ヤブラン

Liriope muscari.

ヤブラン[藪蘭]は, キジカクシ科ヤブラン属に属する常緑性多年草であり, 学名を Liriope muscari [Decne.] L.H.Bailey とする植物である.日本の林床や庭園に広く見られ, 観賞用・地被植物としても重要な役割を担う種である.別名をリリオペ・サマームスカリ・コウボウチャ・ノシメランなどといい, 英名は big blue lily-turf, 中国植物名は「禾葉土麦冬[かようどばくとう]」とされる.また, 古名は「ヤマスゲ[山菅]」であり, 万葉集にも登場するほど古くから日本人に親しまれている.

分類と系統

ヤブランは, かつては新エングラー体系・クロンキスト分類においてユリ科[Liliaceae]に含められていたが, 分子系統解析の進展により現在ではAPG分類体系に基づきキジカクシ科[Asparagaceae]に再分類されている.

キジカクシ科は単子葉植物の中でも多様な形態を持つグループであり, アジアを中心に広く観賞植物として知られる種を多く含む.ヤブラン属[Liriope]は東アジアを中心に約5種が知られ, 日本にはヤブラン・ヒメヤブラン[L. minor]・コヤブラン[L. spicata]の3種が自生する.近縁にはジャノヒゲ属[Ophiopogon]などがあり, これらは形態的に類似するが, 花序構造・果実の色・植物体のサイズなどにより区別される[詳細は「近縁種との比較」の節を参照].

形態的特徴

ヤブランは高さ30〜60cm程度に成長し[一般に30〜50cmとされることも多い], 株立ち状に群生する.根茎は短く木質で叢生し, 根はところどころ紡錘形に肥大する貯水器官を持ち, これが乾燥抵抗性および薬用利用に関わる[後述].

葉は根生し, 線形で細長く[長さ30〜60cm・幅7〜12mm], 11〜15本の葉脈を持つ.革質で光沢を有し, 濃緑色を呈する.先端は下垂し, 常緑性であり冬季にも葉を保持する.

花期は7〜10月[主に8〜10月]で, 葉の間から高さ30〜50cmの花茎を伸ばし, 淡紫色から紫色の小花を総状花序として多数つける.花は下方から順次開花し, 全体として穂状に見える.花被片は6枚で, 直径約8mm, 雄しべも6本.蝶形花にはならず, 各花被片はほぼ同形の開出した形状である.開花は午前10時頃に開き夕方には閉じ, 翌日は再び開かない一日花である.

果実については, 受精後, 果皮[種皮]が早い段階で破れて脱落し, 種子[正確には胚珠]がむき出しのまま成長するという特異な発達様式を持つ.そのため見かけ上は「果実」のように見えるが, 実際には種子が露出したものであり, 球形で直径約5〜7mmの光沢を持つ.熟すと緑色から黒紫色に変わり, 1つの花[子房]から通常2〜4個がかたまって育つ.

生態と分布

ヤブランは日本[主に関東以西の本州・四国・九州・沖縄]をはじめ, 朝鮮半島南部・中国・台湾に分布する.主に常緑樹林の林床や半日陰の環境に自生し, 林縁や明るい谷筋でも見られる.

根茎は短く, 根の肥大部が貯水器官として機能することで比較的乾燥にも耐えることができる.耐陰性が高く, 他の植物が生育しにくい暗い林床でも安定して生存できるため, 林床植物として重要な構成要素となる.

なお, 根茎を介したクローン的な株の拡大[叢生]と種子繁殖の両方によって群落を形成する.また根にはアレロパシー物質が含まれ, 一部の雑草の繁殖や成長を抑制する機能が知られており, 地被植物としての利用価値を高めている.

利用

園芸・造園利用

ヤブランは耐陰性・耐寒性・耐暑性に優れ, 管理が容易であることから, 庭園や公園の地被植物[グラウンドカバー]として広く利用される.日本庭園においては下草として配置されることが多く, 落ち着いた景観を形成する.なお耐踏圧性は低いため, 人通りのある場所への植栽には適さない.

園芸品種としては, 葉に黄色い縦縞が入る斑入りヤブラン['ゴールド・バンデッド' など]が最も広く流通しているほか, 白斑入り・白花品種なども存在し, 約20種の園芸品種が知られる.これらは花期以外にも観賞価値が高い.

薬用利用

ヤブランはその名の通り「藪に生え, 葉がランに似た植物」を意味するが, 実際にはラン科ではなく, 形態的な類似に基づく命名である.このような名称は, 日本における植物認識の民俗的側面を示す一例である.古名「ヤマスゲ[山菅]」として万葉集にも登場し, 古くから日本人に身近な植物であった.

また, 地方名も豊富であり, テッポウダマ[福島県]・ネコノメ[新潟県]・ジャガヒゲ[岐阜県]・インノシポ[鹿児島県]など, 各地で独自の呼称を持つことは民俗植物学的にも興味深い.

常緑であることから, 庭園においては「持続性」や「安定」を象徴する存在として扱われることもある.

近縁種との比較

ヤブランはしばしば近縁の植物と混同されるが, 以下の点で区別される.

総括

ヤブランは, キジカクシ科[旧ユリ科]に属する東アジア原産の常緑多年草であり, 耐陰性・耐乾性に優れた生態的適応を持つ植物である.根の紡錘形肥大部を持つ独特の形態, 種子が露出して「果実状」に見えるという特異な繁殖様式, 林床における安定した生育, 園芸・造園における高い利用価値, そして薬用植物としての「大葉麦門冬」という側面など, 多角的な観点から興味深い種である.また分類学的にはユリ科からキジカクシ科への再編という近年の変遷も特筆に値する.自然植生および人為環境の双方において重要な役割を担う植物である.

単子葉類>クサスギカズラ目

#クサスギカズラ目はキジカクシ目ともいう.

被子植物>単子葉類

#単子葉類[monocots]とは,被子植物のうちで,1枚の子葉を持つことを特徴とする植物の一群.単子葉類は,その大部分が草本であり,木本になるものは少数.根に関しては,主根が明確ではなくひげ根ばかりのものが多い.葉形は基本的に細長く,葉脈は平行脈であることも特徴.

参考文献 References

  1. 長谷部光泰(2021)「植物の進化」,『特別展「植物 地球を支える仲間たち」』,NHK・NHKプロモーション・朝日新聞社.
  2. 長谷部光泰(2020),『陸上植物の形態と進化』,裳華房.
  3. Stevens, P. F.(2001 onwards). Angiosperm Phylogeny Website. Version 14, July 2017 [and more or less continuously updated since]." , http://www.mobot.org/MOBOT/research/APweb/

Vita brevis, ars longa. Omnia vincit Amor.





















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