
Metasequoia glyptostroboides Hu et W.C.Cheng.ヒノキ科メタセコイア属(Cupressaceae Metasequoia)。落葉樹。
アケボノスギ(曙杉)とも呼ばれる。三木茂(1901〜1974)が1939年に関西地方の第三紀層で化石を発見。メタセコイアと命名。その当時は絶滅したものと考えられていた。しかし、1946年、南京大学の鄭万鈞が静生生物研究所の胡先驌に送った中国四川省磨刀渓村(湖北省利川市)の水杉(スイサン)と呼ばれていた植物の標本がメタセコイアであることが判明。
このように、化石として知られていた属が20世紀に現生個体として中国で再発見されたという学術史上きわめて重要な経緯をもち、「生きている化石」の代表例として広く知られる。
対生する柔らかな線形葉と整った円錐形の樹形を特徴とし、湿潤な低地環境に適応する。現在では街路樹・公園樹として世界的に広く植栽される一方、野生個体は絶滅危惧状態にあり、進化植物学的・保全生物学的にも重要な位置を占める樹種である。
本種は高さ30〜50 mに達する高木で、若木では整った円錐形の樹冠を形成し、成木ではやや広がりのある樹冠となる。幹は直立し、根元付近では板根状に張り出すことがある。樹皮は赤褐色〜灰褐色で、繊維状に縦に裂けて剥離する。
葉は線形で柔らかく長さ1〜3 cm程度。針葉樹でありながら落葉性である点と、葉および短枝(葉をつけた当年生の小枝)が対生する点が最大の特徴である。秋になると葉は黄褐色〜橙褐色に変色し、当年生の短枝ごと脱落するため、外観上は羽状複葉のように見える。この落枝習性はラクウショウ(Taxodium distichum)と類似するが、ラクウショウでは互生・湿地では気根(膝根)を形成するのに対し、メタセコイアでは対生・気根を形成しない点で識別できる。
雌雄同株であり、雄球花は細長い穂状で前年枝に多数つき、春に花粉を放出する。雌球花は小型の球形構造として形成され、受粉後に球果へと発達する。球果は長楕円形〜卵状球形で長さ1.5〜2.5 cm程度、木質の鱗片が対生的に配列し、秋に成熟して種子を散布する。種子は小さく翼をもつ。
| 草丈/樹高 | 25mから30m. |
| 葉 | 葉序[phyllotaxis]は十字対生.形状は羽状形.葉縁[leaf margin]は全縁[entire margin]. |
| 花 | 花序[inflorescence]は総状花序. |
メタセコイア属の存在は、1941年に日本の古植物学者三木茂が新生代の化石を研究し、現生のセコイアやラクウショウとは異なる属として記載したことに始まる。この時点では絶滅属と認識されていた。
ところが、1943〜1944年にかけて、中国の植物学者干鐸らが湖北省利川市磨刀渓において現生の大木を発見。この標本が中央研究院植物研究所に持ち込まれ、胡先驌(フー・シエンスー)と鄭万鈞(チェン・ワンジュン)により1948年に Metasequoia glyptostroboides として正式記載・公表された。翌1948年には、アメリカの古植物学者ラルフ・チェイニーらが現地を訪問し、国際的に注目を集めた。化石属として記載された後に現生種が発見されるという経緯は植物学史上前例のない出来事であり、20世紀最大の植物学的発見の一つとして位置づけられている。
野生個体の自生地は中国湖北省利川市を中心とした湖北省・湖南省・重慶市の境界山岳地帯の極めて限られた地域に限定される。河川沿いや湿地に近い低地〜山麓の湿潤環境に生育し、個体数は野生では数千本程度と推定されており、IUCNレッドリストで絶滅危惧種(EN)に指定されている。
成長は非常に速く、日照を好む陽樹であるが、幼木期にはある程度の耐陰性も示す。水分条件の良い肥沃な土壌で旺盛に生長し、都市環境への適応性も高い。化石記録からは、白亜紀後期〜新第三紀にかけてメタセコイア属またはその近縁群が北半球の高緯度地域(北極圏を含む)に広く分布していたことが知られており、現在の局所的分布は氷期を含む気候変動と地史的過程による隔離遺存(レリクト)の結果と理解される。
落葉性針葉樹という性質は、冬季の低温・凍結時における水分ストレスおよび光合成停止期間への適応戦略と解釈される。葉は柔らかく比表面積が大きいため光合成効率が高い一方、耐久性は低く、季節的に更新される。
成長速度が顕著に速いことから、単位時間あたりの炭素固定量が高く、緑化・植林における炭素吸収樹種としても注目される。材は比較的軽軟で加工しやすいが、商業的な大規模利用は限定的である。
再発見後、種子・挿し穂が世界各国の植物園・研究機関に配布されたことで急速に普及した。日本においても1950年代以降に街路樹・公園樹として広く植栽され、各地で並木が形成されている。整った円錐形の樹形・鮮やかな新緑・秋の黄橙色の紅葉はいずれも観賞価値が高い。
野生個体の保全については、現地での保護区設定に加え、世界各地の植物園・樹木園における域外保全(ex situ conservation)が進められており、遺伝的多様性の維持が課題となっている。
メタセコイアが属するヒノキ科(Cupressaceae)は、かつてスギ科(Taxodiaceae)として分離されていたセコイア属・メタセコイア属・ラクウショウ属などを統合した広義の科であり、APG分類体系に基づく分子系統解析により現在の科の範囲が確定している。メタセコイア属はこの中でも形態的に独自性が高く、対生葉・落葉性・気根非形成という特徴の組み合わせにより他属と明確に区別される。
化石記録と現生種の形態の比較から、メタセコイア属の基本的形態が数千万年にわたりほとんど変化していないことが示されており、これが「生きている化石」と称される根拠である。本種は過去の地球の植生・気候環境の復元、および針葉樹の進化史を考察する上できわめて重要な証拠を提供する存在である。

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第2版:2026-04-22
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