
クコ(Lycium chinense Mill.)は、ナス科(Solanaceae)クコ属(Lycium)に属する落葉低木である。中国名は「枸杞」であり、この漢名がそのまま日本語の音読みとなって「クコ」という和名が定着した。中国大陸を中心とする東アジアを原産地とし、日当たりのよい河川の土手や荒れ地、海岸近くの低地などに生育する。半つる性の枝を伸ばし、夏から秋にかけて淡紫色の小さな花を咲かせ、晩秋には鮮やかな赤色の果実を結ぶ。葉・果実・根皮のいずれもが古くから食用や薬用に利用されてきた有用植物であり、特に近年では果実が「ゴジベリー」の名で世界的な人気を集めるなど、日本国内にとどまらず広く親しまれている植物である。
クコは、樹高0.5メートルから2メートルほどになる落葉低木で、幹は直立せず、細くしなやかな枝が弓状に湾曲したり、垂れ下がったりしながら伸びる。枝は多数分枝し、葉腋や枝先には棘状の短枝が発達する。葉は互生するか、あるいは節に束生してつき、卵形から菱形、長楕円形、披針形など変異に富んだ形を示すが、いずれも全縁で柔らかく、無毛である。葉の長さは1.5センチメートルから5センチメートルほどである。
花期は主に8月から9月頃で、地域によっては晩秋にまで及ぶ。短枝の葉腋に、淡紫色または白色を帯びた小さな花を1個から3個ほどつける。花冠は漏斗状で先端が5裂し、裂片の縁には細かい毛が生えている。萼は鐘形で、深く3裂から5裂する。果実は液果で、卵形から長楕円形をなし、晩秋に鮮やかな赤色に熟す。この赤い果実と、しなやかに垂れ下がる枝ぶりの対比が、クコの外観上の大きな特徴となっている。
クコは、日本では北海道を除く本州から四国、九州、沖縄にかけて分布し、国外では朝鮮半島、中国、台湾など東アジアの広い範囲に自生する。日当たりのよい河川の土手や溝縁、荒れ地、海岸近くの低地といった、人為的な攪乱を受けやすい開けた環境を好んで生育する小型の落葉低木である。半つる性の性質を持つ枝は、周囲の構造物や他の植物にもたれかかるようにして広がり、密な藪を形成することも多い。栽培が比較的容易で、挿し木によっても容易に増やすことができるため、薬用や食用を目的として古くから人里近くで栽培され、それが野生化して定着した個体も各地に見られる。
クコは、植物体の部位ごとに異なる化学成分を蓄積することが知られている。葉には、アルカロイドの一種であるベタインのほか、ベータ・シトステロールグルコシドやフラボノイドの一種であるルチン、ビタミンB1・B2・Cなどが含まれ、毛細血管を強化する作用があるとされる。果実には、ベタインに加えて、カロテノイドの一種であるゼアキサンチンが豊富に含まれており、この鮮やかな赤い色調の一因となっている。根皮には、ベタインのほか、ケイ皮酸やシトステロール、リノール酸、そしてクコアミンAと呼ばれるアルカロイドなどが含まれることが知られている。これらの成分の組み合わせが、伝統的に滋養強壮薬として珍重されてきた薬理学的背景になっていると考えられている。なお、クコの果実は、血液凝固に関わる医薬品の作用に影響を与える可能性が指摘されており、他の薬剤との相互作用には注意が必要とされている。
クコは、植物体のほぼ全ての部位が生薬として利用される点が大きな特徴である。果実は「枸杞子(クコシ)」、根皮は「地骨皮(ジコッピ)」、葉は「枸杞葉(クコヨウ)」と、それぞれ独立した生薬名を持ち、いずれも日本薬局方に収載されている。採取される部位によって呼び名は異なるものの、いずれも滋養強壮薬としての効用を持つとされ、しばしば組み合わせて用いられてきた。葉は初夏から夏にかけて、果実と根皮は秋に採取し、水洗いしたのち天日で乾燥させて生薬に仕上げる。食用としても親しまれており、春先の若葉は「枸杞飯」などに用いられる山菜として、また果実は乾燥させたドライフルーツとして食されるほか、氷砂糖とともに焼酎に漬け込んだ「枸杞酒」としても利用される。なお、近縁種であるナガバクコ(Lycium barbarum)も同様に食用・薬用に供され、両種はしばしば同じ用途で扱われる。
クコは、真正双子葉類の中でも、コア真正双子葉類、スーパーアステリッド類、キク類(アステリッド類)、さらにシソ類へと連なる系統群に属し、この系統群の中のナス目(Solanales)ナス科(Solanaceae)に分類される。ナス科の中では、ナス亜科(Solanoideae)のクコ連(Lycieae)に位置づけられ、その下位にクコ属(Lycium)、種としてのクコ(Lycium chinense)が置かれる。クコ連は、クコ属と、南米に分布するグラボウスキア属(Grabowskia)の2属からなる小さな連であり、いずれも乾燥地から半乾燥地に適応した棘を持つ低木を含む系統群である。
クコ属は世界に約80種を含み、南北アメリカ大陸、アフリカ、ユーラシア大陸にまたがる不連続な分布を示す点が特徴的である。分子系統学的な研究では、クコが同属のナガバクコやクロクコ(Lycium ruthenicum)と近縁な系統を形成することが示されており、これらはいずれも東アジアを中心に分化した一群として位置づけられる。クコ属全体に共通する棘の発達や、乾燥・半乾燥環境に適応した生活史特性は、この属が世界各地の乾燥地帯へと独立に分布を広げていく過程で、複数の大陸において収斂的に獲得されてきた可能性が指摘されており、被子植物の乾燥適応の進化を考える上でも興味深い系統群である。
第2版:2026-07-15.
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