
アマチャ(Hydrangea serrata(Thunb.)Ser. var. thunbergii(Siebold)Makino)は、アジサイ科(Hydrangeaceae)アジサイ属(Hydrangea)に属する落葉低木で、ヤマアジサイの変種の一つに位置づけられる。葉に強い甘味成分を含むことで知られ、乾燥・発酵させた葉を煎じたものが「甘茶」として、寺院の灌仏会(花まつり)における仏像への灌水儀礼などに古くから用いられてきた植物である。
樹高はおおむね1から2メートルほどになる落葉低木で、枝は赤紫色から紫褐色を帯びる。葉は対生し、長楕円形から倒卵状楕円形を呈し、長さは5から10センチメートル程度、先端は長く尖り、縁には細かな鋸歯を持つ。葉質はやや厚みがあり、光沢を欠く点がガクアジサイとの識別点の一つとされる。花期は6月から8月にかけてで、散房状の集散花序をつけ、周縁部に装飾花(中性花)を配し、中心部には両性花を密につける散房花序型の花のつき方を示す。装飾花の萼片は円形から広卵形で、白色から淡紫色を呈し、開花後には淡紅色へと変化する性質を持つ。
基本変種であるヤマアジサイは本州、四国、九州の山地に広く分布するが、アマチャはその中でも主に関東地方から中部地方にかけての山地に見られる系統で、林内や谷沿いのやや湿った環境を好んで生育する。古くから甘味成分を得る目的で各地の寺院や民家の庭先に栽培が広がり、現在では自生と栽培由来のものが混在する形で分布している。
アマチャの葉には、フィロズルチンと呼ばれるイソクマリン配糖体の一種が含まれており、これが乾燥や発酵の過程で酵素的に加水分解されることで強い甘味を生じる。生の葉には甘味はほとんど感じられないが、摘採後に萎凋、揉捻、発酵、乾燥といった製茶に類似した加工工程を経ることで甘味成分が遊離し、砂糖の数百倍とされる強い甘みを呈するようになる。この甘味成分は抗アレルギー作用や抗菌作用を持つことも報告されており、機能性成分としての研究対象ともなっている。ただし過剰に濃く煎じた場合には中毒症状を引き起こす可能性があることも知られている。
アマチャは日本の仏教行事と深く結びついた植物であり、4月8日の灌仏会(花まつり)において、誕生仏の像に甘茶を注ぎかける「灌仏」の儀礼に用いられる甘茶の原料として広く知られている。この風習は江戸時代以降に定着したとされ、現在でも多くの寺院で継続されている。また甘味料としてだけでなく、砂糖を用いない代用甘味料としての利用や、口腔ケア用品への応用など、フィロズルチンの機能性を活かした用途開発も進められている。栽培は各地の寺院や薬草園で行われ、观赏用のヤマアジサイとは別に、甘味成分の含有量に着目した系統選抜が行われてきた歴史も持つ。
アマチャはキク類のうちのミズキ目(Cornales)アジサイ科(Hydrangeaceae)に位置づけられる。ミズキ目はキク類の中でも初期に分岐した系統の一つとされ、キク類を構成する主要な系統群であるキキョウ類(campanulids)やシソ類(lamiids)などのいわゆる真正キク類(core asterids)に対して、姉妹群に近い基部的な位置を占めることが分子系統解析によって支持されている。アジサイ属は装飾花と両性花を組み合わせた散房花序型の花序構造を発達させた点で、送粉者を効率的に誘引する適応形質を示す群として注目されており、変種アマチャはその中でも葉における特異な二次代謝産物の蓄積という生化学的な形質分化を遂げた系統として位置づけられる。
第2版:2026-07-23.
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