
セリは、セリ目(Apiales)セリ科(Apiaceae)セリ属(Oenanthe)に属する多年草である。学名はOenanthe javanicaである。日本原産で、春の七草の一つとして古くから親しまれてきた野菜であり、独特の強い香りとしゃきしゃきとした歯触りを特徴とする。和名の由来は、若葉が競い合うように群生して伸びる様子から「競り(せり)」と呼ばれるようになったとされる。水田の畦道や湿地に自生するほか、野菜として広く栽培もされており、日本料理の食材や薬味として日常的に利用される代表的な水辺の食用植物である。
草丈は30センチメートルから60センチメートルほどで、茎には稜があり中空、地下茎を横に這わせて広がる匍匐性の生育様式を示す。葉は1回から2回の奇数羽状複葉で、小葉は卵形から菱形を呈し、縁には鋸歯を持ち、葉質は柔らかく特有の芳香を放つ。花期は夏季で、茎頂や葉腋から複散形花序を出し、直径1センチメートルから2センチメートル程度の小散形花序を多数つける。花は白色の小さな五弁花で、萼片5個、雄しべ5本、花柱2本からなる。花後、果実は卵状長楕円形で明瞭な隆条を持ち、先端には宿存する花柱が見られる。
セリは日本全国の北海道から九州にかけて広く自生するほか、朝鮮半島、中国、シベリア沿海州、サハリン、東南アジア、オーストラリアに至る東アジアから東南アジア、オセアニアの温帯から熱帯域にかけて分布する。低湿地や水田の畦、休耕田、農業用水路、小川のほとりなど、土壌水分の多い環境を好む湿地性植物であり、平地の市街地周辺から山地に至るまで幅広い立地に群生する。地下茎による栄養繁殖が旺盛であり、群落を形成しながら水辺に密生する生育形態をとる。
セリを含むセリ科植物の多くは、精油成分や特有のポリアセチレン化合物を含有することで知られ、これらがセリ特有の芳香や生理活性の基盤となっている。セリ科に広く見られるポリアセチレン系化合物には抗変異原性などの生理作用が報告されており、セリもこうした化学的特徴を共有する種の一つに位置づけられる。一方で、セリ科には強い神経毒性を持つ有毒種が同属・近縁属に存在し、代表的なものとしてドクゼリ属(Cicuta)のドクゼリが挙げられる。ドクゼリは全草にシクトキシンと呼ばれる猛毒のポリイン化合物を含み、生育環境や若葉の外観がセリと酷似するため、誤食による中毒事故がしばしば報告されている。両者は、セリが持つ独特の芳香をドクゼリが欠く点、およびドクゼリの地下茎が緑色でタケノコ状の節を持つ点で識別が可能である。
セリは日本において、春の七草の一つとして正月の七草粥に用いられる伝統的な食用植物であり、独特の香りと歯触りを活かして、おひたしや鍋物、和え物などの食材として古くから親しまれてきた。生育場所によってミズゼリ(水芹)、タゼリ(田芹)、オカゼリ(丘芹)などと呼び分けられることもある。水田や湿地での野生採取のほか、野菜として栽培も広く行われており、根つきのまま出荷されることが多い。一方で、前述のとおり有毒種であるドクゼリとの誤食事故が各地で継続的に発生しており、山菜採りの際には香りの有無や地下茎の形状といった識別点への注意が呼びかけられている。
セリが属するセリ科は、キク類(Asterids)の中でもキキョウ類(Campanulids)に含まれるセリ目に位置づけられる。セリ目はセリ科のほか、ウコギ科など特徴的な複散形花序や分果を発達させた科群を含む単系統群であり、セリ科はその中でも種数の多い代表的な科として知られる。セリ科内では、複散形花序と2心皮からなる分果という基本的な花・果実構造を保持しつつ、水生から乾生まで多様な生育環境に適応した種分化が進んでおり、セリ属を含む多くの系統がポリアセチレン化合物などの二次代謝産物の多様化を通じて被食防御機構を発達させてきたと考えられている。セリはこうしたセリ科の進化的多様化の中で、湿地環境への適応を強く示す系統に位置する種である。



第2版:2026-07-30.
Vita brevis, ars longa. Omnia vincit Amor.