Definition:
このとき,集合 $B \in \mathcal{S}$ に対して次のように定める測度\[\mu_X(B) := \mathbb{P}\bigl(X^{-1}(B)\bigr) = \mathbb{P}(\{\omega \in \Omega \mid X(\omega) \in B\})\]を $X$ によるプッシュフォワード測度[pushforward measure],または,像測度[image measure]という.
$X^{-1}(B)$ は「その集合 $B$ に写る $\Omega$ 上の元[事象]の集合」である.式で書くと,\[X^{-1}(B) = \{\omega \in \Omega \mid X(\omega) \in B\}\]つまり, $B$ に含まれる値を $X$ が取るような「元の事象 $\omega$ の集合」を集めたものである.つまり,$\mathbb{P}(X^{-1}(B))$は, 「$\Omega$ 上で $X$ が $B$ に入る確率」を意味する.言い換えると, $\mu_X(B)$ は $B \subset S$ に対して「$X$ が $B$ に属する確率」を割り当てたものである.
この測度 $\mu_X$ は,確率変数 $X$ の分布を表しており,任意の可測関数 $g:S \to \mathbb{R}$ に対して,\[\mathbb{E}[g(X)] = \int_{\Omega} g(X(\omega))\,\mathrm{d}\mathbb{P}(\omega) = \int_S g(s)\,\mathrm{d}\mu_X(s)\]が成り立つ.
プッシュフォワード測度は,確率論や測度論において,ある可測空間から別の可測空間への測度の「押し出し」を表す概念である.簡潔に言うと,確率変数によって定義される確率分布を,元の確率空間から新しい空間へと移す手段として機能するものといえる.
プッシュフォワード測度は,確率変数の分布を新しい空間に移す際に非常に有用である.例えば,標準正規分布に従う確率変数 $Z$ を考え,$Z$ を線形変換することで新たな確率変数 $Y=aZ+b$ を得る場合,$Y$ の分布は$Z$ のプッシュフォワード測度として理解することができる.これにより,元の分布から新しい分布への変換が明確に定義され,計算や理論的解析が容易となる.
$\Omega = \{1,2,3,4,5,6\}$ はサイコロの出目の集合であり, 各面の確率は $\mathbb{P}(\{\omega\}) = \frac{1}{6}$ である.確率変数 $X$ をサイコロの出目そのものとすると, \[X(\omega) = \omega\]偶数の出目が出る場合を,\[B = \{2,4,6\} \subset S = \{1,2,3,4,5,6\}\]とする.
このとき,逆像は,\[X^{-1}(B) = \{\omega \in \Omega \mid X(\omega) \in B\} = \{2,4,6\}\]であり,「偶数が出る元の事象の集合」を表す.
プッシュフォワード測度は,\[\mu_X(B) = \mathbb{P}(X^{-1}(B)) = \mathbb{P}(\{2,4,6\}) = \frac{1}{6} + \frac{1}{6} + \frac{1}{6} = \frac{3}{6} = \frac{1}{2}\]となり,偶数が出る確率が $1/2$ であることを示す.
Mathematics is the language with which God has written the universe.