カブス

概要

カブス(学名:Citrus aurantium L. forma kabusu)は、ミカン科(Rutaceae)ミカン属(Citrus)に属する常緑小高木であり、ダイダイ(Citrus aurantium)の一形として位置づけられる柑橘類である。インドからヒマラヤ地域を原産地とし、和名では縞ダイダイあるいは斑入りダイダイとも呼ばれる。なお、現代において大分県の特産品として広く知られる「カボス(Citrus sphaerocarpa)」とは名称が類似するが別種であり、古くは「カブチ」とも呼ばれたダイダイの古称・古品種に由来する点が本種の特徴である。

形態的特徴

カブスは常緑性の小高木で、樹高は4メートルから5メートルほどに達する。枝には棘を持ち、葉は互生し、革質で光沢のある卵形から楕円形を呈する。初夏の5月から6月にかけて白色の花を咲かせ、花冠は5弁からなり、花径は1.5センチメートルから2センチメートルほどである。花には芳香がある。

果実は冬の11月から1月にかけて成熟し、橙色に色づく球形の柑橘果実となる。果皮には厚みがあり、果肉は酸味と苦味を併せ持つ性質を示す。ダイダイに共通するこの性質は、果実が生食よりも加工利用に適していることの背景となっている。

分布と生態

本種の起源はインドからヒマラヤ地域にかけての南アジアであると考えられており、そこから東アジアへともたらされ、日本には古い時代に薬用・観賞用として渡来したとされる。温暖な気候を好み、耐寒性は柑橘類の中では比較的高い部類に入る。

日本国内では、庭木や生垣として植栽されるほか、古い時代から各地の民家の庭先などに見られ、栽培地域の地方名として「カブチ」「カブス」などの呼称が伝えられてきた経緯がある。

生理・化学的特徴

カブスを含むダイダイ類の果実には、フラボノイド配糖体であるナリンギンなどの苦味成分が豊富に含まれ、これが果皮や果肉の苦味の主要因となっている。またクエン酸を主体とする有機酸を多く含み、強い酸味を呈する。果皮には精油成分が豊富に含まれ、独特の芳香を持つことも本種を含むダイダイ類に共通する化学的特徴である。

人との関わり

カブスは、果実そのものを生食する用途よりも、その強い酸味と香りを活かして食酢や薬味として利用されてきた歴史を持つ。江戸時代の本草書にもその名が記されており、乾燥させた果皮を燻して蚊除けに用いたとする伝承も残されている。

現代では、同じくダイダイに由来するとされる名称を持つ「カボス」が大分県の特産品として全国的に高い知名度を持つ一方、カブスという呼称自体は歴史的な古名としての性格が強く、両者を同一のものとみなすかどうかについては見解が分かれている。いずれにせよ、酸味の強い柑橘類が薬味や香酸柑橘として日本の食文化に古くから根付いてきたことを示す一例として、カブスは位置づけられる。

系統的位置と進化的特徴

ミカン属(Citrus)は、真正双子葉類(Eudicots)のうちバラ類(Rosids)に含まれるムクロジ目(Sapindales)ミカン科(Rutaceae)に位置づけられる。カブスの基本種であるダイダイ(Citrus aurantium)は、分子系統学的研究により、ブンタン(Citrus maxima)とマンダリン(Citrus reticulata)との交雑に由来する種間雑種起源の種であることが明らかにされている。

ミカン属は種間交雑を頻繁に繰り返しながら多様な栽培品種群を形成してきた系統群であり、この交雑を通じた多様化は、栽培化の過程で果実の酸味・苦味・香気成分の組成に幅広いバリエーションを生み出してきた。カブスに見られる強い苦味と酸味の共存は、ブンタン由来の苦味形質とマンダリン由来の形質が組み合わさった雑種起源の名残を反映するものと考えられている。


第2版:2026-07-29.

Vita brevis, ars longa. Omnia vincit Amor.





















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