チコリ

概要

チコリ(Cichorium intybus L.)は、キク科(Asteraceae)キクニガナ属(Cichorium)に属する多年草である。和名はキクニガナ(菊苦菜)といい、これはキク科植物でありながら独特の苦味を持つことに由来する。ヨーロッパから西アジア、北アフリカにかけての地域を原産地とし、現在ではユーラシア大陸や北アメリカ大陸にまで広く帰化している。爽やかな青色の頭花を咲かせることでも知られ、キク科の花としては珍しい色調を持つ。若葉や根、花に至るまで植物体のほぼ全ての部位が利用されており、サラダ野菜として、また根を焙煎したコーヒー代用品として、ヨーロッパを中心に古くから食文化に組み込まれてきた有用植物である。

形態的特徴

チコリは、草丈40センチメートルから150センチメートルほどになる、やや木質化する多年草である。地下には、サツマイモを思わせる太く長い直根が発達し、この根に多量の貯蔵多糖類を蓄える。茎はまばらに分枝し、節ごとに多少屈曲しながら伸び、茎にも葉にも毛が生えることが多い。葉は楕円形で、下方につく葉ほど深く羽状に切れ込む。

花期は初夏から秋にかけてで、枝の葉腋や先端に頭花を単生またはまばらにつける。頭花は舌状花のみからなり、直径3センチメートルから4センチメートルほどの明るい青色を呈し、まれに白色や淡紅色を帯びる個体も見られる。花は一日花であり、朝早くに開花し、昼頃には閉じてしまうという繊細な性質を持つ。

分布と生態

チコリは、ヨーロッパ北部からシベリア、北アフリカにかけての地域を原産地とし、石灰岩質の草地や耕作地、道端など、日当たりのよい開けた環境に自生する。古くから野菜として各地で栽培されてきたことに伴い、栽培地から逸出した個体がユーラシア大陸の広い範囲や北アメリカ大陸、オーストラリアにまで帰化し、道端や荒れ地に定着している。日本国内でも観賞用や食用として導入された例はあるが、野生化した個体や本格的な露地栽培はまだそれほど多くは見られない。丈夫な直根を持つことから、乾燥した貧栄養の土地でも生育できる強健な性質を持ち、牧草として家畜の飼料に利用されることもある。

生理・化学的特徴

チコリの根には、貯蔵多糖類の一種であるイヌリンが豊富に含まれており、生の根における含有量は重量比でおよそ13パーセントから23パーセントに達するとされる。イヌリンはキク科植物に広く見られる貯蔵糖質であり、砂糖のおよそ10分の1程度の甘味を持つとともに、水溶性食物繊維としての機能を持つことから、近年では食品加工の分野でも注目されている成分である。

チコリ特有の苦味は、主にインティビンと呼ばれる化合物によってもたらされる。この苦味成分には、セスキテルペンラクトン類であるラクチュシンとラクチュコピクリンという2種類の化合物が含まれており、これらがチコリの葉や根に共通する苦味の中心的な担い手となっている。このほか、ポリフェノールの一種であるチコリ酸やクロロゲン酸、カフェ酸などのヒドロキシケイ皮酸類、エスクリンやチコリンなどのクマリン類も含まれており、これらの成分が抗酸化作用や抗炎症作用など、多様な生理活性を持つと考えられている。

人との関わり

チコリは、植物体のさまざまな部位が食用や薬用として利用される、利用価値の高い野菜である。若葉はサラダとして、花はサラダの彩りや砂糖漬けに、つぼみはピクルスに利用される。特に有名な利用法として、1月から2月頃に太い根を掘り出し、暗室で軟白栽培することによって作られる「シコン」がある。これはハクサイの芯を思わせる紡錘形の若芽で、一枚ずつ葉をはがしてサラダやオードブルに用いられるほか、ブイヨンで蒸し煮にしたり、バターでソテーしたりして食べられる。根はまた、刻んで焙煎し、粉末にすることでカフェインを含まないコーヒー代用品として利用されており、ヨーロッパでは古くから消化促進や強壮作用を期待して飲用されてきた。薬用としては、根や葉が肝臓機能の補助や利尿、緩下作用を目的として民間薬に利用されてきた歴史も持つ。近縁種にはエンダイブ(Cichorium endivia)があり、両種はしばしば混同されるが、それぞれ独立の栽培植物として発達してきた。

系統的位置と進化的特徴

チコリは、真正双子葉類の中でも、コア真正双子葉類、スーパーアステリッド類、キク類(アステリッド類)、さらにキキョウ類へと連なる系統群に属し、この系統群の中のキク目(Asterales)キク科(Asteraceae)に分類される。キク科の中では、頭花が舌状花のみからなり、植物体に乳液を分泌する組織を持つタンポポ亜科(Cichorioideae)のタンポポ連(Cichorieae)に位置づけられ、その下位のキクニガナ亜連(Cichoriinae)、そしてキクニガナ属(Cichorium)、種としてのチコリ(Cichorium intybus)が置かれる。

タンポポ連には、チコリのほかにタンポポ属(Taraxacum)やレタス属(Lactuca)、ノゲシ属(Sonchus)などが含まれ、いずれも乳液を分泌する組織の発達や、舌状花のみからなる頭花構造を共有する単系統群を形成している。この連に共通するセスキテルペンラクトン類の生合成能力は、チコリに見られる苦味成分インティビンの獲得とも関連しており、乳液や苦味物質による食害からの防御という生態的な機能が、この系統群における重要な進化的形質として位置づけられる。チコリ属自体は6種ほどからなる小さな属であり、栽培化の過程で、葉を利用する系統と根を利用する系統とが人為選抜によって分化してきた点も、この植物における栽培化と進化の関わりを示す興味深い事例となっている。


第2版:2026-07-15.

Vita brevis, ars longa. Omnia vincit Amor.





















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