Stirling's formula:
ここで,$n!$ は $1 \cdot 2 \cdot 3 \cdots n$ [階乗], $e$ は自然対数の底[約 2.71828], $\pi$ は円周率である.
スターリングの公式を導くには,まず階乗の定義をガンマ関数に置き換え[連続化],その後ラプラスの方法などの漸近解析手法を用いる.
階乗 $n!$ は自然数 $n$ に対し,\[n! = 1 \cdot 2 \cdot 3 \cdots n\]と定義される.これを連続変数に拡張したガンマ関数\[\Gamma(z) = \int_0^\infty t^{z-1} e^{-t} dt, \quad \Re(z) > 0\]により,\[n! = \Gamma(n+1) = \int_0^\infty t^n e^{-t} dt\]と表せる.
次に,大きな $n$ に対して $n!$ を近似する.すなわち,$n \to \infty$ の極限で\[n! \approx \sqrt{2 \pi n} \left(\frac{n}{e}\right)^n\]を導く.
まず,ラプラスの方法を適用する.積分を指数関数の形で書き換える\[I = n! = \int_0^\infty e^{n \log t - t} dt\]ここで,関数\[f(t) = \log t - \frac{t}{n}\]を定義し,積分を\[I = \int_0^\infty e^{n f(t)} dt\]の形にする.パラメータ $n$ は大きく,$f(t)$ の最大値付近が主な寄与点となる.
$f(t)$ の一階導関数は\[f'(t) = \frac{1}{t} - \frac{1}{n}\]これを0とおくと,\[f'(t) = 0 \implies \frac{1}{t} = \frac{1}{n} \implies t = n\]よって,$t=n$ は停留点である.
停留点が極大点かどうかは二階導関数で判断する\[f''(t) = - \frac{1}{t^2}\]従って,\[f''(n) = -\frac{1}{n^2} < 0,\]これは $t=n$ が極大点であることを示している.
続いて,テイラー展開による近似を行う.$t=n$ の近傍で $f(t)$ を2次まで展開する\[f(t) \approx f(n) + f'(n)(t-n) + \frac{f''(n)}{2} (t-n)^2\]但し,$f'(n)=0$ なので,\[f(t) \approx f(n) + \frac{f''(n)}{2} (t-n)^2 = f(n) - \frac{1}{2 n^2} (t-n)^2\]よって積分は\[I = \int_0^\infty e^{n f(t)} dt \approx e^{n f(n)} \int_{-\infty}^\infty e^{n \cdot \frac{f''(n)}{2} (t-n)^2} dt = e^{n f(n)} \int_{-\infty}^\infty e^{-\frac{(t-n)^2}{2 n}} dt\]積分区間を $(-\infty, \infty)$ に拡張したが,$n$ が大きいので誤差は無視できる.
ガウス積分の公式より,\[\int_{-\infty}^\infty e^{-\frac{x^2}{2 \sigma^2}} dx = \sqrt{2 \pi} \sigma,\]ここで $\sigma^2 = n$ より,\[\int_{-\infty}^\infty e^{-\frac{(t-n)^2}{2 n}} dt = \sqrt{2 \pi n}\]$f(n)$ を計算すると,\[f(n) = \log n - \frac{n}{n} = \log n - 1\]よって,\[e^{n f(n)} = e^{n (\log n - 1)} = n^n e^{-n}\]以上より,\[n! = I \approx \sqrt{2 \pi n} \, n^n e^{-n} = \sqrt{2 \pi n} \left(\frac{n}{e}\right)^n\]
スターリングの公式は,18世紀に登場した階乗関数の漸近近似であり,数学解析の歴史において重要な位置を占めている.もともと階乗は自然数のみに定義された離散的な関数であるが,これを大きな数に対して効率的に扱うためにはその増大の程度を把握することが不可欠であった.こうした背景のもとで,ジェームズ・スターリング(James Stirling)が1730年代に示したこの公式は,階乗の値を滑らかな関数で近似し,特に確率論や統計学,数論,物理学など広範な分野で応用される基礎的な道具となった.
スターリングの公式は,後にレオンハルト・オイラーによってガンマ関数の理論と結びつけられ,より一般的な連続拡張の観点から厳密に解釈されるようになった.オイラーの業績によって,階乗の連続的な延長が可能となり,解析関数としての階乗の理解が深化した.また,スターリングの公式は漸近解析の先駆けとしての役割も果たし,ラプラスの方法やサドル点近似などの手法と結びついて数学的な技術体系の発展に寄与した.
さらに,19世紀以降の確率論の発展,特に正規分布の中心極限定理の成立に際して,スターリングの公式は二項係数や多項係数の近似に不可欠なツールとして活用された.これにより離散的な確率分布の連続近似が可能となり,統計学の理論的基盤の確立に貢献した.
Mathematics is the language with which God has written the universe.