確率測度

Difinition:

$\Omega$を標本空間[sample space]とし,$\mathcal{F}$を $\Omega$ 上の $\sigma$-加法族[$\sigma$-algebra]とする.このとき,測度空間 $(\Omega, \mathcal{F})$ において,関数 \[\mathbb{P} : \mathcal{F} \to [0, 1]\]が 確率測度[probability measure]であるとは,次の3条件をすべて満たすことをいう.
  • 非負性[Non-negativity]:任意の $A \in \mathcal{F}$ に対して,$\mathbb{P}(A) \geq 0$
  • 全体集合の測度が1[Normalization]:$\mathbb{P}(\Omega) = 1$
  • 可算加法性[Countable Additivity]:互いに素な集合列 $\{Ai\}{i=1}^\infty \subset \mathcal{F}$ に対して,$ \mathbb{P} \left( \bigcup_{i=1}^{\infty} Ai \right) = \sum{i=1}^{\infty} \mathbb{P}(A_i)$

確率測度は,確率論の数学的基礎を成す中核概念である.確率という概念は古くから人間の経験や賭博,天候予測などに用いられてきたが,これを数学的に厳密に定義し,理論体系を構築することは19世紀後半から20世紀前半にかけての重要な課題であった.従来の確率論はしばしば直感的であり,有限集合の等確率事象を中心に議論されてきたが,連続的な現象や可算無限集合を扱う際には不整合や曖昧さが生じやすかった.

この問題を根本的に解決したのが測度論の導入である.測度論は,集合に「大きさ」を割り当てる数学の分野であり,その代表的なものがルベーグ測度である.測度論を用いることで,確率を「測度の一種」として捉え,集合論的かつ解析的な方法で統一的に取り扱うことが可能となった.すなわち,標本空間と呼ばれる全事象の集合 $\Omega$ と,その上の $\sigma$-加法族と呼ばれる適切な集合族 $\mathcal{F}$ を定め,そこに確率測度と呼ばれる関数 $\mathbb{P} : \mathcal{F} \to [0, 1]$ を割り当てる.

確率測度は,コルモゴロフの公理として知られる3つの条件を満たす.第一に非負性であり,任意の事象 $A \in \mathcal{F}$ に対して $\mathbb{P}[A] \geq 0$ が成り立つ.第二に正規性であり,全事象の確率は1,すなわち $\mathbb{P}[\Omega] = 1$ である.第三に可算加法性であり,互いに素な事象列 ${A_i}{i=1}^\infty \subset \mathcal{F}$ に対して $\mathbb{P} \left[ \bigcup{i=1}^{\infty} A_i \right] = \sum_{i=1}^{\infty} \mathbb{P}[A_i]$ が成り立つ.これらの公理により,離散的・連続的な事象のいずれも統一的に扱うことができ,確率論の理論的基盤が確立された.

確率測度の重要性は,まず確率の概念を数学的に厳密化した点にある.これにより,確率変数,確率分布,期待値,条件付き確率などの基本的な概念が一貫した枠組みで定義可能となり,確率論の発展に大きく寄与した.さらに,確率測度の枠組みにより,大数の法則や中心極限定理といった基本的な極限定理を厳密に証明することが可能となった.また,この枠組みは確率過程やマルチンゲール理論,さらには統計学や金融工学,物理学における確率的モデルの構築に不可欠である.

確率測度から導かれる重要な性質として,有限加法性[互いに素な有限個の事象の和の確率は各確率の和に等しい],単調性[$A \subset B$ ならば $\mathbb{P}[A] \leq \mathbb{P}[B]$],補集合の性質[$\mathbb{P}[A^c] = 1 - \mathbb{P}[A]$]などが挙げられる.さらに,連続性の性質も重要であり,上昇列 $A_1 \subset A_2 \subset \cdots$ に対して $\mathbb{P}[\bigcup_{n=1}^\infty A_n] = \lim_{n \to \infty} \mathbb{P}[A_n]$ が成り立つ.

歴史的には,1933年にアンドレイ・コルモゴロフが著書『確率論の基礎』において確率の公理体系を提唱し,確率測度の概念を体系化したことが決定的な転機であった.彼の公理系は現在の確率論の標準的な基礎となっており,これ以前のラプラス,フェルマー,パスカル,ベルヌーイらの業績を数学的に完成させたといえる.コルモゴロフの理論は,チェビシェフ,マルコフ,リャプノフらロシア学派の先駆的業績に支えられているものの,彼が測度論的アプローチを導入して全体を体系的にまとめたことで,確率論は厳密な数学分野として確立した.

なお,確率測度の3条件[非負性,全体の測度が1,可算加法性]を公理として採用したものがコルモゴロフの公理である.

Mathematics is the language with which God has written the universe.





















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