、古くから神社の境内に植栽されてきた。和名「オガタマ」は、神を招く意味の「招霊(おきたま)」が転じたものとされ、神事において榊の代用として玉串に用いられることがある。各地の社叢には、樹齢を重ねた大木が天然記念物として保存されている例も見られる。観賞用としても庭園樹に用いられ、香りの良い花を咲かせる樹木として親しまれている。
オガタマノキが属するモクレン属(Magnolia)は、モクレン科(Magnoliaceae)に分類される。モクレン科はモクレン目(Magnoliales)を構成する科の一つであり、真正双子葉類やキク類、バラ類などを含む真正双子葉類とは系統的に大きく異なる、被子植物の初期に分岐した系統群であるモクレン類(Magnoliids)に属する。モクレン類は真正双子葉類と単子葉類のいずれにも含まれない独自のクレードであり、花の基本構造に被子植物の祖先的な形質を色濃く残す系統として位置づけられる。
本種はかつてオガタマノキ属(Michelia)として独立属に分類されていたが、葉緑体ゲノムに基づく分子系統解析の結果、Michelia属はMagnolia属の内部に含まれる側系統的な位置にあることが明らかとなり、現行の分類ではモクレン属に統合されている。この統合は、形態的な差異のみに基づく伝統的な属の区分が、分子データによって見直された代表的な事例の一つである。
第2版:2026-07-27.
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