
イイギリ(Idesia polycarpa Maxim.)は、ヤナギ科(Salicaceae)イイギリ属(Idesia)に属する落葉高木である。かつてはイイギリ科として独立の科に置かれていたが、分子系統学に基づくAPG体系ではヤナギ科に統合されている。イイギリ属は本種一種のみからなる単型属であり、東アジアの温帯から暖温帯に自生する。晩秋から初冬にかけて房状に垂れ下がる橙赤色の果実が特徴的で、公園樹や庭園樹としても親しまれている。かつて大きな葉で飯を包んだことに由来して「飯桐」の名がある。
イイギリは高さ10から15メートル、まれに20メートルに達する落葉高木で、幹の直径は50センチメートルを超えることもある。樹皮は灰褐色から白っぽい灰褐色で滑らかであり、褐色の皮目が見られる。枝は車軸状に輪生気味に出るのが特徴で、太くて無毛である。
葉は互生し、葉身は卵心形から三角状心形で、長さ10から20センチメートル、幅8から20センチメートルに達する大型の葉である。基部は浅い心形または切形で、先端は鋭く尖り、縁には粗い鋸歯がある。基部から放射状に伸びる掌状脈が明瞭である。葉柄は長さ6から20センチメートルと葉身に匹敵するほど長く、先端付近に蜜腺を持つ点も特徴の一つである。
本種は雌雄異株であり、まれに雌雄雑居性も見られる。晩春(4から5月)、枝先に長さ20から30センチメートルの円錐花序を垂れ下げ、芳香のある黄緑色の小花を多数つける。花弁を欠き、萼片は5から6個で、両面に黄色みを帯びた毛が密生する。雄花は雌花よりやや大きく、多数の雄しべを持つ。雌花では子房が球形で、花柱は3から6個に分かれ、雄しべは退化して小さい。
果実は液果で直径8から10ミリメートルの球形であり、10月から11月に橙赤色から暗赤色に熟し、房状に垂れ下がる。中には長さ2から3ミリメートルの紫褐色の小さな種子を多数含む。熟した果実は落葉後も長く枝に残る。
イイギリは日本では本州、四国、九州、沖縄にかけて分布し、国外では朝鮮半島南部、台湾、中国に自生する。山地のやや湿り気のある場所を好み、陽樹として二次林や林縁など明るい環境に生育する傾向がある。
果実は野鳥にとって冬季の食料資源となるが、味が悪いためか、他の実が食べ尽くされた後になってようやく鳥に採食される傾向があるとされ、冬枯れの中でも長期間果実が残存する一因と考えられている。この現象は種子散布のタイミングを遅らせる適応的な意味を持つとする見方もある。成長は比較的速く、大木となることが知られる。
イイギリの種子には脂肪油が含まれており、種子油はディーゼル代替燃料の原料や工業用油としての利用可能性が研究の対象となっている。果実は苦味や独特の臭気を持つとされ、鳥による採食が遅れる一因になっていると考えられている。薬用植物としての利用は限定的であり、伝統的な薬効成分に関する記録は乏しい。
和名の「イイギリ(飯桐)」は、葉がキリの葉に似ることと、その大きな葉でかつて飯を包んだ習慣に由来する。また、果実がナンテンの実に似ることから「ナンテンギリ」の別名もある。種小名のpolycarpaは、ラテン語で「多い」を意味するpolyと「果実」を意味するcarpaに由来し、多数の果実をつける性質を表している。
材は下駄材、器具材、薪炭材として利用されてきたほか、成長が早く大木になる性質を活かし、公園樹、街路樹、シンボルツリーとして植栽される。果実を観賞するためには雌株を植える必要があり、庭園では接ぎ木によって増やした雌木が用いられることが多い。生け花や装飾用の花材としても利用され、白い果実をつける品種も知られる。宮崎県の一部地域では、正月飾りのナンテンの代用として用いられる風習も報告されている。
イイギリが属するイイギリ属(Idesia)は、ヤナギ科(Salicaceae)に分類される。クロンキスト体系や新エングラー体系など従来の分類体系ではイイギリ科として独立の科として扱われてきたが、分子系統解析の結果に基づく現行のAPG体系では、ヤナギ科に統合されている。この統合は、伝統的にヤナギ科とされてきたヤナギ属やハコヤナギ属を含む系統と、旧イイギリ科・旧イダテフィリピウム科的な系統群とが、分子データ上は単一の単系統群を形成することが明らかになったことによる。
ヤナギ科はキントラノオ目(Malpighiales)に属し、真正双子葉類の中でもバラ類(Rosids)に含まれる大きな系統群の一員である。キントラノオ目は多様な形態を持つ科を含む複雑な系統関係で知られ、旧来の形態分類では見出しにくかった類縁関係が分子系統学によって初めて明らかにされた代表例の一つとされる。イイギリ属は現生一種のみからなる単型属であり、ヤナギ科内でも独自の系統的位置を占めている。
第2版:2026-07-27.
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