summary:
光トランスポンダの起源は,1980年代後半から1990年代初頭における光通信の普及と密接に関係している.当初の光通信ネットワークでは,ネットワーク機器間の接続は単一波長の光信号を用いていたが,急速に増大する通信トラフィックへの対応として,複数波長の光を同時に伝送する波長分割多重[WDM]技術が登場した.このWDMネットワークでは,各波長を光チャネルとして個別に制御・管理する必要が生じ,そのための中核技術として光トランスポンダが導入された.
初期の光トランスポンダは,主にネットワーク要素[ルーターやSONET/SDH装置など]と光伝送装置[DWDM/CWDMラインシステムなど]との間をつなぐ変換装置として使用された.この時期のトランスポンダは,受信側で光信号を電気信号に変換[O/E変換]し,電気的に信号再生処理を行った後,送信側で別の波長の光信号に再変換[E/O変換]するOEO[Optical-Electrical-Optical]型の構成を採用していた.そのため,物理的には光受信器と光送信器が一体化された構造をとっていた.
2000年代に入ると,より高密度かつ高速なDWDM[Dense Wavelength Division Multiplexing]システムの実現に伴い,光トランスポンダの技術も飛躍的に高度化した.特に,10Gbps,40Gbps,そして100Gbps以上の伝送速度への対応や,QPSK,16QAM,64QAMなどのコヒーレント変調技術が実用化されたことにより,トランスポンダは単なる波長変換装置から,高度な信号処理機能を備える装置へと発展した.これらの機能には,変調方式変換,FEC[Forward Error Correction]処理,クロック・データ回復[CDR],信号再整形,分散補償,偏波多重処理などが含まれる.これにより,異なるプロトコル[Ethernet,OTN,SONET/SDHなど]間の変換や,数百キロメートルから数千キロメートルに及ぶ長距離伝送に必要な信号品質の再生成も担うようになった.
さらに,2010年代後半以降,可搬性と統合性を高めたモジュラ型トランスポンダや,CFP[C Form-factor Pluggable],CFP2,CFP4,QSFP[Quad Small Form-factor Pluggable],QSFP28,QSFP-DD,OSFP[Octal Small Form-factor Pluggable]といった標準化されたフォームファクタに準拠した小型光トランスポンダが登場した.これらは,データセンター間接続[DCI],メトロネットワーク,アクセスネットワークにおいて高密度実装,低消費電力,ホットスワップ対応を実現するために重要な役割を果たしている.加えて,オープンオプティカルネットワークの潮流においては,ベンダー非依存型のトランスポンダが各種光ファイバシステムとの相互接続性を保証し,ネットワーク運用者の選択肢拡大に貢献している.
近年のトランスポンダは,高性能DSP[デジタル信号処理]チップによる高度な変調・復調制御,適応等化,リアルタイム性能監視を可能とし,ソフトウェアによる動的な構成変更にも対応している.これにより,伝送路条件に応じた最適変調方式の自動選択,帯域利用効率の最大化,トラフィックパターンに応じたダイナミックな帯域割り当てが可能となり,SDN[Software Defined Networking]やNFV[Network Function Virtualization]アーキテクチャとの統合が進んでいる.また,AI/ML[人工知能・機械学習]技術の導入により,予測的保守,自動障害復旧,性能最適化といった自律的運用機能も実現されつつある.
このように,光トランスポンダは,単なる信号変換装置から,インテリジェントな光ネットワーク制御要素へと変貌を遂げており,5G,クラウドコンピューティング,IoT時代における大容量・低遅延・高信頼性通信インフラの実現に不可欠な中核技術として位置付けられている.
Mathematics is the language with which God has written the universe.