クスノキ

概要

クスノキ(樟、Camphora officinarum Boerh. ex Fabr.)は、クスノキ目(Laurales)クスノキ科(Lauraceae)に属する常緑高木である。中国南部、台湾、ベトナム、朝鮮半島南部、そして日本の本州以南を原産地とし、樹全体に特有の芳香を放つことで古くから知られてきた。特に材や葉から得られる精油は、防虫剤や医薬品原料として利用されてきた樟脳(カンフル)の主要な原料であることから、和名も「樟(くす)」の字を当てられている。本種はかつてクスノキ属(Cinnamomum)に分類され、Cinnamomum camphora(L.)J.Preslの名で広く知られてきたが、2022年に発表された分子系統学的研究によりクスノキ属が多系統群(ポリフィレティック)であることが判明し、独立して復活したカンフォラ属(Camphora)に移されて現在の学名が用いられるようになった経緯を持つ。

形態的特徴

クスノキは樹高20メートルから30メートルに達する大型の常緑高木であり、幹は太く、樹皮は縦に深い割れ目を生じる。葉は互生し、卵形から楕円形で先端がやや尖り、光沢のある濃緑色を呈する。葉の基部近くから三本の主脈が明瞭に分岐する三行脈(さんこうみゃく)と呼ばれる脈相を示す点が、クスノキ科の植物に広く共通する特徴のひとつである。葉をもむと強い樟脳臭を放つことも特徴的である。花は春から初夏にかけて咲き、黄白色で小さく目立たない。果実は液果であり、秋に黒紫色に熟す。樹形は広く枝を張る傘状となり、大木になるほど風格のある姿を示すことから、巨樹として文化財に指定される個体も少なくない。

分布と生態

クスノキは中国南部から台湾、ベトナム北部、朝鮮半島南部、そして日本の関東以西の本州、四国、九州、沖縄にかけて分布し、暖温帯から亜熱帯の照葉樹林帯を代表する樹種のひとつである。温暖な気候と十分な湿度を好み、丘陵地や社寺林、河畔などに巨木として生育する例が多い。萌芽力が強く、伐採されても切り株から新たな芽を出して再生する性質を持つ。また移植や刈り込みにも比較的強いことから、街路樹や公園樹としても広く植栽され、原産地以外の温暖な地域にも人為的に導入されて帰化している事例が世界各地で報告されている。

生理・化学的特徴

クスノキの生理化学的特徴として最も顕著なのは、樹体全体にテルペノイド系の揮発性化合物、とりわけ二環式のモノテルペンケトンである樟脳(カンフル)を高濃度に蓄積する点である。樟脳をはじめとするこれらの精油成分は、樹木を食害する昆虫や病原菌に対する防御物質として機能していると考えられている。近年のゲノム解析により、本種を含むクスノキ目の系統では、進化の過程で少なくとも二回の全ゲノム重複が生じたことが明らかにされており、この重複がテルペン合成酵素遺伝子群の多様化を促し、多彩なモノテルペンおよびセスキテルペンの生成能力の獲得につながったと考えられている。

人との関わり

クスノキは、材や葉から水蒸気蒸留によって得られる樟脳が、防虫剤、防腐剤、医薬品原料として古くから広く利用されてきたことで知られる。特に近代以前の日本や台湾では、樟脳の生産が重要な輸出産業のひとつとなっていた歴史を持つ。材は緻密で狂いが少なく独特の芳香を持つことから、家具材や彫刻材としても珍重されてきた。また巨木に成長し長寿であることから、日本各地の神社や寺院の境内には御神木として祀られる個体が数多く存在し、天然記念物に指定されている巨樹も少なくない。街路樹や公園樹としても広く植栽され、都市の緑化樹種としても重要な位置を占めている。

系統的位置と進化的特徴

クスノキはモクレン類(Magnoliids)に属し、真正双子葉類にも単子葉類にも含まれない、被子植物の初期に分岐した系統群のひとつを構成する。クスノキ目クスノキ科カンフォラ属(Camphora)に分類される。カンフォラ属は、2022年の分子系統学的研究によって旧来のクスノキ属(Cinnamomum)が非単系統群であることが示されたことを受けて再編された属であり、互生し羽状脈または弱い三行脈を持つ一群が本属に、対生ないし亜対生し明瞭な三行脈を持つ一群が狭義のクスノキ属に、それぞれ分けられている。クスノキ科は本属のほか、ゲッケイジュ属(Laurus)やアボカドを含むペルセア属(Persea)などを含む、熱帯・亜熱帯を中心に分布する経済的にも重要な科である。ゲノム解析に基づく系統研究により、モクレン類は真正双子葉類とより近い共通祖先を持ち、単子葉類とはやや離れた系統関係にあることが示されている。


初版:2006-08-20.写真は京都は東山の青蓮院の門前にあるもの[2006.08.20撮影].12世紀末に親鸞上人によって植えられたものと伝わる.しかし,青蓮院が現在の地に移転してきた13世紀以降のものと考えられている.いづれにしても凄い.
第2版:2026-07-21.

Vita brevis, ars longa. Omnia vincit Amor.





















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