コエビソウ

概要

コエビソウ(小海老草)は、キツネノマゴ科(Acanthaceae)キツネノヒマゴ属(Justicia)に属する常緑性の低木である。学名はJusticia brandegeeana Wassh. & L.B.Sm.であり、以前はBeloperone guttata Brandegeeの名で広く知られていた。メキシコを原産地とし、赤褐色の苞が重なり合いながら垂れ下がる花序の形が海老の尾を思わせることから、和名・英名(shrimp plant)ともにこの特徴的な花序の形態に由来する。周年にわたり長期間開花を続けることから、鉢植えや花壇用として世界各地で広く栽培されている観賞用植物である。

形態的特徴

樹高は通常1メートル前後にとどまる、やや軟弱な茎を持つ常緑低木である。茎や葉には短い軟毛が密生する。葉は対生し、卵形から広卵形で長さ3から7.5センチメートルほど、先端はやや尖る。花序は枝先または葉腋から伸びる穂状花序で、弓なりに湾曲しながら垂れ下がる性質を持つ。この花序を構成する苞は瓦状に重なり合い、当初は淡緑色であるが、日照量に応じて淡桃色から赤褐色まで変化する。苞の間から伸び出る花冠は白色で、下唇に赤紫色の斑点を有する唇形花であり、この白い花冠が苞の間から突き出す様子が海老の触角のように見える。

分布と生態

本種はメキシコを自生地とし、グアテマラやホンジュラスにも分布するとされる。観賞用として導入されたアメリカ合衆国フロリダ州などでは、逸出して野生化した個体群も報告されている。温暖な気候を好み、十分な日照下で最も鮮やかな苞の発色が得られる一方、半日陰でも生育は可能である。耐寒性は低く、霜に当たると地上部が傷むため、温帯地域では冬季の防寒や鉢植えでの室内管理が必要となる。花冠が苞の間から突き出す構造は、蜜を求めて訪れるハチドリなどの鳥類による送粉に適応した形態と考えられており、原産地では鳥媒花としての性質を持つとされる。

生理・化学的特徴

キツネノマゴ科の植物には、イリドイド配糖体やフラボノイド類などの二次代謝産物が広く含まれることが知られており、これは同科に共通する化学的特徴の一つである。苞の色調変化には、日照量に応じたアントシアニン系色素の蓄積量の違いが関与していると考えられる。本種に特化した薬理成分に関する詳細な知見は限定的であるが、キツネノヒマゴ属の近縁種の中には、伝統的に抽出物が利用されてきた種も存在する。

人との関わり

コエビソウは、独特な花序の形と長期にわたる開花性から、観賞用の鉢花あるいは庭園植物として世界各地で人気が高い。特に温暖な地域では庭植えとして、寒冷な地域では鉢植えの室内観葉植物として広く流通している。苞の色が淡黄色を呈する栽培品種(イエロークイーンなど)をはじめ、複数の園芸品種が育成されており、花壇や寄せ植えの素材としても利用される。日本国内では温室栽培や鉢植えで扱われることが多く、独特な花姿から愛好家の関心を集める植物の一つとなっている。

系統的位置と進化的特徴

コエビソウはシソ目(Lamiales)キツネノマゴ科(Acanthaceae)に属し、科内ではキツネノヒマゴ属(Justicia)に分類される。より広い系統的位置としては、真正双子葉類(Eudicots)のうちキク類(Asterids)に含まれる。キツネノマゴ科はシソ目の中でも多様な花序構造や苞葉の発達を示す科として知られ、対生する葉と左右相称の唇形花冠を持つ点が、同じシソ目に属する他科と共通する派生的形質である。本種に見られる重なり合った苞による保護構造と、その間から伸び出る花冠という構成は、送粉者を効率的に誘引しつつ花器官を保護する方向へ進化した適応形質と考えられている。


第2版:2026-07-24.

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