ツワブキ

概要

ツワブキは、キク科(Asteraceae)ツワブキ属(Farfugium)に属する常緑の多年草である。学名はFarfugium japonicum(L.)Kitam.。属名のFarfugiumは、同じキク科に属するフキタンポポ(Tussilago farfara)の古い呼称に由来するとされるラテン語である。和名のツワブキは、葉に艶があることから「艶葉蕗(つやはぶき)」と呼ばれたものが転じたとする説や、葉が厚いことから「厚葉蕗(あつはぶき)」に由来するとする説など、複数の語源説が伝えられている。海岸近くの岩場や崖など、潮風にさらされる環境にも生育する丈夫な植物で、初冬にほかの草花が花期を終えたころに鮮やかな黄色い花を咲かせることから、古くから庭園などにも植栽されてきた。若い葉柄は食用とされ、また民間薬としても利用されてきた身近な植物である。

形態的特徴

ツワブキは草丈20センチメートルから80センチメートルほどになる常緑多年草で、地下に太い根茎を持つ。葉はすべて根生し、ロゼット状につく。葉柄は長さ10センチメートルから38センチメートルに達し、基部は鞘状に広がる。葉身は腎形から円状腎形で、幅6センチメートルから30センチメートルほどになり、表面には特徴的な光沢があり、裏面には毛が密生する。若い葉は展開する前、内側に巻き込んだ握りこぶし状の姿で伸びてくる。

花期は10月から12月にかけてで、地域によっては春に咲くこともある。花茎を高く伸ばし、その先端に散房花序をつくって、直径4センチメートルから6センチメートルほどの黄色い頭花を複数個つける。頭花は、周辺部に一列に並ぶ雌性の舌状花と、中心部に集まる両性の筒状花とからなる、キク科に特徴的な構造を持つ。総苞は鐘形から広い筒形で、総苞片は2列に並ぶ。果実は痩果で、長さ6ミリメートルから7ミリメートルほどの円筒形をなし、表面には上向きの毛があり、タンポポの果実のような淡褐色の冠毛を伴って風で散布される。

分布と生態

ツワブキは、日本では本州(太平洋側では福島県以南、日本海側では石川県以南)、四国、九州、琉球諸島に分布し、国外では朝鮮半島南部、台湾、中国大陸の南部から中部にかけても見られる。主として海岸沿いの岩礫地や崖、海食崖の斜面など、潮の飛沫がかかるような塩分の影響を受ける立地に生育するほか、暖温帯の林床など日陰となる場所にも見られる。厚く光沢のある葉は、乾燥や塩分ストレスに耐えるための適応と考えられており、こうした強靭な葉によって、草本には過酷な海岸環境でも旺盛に生育することができる。日陰にも耐える一方で、生育地の光環境に応じて葉の大きさが変化することが知られており、林床など光の乏しい場所では葉が大型化し、日当たりのよい海岸部では葉が小型化する傾向がある。耐寒性にも優れ、日陰や潮風にも強い性質から、庭園や公園などにも広く植栽されている。

生理・化学的特徴

ツワブキの植物体には、ピロリジジンアルカロイドの一種であるセンキルキンをはじめとする各種のアルカロイドが含まれている。このほか、ベンゾフラン誘導体であるファルフギンA・Bや、ヘキセナールと呼ばれる香気成分、タンニン類なども含有することが知られている。ピロリジジンアルカロイドは肝臓に対して毒性を示し、過剰かつ継続的に摂取した場合には肝障害を引き起こすおそれがある。この成分はもともと、植物が捕食者から身を守るために生合成し、体内に蓄積したものと考えられている。ピロリジジンアルカロイドは熱に対して比較的安定であるため、加熱調理のみでは分解されにくく、若い葉柄を食用とする際には、重曹などを用いたあく抜きによって水溶性であるこの成分を除去する下処理が必要とされる。一方で、ツワブキの葉に多く含まれるヘキセナールには抗菌作用が、根茎の成分には健胃作用があることが伝統的に知られており、抗炎症作用についても報告がある。

人との関わり

ツワブキは、古くから山菜として利用されてきた植物であり、開葉前の若い葉柄を、あく抜きをしたうえで煮物や炒め物、佃煮などに調理して食べる食文化が各地に伝わっている。特に大型の変種であるオオツワブキの葉柄は、塩漬けにして食用とする習慣が九州の一部地域に残っている。薬用としても重要視されており、根茎を乾燥させた生薬は「橐吾(タクゴ)」と呼ばれ、健胃や食あたり、下痢などに用いる煎じ薬として利用されてきた。また、生の葉を火にあぶって柔らかくしたものを、打撲や腫れ物、切り傷などの患部に貼る外用の民間療法も各地で伝えられている。中国では「大呉風草(ダイゴフウソウ)」と呼ばれ、生薬名は「蓮蓬草(レンホウソウ)」とされる。観賞面では、葉に斑が入る品種や葉が縮れる品種、小型の品種などさまざまな園芸品種が古くから作出され、庭園や鉢植えとして親しまれている。地方名も多く、ツヤブキ、イシブキ、イソブキ、ツワなど、生育地の各地でさまざまな呼び名を持つ。

系統的位置と進化的特徴

ツワブキは、真正双子葉類の中でも、コア真正双子葉類、スーパーアステリッド類、そしてキク類(アステリッド類)へと連なる系統群に属し、この系統群の中のキク目(Asterales)キク科(Asteraceae)に分類される。キク科の中では、キク亜科(Asteroideae)のキオン連(Senecioneae)、さらにその下位のタクゴ亜連(Tussilagininae)に位置づけられ、その下にツワブキ属(Farfugium)、種としてのツワブキ(Farfugium acetosa)ならぬFarfugium japonicumが置かれる。ツワブキ属はわずか2種のみからなる小さな属で、ツワブキ(Farfugium japonicum)と、屋久島・種子島に分布するカンツワブキ(Farfugium hiberniflorum)から構成される。両種は形態的・分子系統学的に近縁でありながら、生育環境の違いに応じて分化してきたと考えられている。

葉緑体ゲノムを用いた分子系統解析では、ツワブキはメタカラコウ属(Ligularia)に含まれる種群と単系統群を形成し、両者はさらにペリカリス属(Pericallis)やセネシオ属(Senecio)を含む単系統群と姉妹群の関係にあることが示されている。ツワブキ属内部では、日本列島から台湾、中国南部にかけての琉球弧状の分布域に沿って、生育環境の違いに応じた葉形の多様化が生じたことが知られており、林床の日陰に生育する集団では大型で薄い葉が、日当たりのよい海岸部に生育する集団では小型で厚い葉が発達するなど、生態的な分化と形態進化との関わりを示す好例として、系統地理学的な研究の対象ともなっている。


第2版:2026-07-15.

Vita brevis, ars longa. Omnia vincit Amor.





















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