
ゲンノショウコ(Geranium thunbergii Siebold et Zucc. ex Lindl. et Paxton)は、フウロソウ科(Geraniaceae)フウロソウ属(Geranium)に属する多年草である。日本各地の野山や道端に普通に見られる草本で、古くから下痢止めの民間薬として利用されてきたことから、「服用すればただちに効果が現れる証拠」という意味で「現の証拠」の名が与えられたとされる。ドクダミ、センブリと並んで日本の三大民間薬の一つに数えられる代表的な薬草である。
茎は地を這うように伸びるか、あるいは斜めに立ち上がり、全体に下向きの毛を密生する。草丈はおおむね30から50センチメートルに達する。葉は対生し、掌状に3から5裂する切れ込みを持ち、縁には粗い鋸歯が見られる。花期は7月から10月にかけてで、直径1から1.5センチメートルほどの五弁花をつける。花色には地域差があり、西日本では紅紫色、東日本では白色または淡紅色の花が多く見られる傾向があるが、この分布傾向には例外も多い。雄しべは10本、葯は暗紫色を呈する。
果実は蒴果で、成熟すると5つの分果に分かれ、下部から上方へ向かって外側に反り返りながら種子を弾き飛ばす特徴的な形態を示す。この裂開の様子が神輿の屋根の形に似ることから、ミコシグサという別名でも呼ばれる。
日本国内では北海道から九州まで広く分布し、国外では朝鮮半島、中国、台湾にも分布が知られる。日当たりの良い道端、畑の畦、草地、林縁など、比較的人里に近い環境に生育することが多く、攪乱を受けた立地にもよく適応する。多年生の宿根草として、地下茎あるいは根株で越冬し、春に新葉を展開する生活史を持つ。
全草にタンニン類を豊富に含むことが古くから知られており、代表的な成分として加水分解型タンニンの一種であるゲラニインが挙げられる。このほかケルセチンなどのフラボノイド配糖体や没食子酸誘導体も含有する。これらのタンニン成分が持つ収斂作用が、腸粘膜を引き締めて水分の過剰な分泌を抑える働きをもたらすと考えられており、下痢に対する効果の薬理学的な裏付けとされている。乾燥させた全草を煎じて服用する用法が伝統的に行われてきた。
ゲンノショウコは日本の民間医療において最も広く親しまれてきた薬草の一つであり、江戸時代以前から整腸剤として用いられてきた記録が残る。特に下痢や便秘といった腸の不調に対して用いられることが多く、その効果の速さと確実さが和名の由来になったとされる説が広く知られている。現在でも生薬として流通し、煎じ薬や民間薬の原料として利用が続けられている。地方によってはタチマチグサ、イシャイラズといった異名でも呼ばれ、日常生活に根付いた薬草としての位置づけがうかがえる。
ゲンノショウコは真正双子葉類のうちバラ類に含まれるフウロソウ目(Geraniales)フウロソウ科(Geraniaceae)に位置づけられる。フウロソウ目はバラ類の中でも比較的初期に分岐した系統の一つとされるが、他のバラ類との具体的な姉妹群関係については研究間で見解が分かれており、フトモモ目(Myrtales)と近縁とする分子系統解析結果が複数報告されている一方、その支持率は必ずしも高くなく、いまだ確定的な結論には至っていない。フウロソウ属は雄しべが10本、心皮が5個からなる子房を持ち、成熟した果実が基部から裂開して種子を弾出する特徴的な散布様式を発達させた点で、フウロソウ科内でも際立った適応形質を示す群である。
第2版:2026-07-23.
Vita brevis, ars longa. Omnia vincit Amor.