チェリーセージ・ホットリップス

概要

チェリーセージ・ホットリップス(Salvia microphylla 'Hot Lips')は、シソ科(Lamiaceae)アキギリ属(Salvia)に属する半木本性の多年草である。メキシコおよびアメリカ合衆国南西部の山地に自生するSalvia microphyllaから選抜された園芸品種であり、一つの花に赤色と白色の二色が現れる印象的な花色から「ホットリップス(唇に見立てた名)」と呼ばれ、世界中の庭園で広く栽培されている。

形態的特徴

本種は樹高、幅ともに八十センチメートルから一・二メートルほどに生長する、株元が木質化した半木本性の低木状多年草である。葉は小型の卵形で対生し、シソ科に特徴的な芳香を持ち、葉縁には浅い鋸歯がある。

花はシソ科に典型的な唇形花で、上唇と下唇からなる筒状の花冠を持つ。'Hot Lips'の最大の特徴は、この花冠が赤色と白色の二色に染め分けられる点にあり、一株の中でも全赤、全白、二色咲きなど複数の色彩パターンが同時に現れることが多い。この色彩の変異は、気温をはじめとする生育環境の影響を受けて生じると考えられており、気温の高い時期には赤色の割合が増し、涼しい時期には白色の割合が増す傾向が観察されている。花は総状花序に多数つき、春から秋にかけて長期間にわたって咲き続ける。

分布と生態

母種であるSalvia microphyllaは、アメリカ合衆国アリゾナ州南東部からメキシコの山地にかけて自生し、標高千二百から二千八百メートルほどの、岩の多い乾燥した斜面や低木林に生育する。'Hot Lips'はこの母種から選抜された栽培品種であり、自然分布域を持たず、専ら人為的な栽培下で維持・増殖されている。

生態的には、母種の自生地の環境を反映し、日当たりが良く排水性の高い乾燥した立地を好む。細長い筒状の花はハチドリをはじめとする長い口吻や嘴を持つ訪花者による送粉に適した形態であり、原産地では主にハチドリによって送粉されると考えられている。栽培下でも、花の蜜を求めて訪れる鳥類や昆虫を誘引する植物として機能する。

生理・化学的特徴

アキギリ属の植物は、葉や茎の表面に腺毛を持ち、テルペン系の精油成分を分泌することで特有の芳香を放つ。この芳香成分は、食害に対する防御機能を持つと考えられている。

本種の際立った生理的特徴は、前述のとおり花色が生育条件、特に気温によって変化する点にある。これは花弁組織におけるアントシアニン色素の発現量が、温度をはじめとする環境要因によって調節されることに起因すると考えられており、同一の遺伝的背景を持つ株であっても、栽培環境や季節の違いによって花色の構成比が変動する。また、母種と同様に乾燥への耐性が高く、多肉質ではないものの、水分要求量の少ない生理的特性を備えている。

人との関わり

'Hot Lips'は、その印象的な二色咲きの花と長い開花期間、そして育てやすさから、世界各地の庭園において非常に人気の高い観賞用植物となっている。イギリス王立園芸協会(Royal Horticultural Society)のアワード・オブ・ガーデン・メリットを受賞するなど、園芸的評価も高い。

乾燥に強く、萌芽力も旺盛であることから、乾燥地向けの庭園計画(ウォーターワイズ・ガーデニング)や地中海性気候を模した植栽、ポリネーター(送粉者)を呼び込む庭づくりなどにもしばしば用いられる。剪定に対する耐性も高く、鉢植えから花壇まで幅広い用途で栽培されている。

系統的位置と進化的特徴

本種は、真正双子葉類のうちキク類に含まれ、シソ目(Lamiales)シソ科(Lamiaceae)アキギリ属(Salvia)に位置づけられる。

アキギリ属は、伝統的にも被子植物の中で最大級の属の一つとして知られてきたが、近年の分子系統解析の結果、従来独立属として扱われてきたマンネンロウ属(Rosmarinus、いわゆるローズマリー)やPerovskia属などがアキギリ属の内部に系統的に含まれることが示され、これらを統合した、より広義のアキギリ属(Salvia sensu lato)として再定義する扱いが広く採用されるようになっている。母種Salvia microphyllaは、近縁種のSalvia greggiiと自然交雑しやすい性質を持つことが知られており、この二種の交雑に由来する一群はSalvia ×jamensisとして区別されることもある。'Hot Lips'はこうした種内変異の豊富な系統から選抜されたクローンであり、栄養繁殖(挿し木)によって遺伝的に均一な状態のまま維持・流通している栽培品種である。


第2版:2026-07-23.

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