オオツルボ

概要

オオツルボ(Scilla peruviana L.)は、キジカクシ科(Asparagaceae)ツルボ属(Scilla)に属する球根性の多年草である。地中海西部を原産地とし、初夏に球状の花序へ多数の星形の花を密につける観賞価値の高い植物として、世界各地で栽培されている。

本種の種小名「peruviana」はラテン語で「ペルーの」を意味するが、実際には南米ペルーとは無縁である。十六世紀の植物学者カロルス・クルシウスが、アントウェルペンの庭園で栽培されていた本種を「Peru」と称される船で運ばれてきたものと誤認し、あるいは類似の誤解に基づいて命名した経緯があり、この誤称がそのままリンネによる正式な学名に採用され、今日まで用いられ続けている。

形態的特徴

オオツルボは、直径六から八センチメートル程度の球根を持ち、球根は褐色の鱗片に覆われている。葉は線形で、長さ二十から六十センチメートル、幅一から四センチメートルに達し、一株あたり五枚から十五枚程度が春先に根生する。

花茎は高さ十五から四十センチメートルほどに直立し、その先端に円錐形から半球形をなす密な総状花序を形成する。一つの花序には四十個から百個ほどの星形の花が集まってつき、花色は青紫を基調とし、個体によっては淡青色から濃紫色まで幅がある。各花は六枚の花被片を持ち、花被片の中央には濃色の脈が入ることが多い。開花期には花序全体が球状に膨らんで見えることが、本種の和名「オオツルボ」や英名「Cuban lily」などの由来ともなっている。

分布と生態

本種は、イベリア半島(ポルトガル、スペイン)、イタリア南部、および北西アフリカ(モロッコ周辺)を中心とする地中海西部沿岸域に自生する。石灰岩質の岩場や崖地、開けた草地など、排水の良い乾燥した環境を好んで生育する。

生態的には典型的な地中海性気候への適応を示し、冬季に生育して緑葉を展開し、春に開花した後、夏の乾燥期には地上部を枯らして休眠する冬生育型の球根植物である。この生活環は、夏に高温乾燥となり冬に降雨が集中する地中海性気候の季節変化と密接に対応している。花は多数の昆虫を誘引し、虫媒による他家受粉を主な繁殖様式とする。

生理・化学的特徴

オオツルボが属するツルボ亜科(Scilloideae)の植物群には、ブファジエノリド(bufadienolide)と呼ばれる強心配糖体を組織中に蓄積するものが多く知られている。これらの化合物は動物による食害を防ぐ化学的防御物質として機能すると考えられており、近縁属であるDrimia属やUrginea属などでも同様の物質が報告されている。そのため、球根や葉を大量に摂取した場合には、家畜やペットに対して毒性を示す可能性が指摘されている。

生理面では、地中海性気候下の乾季を球根内部に養分と水分を蓄えた状態でやり過ごす典型的な地下器官型の休眠戦略を持つ。秋から冬にかけての気温低下と降雨の増加が発芽と展葉の引き金となり、春の開花後、気温の上昇とともに地上部が黄化・枯死して休眠へ移行する。

人との関わり

オオツルボは、その花序の華やかさから観賞用球根植物として古くからヨーロッパで栽培されており、現在では庭園や花壇、鉢植えなどに広く利用されている。栽培は比較的容易で、排水の良い土壌と十分な日照を確保すれば、球根を植えたまま数年にわたって開花を続けることができる。

前述のとおり、本種は「ペルー原産」という誤った俗説を伴って流通してきた歴史があり、現在でも一部の園芸関連の情報において、この誤解に基づく記述が見られることがある。実際の原産地は地中海西部沿岸域であり、南米とは分布上の関わりを持たない。

系統的位置と進化的特徴

オオツルボの分類上の位置づけは、被子植物(Angiosperms)のうち単子葉類(Monocots)に含まれ、キジカクシ目(Asparagales)キジカクシ科(Asparagaceae)に置かれる。キジカクシ科の中では、かつて独立の科として扱われていたツルボ科(Hyacinthaceae)に相当する系統群が、分子系統解析の結果に基づき、現行のAPG体系ではツルボ亜科(Scilloideae)としてキジカクシ科に統合されている。属名はScillaである。

本種をめぐっては、DNA配列に基づく系統解析の進展により、Scilla属を複数の系統に細分化する提案がなされてきた経緯があり、その一環として本種をOncostema peruvianaScilla peruvianaの異名)として独立した属に置く扱いも提唱されている。しかし、主要なデータベースにおいては現時点でなおScilla peruviana L.が正名として採用されており、Oncostema属への移動は広く定着した扱いには至っていない。この系統群は、伝統的なツルボ科的特徴、すなわち総状または散房状の花序と、比較的均一な六数性の花被構造を保持しており、キジカクシ科内でも独自の系統的まとまりを形成するグループとして位置づけられている。


第2版:2026-07-23.

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