
エンジュ(Styphnolobium japonicum(L.)Schott)は、マメ科(Fabaceae)エンジュ属(Styphnolobium)に属する落葉高木である。中国中部から南部を原産地とし、古くから中国、朝鮮半島、日本へと植栽が広がり、寺社や街路樹として植えられてきた歴史を持つ。かつてはクララ属(Sophora)に含められ、Sophora japonica Linnaeusの学名で長く扱われてきたが、形態・化学成分・分子系統データに基づく再検討の結果、現在は独立したエンジュ属に分類されている。
樹高は15から25メートルに達する落葉高木で、樹皮は暗灰色を呈し、縦に浅い裂け目が入る。葉は互生し、奇数羽状複葉で、小葉は7から17枚前後をつける。小葉は卵形から狭卵形で、裏面には伏毛が見られる。花期は7月から8月にかけてで、枝先に大型の円錐花序を垂れ下げるようにつけ、蝶形花冠を持つ淡黄白色の小花を多数咲かせる。果実は豆果であるが、一般的なマメ科植物のような扁平な莢とは異なり、種子の間がくびれて数珠状にくびれた念珠状の形態を示す点が特徴的である。この果実は肉質で多汁質を帯び、成熟しても裂開しにくい性質を持つ。
原産地は中国中部から南部にかけての地域とされ、古くから朝鮮半島や日本に導入されて各地に植栽されてきた。日本では自生種というよりも植栽由来の樹木として、社寺境内、公園、街路樹などに広く見られる。生育環境としては日当たりの良い肥沃な土壌を好み、耐寒性、耐暑性ともに比較的強く、都市環境における街路樹としての適性も高い。花期には多数の昆虫を誘引する蜜源植物としての側面も持つ。
エンジュの花蕾には、フラボノイド配糖体の一種であるルチンが高濃度に含まれることで知られ、開花前の蕾を乾燥させたものは生薬「槐花(かいか)」として、また成熟した果実は「槐角(かいかく)」として、それぞれ伝統医学における止血薬や血圧降下作用を持つ薬材として利用されてきた。このほか、キノリチジンアルカロイド類の存在も報告されており、近縁属であるクララ属との化学的な類縁性を示す一方で、両属を区別する分類形質としても注目されてきた成分群である。
エンジュは東アジアにおいて古くから縁起の良い樹木として尊ばれ、中国では学問や高位官職の象徴とされ、科挙合格を願って庭園や邸宅に植えられた歴史を持つ。日本でも社寺の境内木として植栽される例が多く、家門の繁栄や出世を祈念する樹木としての意味合いを担ってきた。材質は緻密で粘りがあり、大工道具の一つである釿(ちょうな)の柄などに利用されてきた実用面での価値も持つ。花蕾に含まれるルチンは、今日でも医薬品や健康食品の原料として工業的に利用されている。
エンジュは真正双子葉類のうちバラ類に含まれるマメ目(Fabales)マメ科(Fabaceae)に位置づけられる。マメ科の中ではマメ亜科(Faboideae)に属し、さらにソフォラ連(Sophoreae)およびクラドラスティス群(Cladrastis clade)と呼ばれるまとまりに含まれることが分子系統解析によって示されている。エンジュ属はかつて広義のクララ属に統合されていたが、根粒菌との共生関係を欠く点や、キノリチジンアルカロイドの組成の違いなど、形態・生理・分子データの複数の証拠に基づいて独立した属として再定義された経緯を持ち、マメ科における属レベルの分類が形態のみならず共生様式や化学成分を含む多面的な形質によって再検討されてきた好例といえる。
第2版:2026-07-23.
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