
キャッサバ(学名:Manihot esculenta Crantz)は、トウダイグサ科(Euphorbiaceae)イモノキ属(Manihot)に属する多年生の低木状植物である。南アメリカ大陸を原産地とし、肥大した貯蔵根(塊根)を食用とする作物として、熱帯・亜熱帯地域を中心に世界的に極めて重要な位置を占める。乾燥や貧栄養土壌への耐性が高く、少ない管理労力で栽培可能であることから、アフリカ、東南アジア、南アメリカの広範な地域で主要な炭水化物供給源となっている。
キャッサバは草質から半木質の茎を持つ多年生低木で、栽培条件下では草丈1メートルから3メートル程度に達する。茎は直立し、多数の分枝を伴うことが多く、葉が落ちた後の茎には特徴的な葉痕が残る。葉は互生し、掌状に3裂から9裂する深い切れ込みを持ち、長い葉柄で茎に付く。
本種の最大の特徴は、根の一部が肥大して形成される貯蔵根(塊根)である。塊根は紡錘形で、外皮は褐色から赤褐色を呈し、内部の可食部はでんぷんを豊富に含む白色から淡黄色の組織からなる。1個体につき複数本の塊根を形成し、収穫時の重量は品種や栽培条件により大きく異なる。花は小さく単性で、雌雄同株であり、雄花と雌花が同一の集散花序に混生して咲くが、栽培においては主に栄養繁殖(茎挿し木)によって増殖される。
キャッサバの原産地は南アメリカ大陸、特にブラジル中南部からアマゾン川流域にかけての地域であると考えられている。先コロンブス期にはすでに南米大陸で広く栽培化されており、大航海時代以降にポルトガル人によってアフリカへ、さらにアジアへと伝播した。
現在では南アメリカ、サブサハラアフリカ、東南アジアの熱帯・亜熱帯地域を中心に、赤道近くの高温多湿な低地から標高の高い地域まで幅広い環境で栽培されている。強い耐乾性を持ち、年間降水量が少なく土壌が痩せた条件でも一定の収量を確保できるため、他の主要作物の栽培が困難な限界地においても重要な食料源となっている。一方で低温には弱く、霜に当たると地上部が枯死する。
キャッサバの塊根や葉には、シアン化水素を遊離するシアン配糖体(青酸配糖体)であるリナマリンおよびロトオーストラリンが含まれる。品種は含有量の違いにより、含有量が少なく毒性の低い甘味種(スイートカッサバ)と、含有量が多い苦味種(ビターカッサバ)に大別される。組織が損傷を受けると内在する酵素の作用によりこれらの配糖体が分解され、シアン化水素が遊離する。
この毒性を除去するため、伝統的に水浸漬、発酵、加熱、乾燥、すりおろして絞るなどの加工処理が広く行われており、これによって安全に食用とすることが可能となる。塊根の可食部はでんぷんを高い割合で含み、エネルギー源として優れる一方、タンパク質含量は低い。
キャッサバは南米大陸の先住民により数千年前から栽培化され、主食作物として利用されてきた。大航海時代以降にアフリカへ伝わると、乾燥や痩せた土壌への耐性の高さから急速に広まり、現在ではアフリカ大陸において最も重要な主食作物の一つとなっている。
可食部は生食されることはほとんどなく、粉砕・発酵・乾燥・加熱などの加工を経て、粥状の主食、パン状食品、タピオカでんぷんなどさまざまな形態で消費される。塊根から精製されるでんぷんは食品加工用途にとどまらず、工業用の糊料や生分解性素材の原料としても利用される。また若葉は加熱調理の上、野菜として食されることもある。近年ではバイオエタノールの原料としての利用も進められている。
イモノキ属(Manihot)は、真正双子葉類(Eudicots)のうちバラ類(Rosids)に含まれるキントラノオ目(Malpighiales)トウダイグサ科(Euphorbiaceae)に位置づけられる。トウダイグサ科の中では、乳液を持つ系統を多く含むトウダイグサ亜科(Crotonoideae)に属する。
イモノキ属はトウダイグサ亜科の中でイモノキ連(Manihoteae)を構成し、この連はイモノキ属を含む少数の属からなる比較的独立性の高い系統群として位置づけられている。イモノキ属には本種のほか、南アメリカ大陸を中心に90種以上が知られており、多くが乾燥地や半乾燥地に適応した塊根性の生活形を示す。塊根への養分貯蔵能力は、これらの近縁野生種にも広く見られる形質であり、乾燥に対する適応進化の過程で獲得されたものと考えられている。栽培種であるキャッサバは、南米に自生する近縁野生種との交雑・選抜を経て成立したと考えられており、その正確な祖先野生種の特定については分子系統学的研究が現在も進められている。
第2版:2026-07-28.
Vita brevis, ars longa. Omnia vincit Amor.