
ハゲイトウ(葉鶏頭、Amaranthus tricolor)は、ナデシコ目(Caryophyllales)ヒユ科(Amaranthaceae)ヒユ属(Amaranthus)に属する一年草である。南アジアから東南アジアにかけての熱帯地域を原産とし、葉が緑・黄・赤・紫などの鮮やかな色彩に彩られることから、観賞用の花壇植物として世界各地で栽培される一方、原産地周辺の地域では古くから葉菜として食用にも供されてきた。英名では「ジョセフス・コート」と呼ばれ、これは旧約聖書に登場するヨセフが父から贈られた「色とりどりの上着」に由来する呼称である。
本種は直立した草姿を示す一年草であり、草丈はおおむね30センチメートルから150センチメートル程度に達する。茎は太く、しばしば分枝する。葉は互生し、卵形から披針形を呈し、品種によって緑色を基本としながら黄色、橙色、紅色、紫色などの斑や覆輪状の模様が加わり、特に茎頂に近い上部の葉ほど鮮やかに発色する傾向がある。花は小型で目立たず、葉腋に密集した穂状花序または球状の花序を形成する点はヒユ属に共通する特徴である。観賞価値の中心はもっぱら葉の色彩にあり、花そのものが鑑賞対象となることは少ない。
ハゲイトウは南アジアないし中国南部を原産地とすると考えられており、現在では熱帯から亜熱帯、さらには温帯の一部に至るまで広く栽培・帰化している。ネパールやチベットのような比較的冷涼な地域でも生育可能であることが報告されており、高温と強い日照を好む一方、乾燥や貧栄養な土壌、酸性土壌や塩類集積地に対しても高い耐性を示す。光合成様式としてはC4型光合成を行う種であり、これは高温多照な環境下での高い生産性と乾燥耐性を支える生理的基盤となっている。生育は旺盛で種子繁殖により容易に更新するため、栽培域周辺では逸出して野生化する個体も見られる。
ハゲイトウの葉に見られる鮮やかな色彩は、ベタレイン色素によって生み出される。ベタレインは赤色から紫色を呈するベタシアニンと、黄色を呈するベタキサンチンに大別される天然の抗酸化色素であり、ナデシコ目に特徴的に見られる色素群である。近年の遺伝子発現解析により、色素生合成に関わる遺伝子であるCYP76AD1の発現量が赤葉品種で高まっていることが示されており、品種間の色彩の違いに色素合成経路の発現制御が関与していることが分子レベルで明らかにされつつある。葉には抗酸化性を持つこれらの色素に加えて、ビタミンやミネラル分も豊富に含まれることが知られている。
ハゲイトウは観賞用の花壇植物として広く親しまれる一方、原産地であるアジアの熱帯・亜熱帯地域では若い葉や茎を食用とする葉菜として日常的に利用されている。中国では「シェンツァイ」と呼ばれ炒め物として、インドでは「タンパラ」などと呼ばれ豆料理に加えられ、カリブ海地域では「カラルー」と呼ばれるスープの材料として用いられるなど、地域ごとに異なる呼称と調理法で食文化に根付いている。また伝統的な中国医学においては、発熱や咽頭痛、下痢などに対する民間薬としても用いられてきた歴史を持つ。日本においても切り花や花壇苗として観賞用に流通しており、秋にかけて葉色が一段と鮮やかになることから、季節の彩りを添える植物として親しまれている。
ハゲイトウは真正双子葉類(Eudicots)に属し、ナデシコ目ヒユ科ヒユ属(Amaranthus)に分類される。ヒユ属はおよそ70種前後を含む大きな属であり、葉菜として利用される種、種子を穀物として利用する種、そして雑草性の野生種という3つの生態群に大別される。本種はこのうち葉菜群を代表する種であり、観賞用の色彩変異に富む品種群が特に発達している点で、同属の中でも独自の栽培化の道をたどってきたといえる。ヒユ科全体は、かつて独立の科として扱われていたアカザ科(Chenopodiaceae)を包含する形で再編されており、C4型光合成の獲得や、ベタレイン色素の生合成能力の獲得といった形質は、ナデシコ目内で複数回にわたり収斂的に進化した派生形質として、系統進化上重要な位置づけを与えられている。
第2版:2026-07-21.
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