
Magnolia stellata(Siebold & Zucc.)Maxim。モクレン科モクレン属(Magnoliaceae Magnolia)。落葉小高木。幣辛夷、四手拳と書く。
本種の分類学的扱いは複雑であり、タムシバ(M. salicifolia)とコブシ(M. kobus)との雑種起源種とする見解も提唱されている。主として東海地方(愛知県・岐阜県・三重県)および静岡県西部の限られた地域に自生する日本固有種であり、湿地や谷沿いといった安定した水分環境に適応している。その分布域の狭さから希少性の高い種として知られる。
モクレン科に共通する原始的形質(螺旋状配列・不定多数の花器官)を保持することから、「生きている化石」として被子植物進化の理解に資する重要な植物である。美的価値と学術的価値、さらに保全上の重要性を併せ持つ種として位置付けられる。
樹高は通常2〜5メートル程度で、株立ち状に枝分かれし、繊細で広がりのある樹形を形成する。葉は互生し、倒卵形から楕円形で、縁はほぼ全縁である。
本種の最大の特徴は早春に咲く花である。葉の展開に先立って開花し、白色から淡紅色の花を多数つける。花被片は細長く、12〜18枚以上と多数に分かれ、放射状に広がるため、星形あるいは神事に用いられる紙垂(しで)に似た独特の外観を呈する。近縁のコブシが花被片6枚であるのに対し、本種の花被片数の多さは際立った識別形質である。この形態が「シデコブシ」という名称の由来である。花には芳香があり、静謐で清楚な印象を与える。
果実は集合果で、秋に成熟すると裂開して赤色の種子を露出する。
シデコブシは愛知県・岐阜県・三重県にまたがる東海丘陵地帯を中心に、静岡県西部にも一部分布する。いずれも湧水地や湿地周辺のやや酸性の土壌を好み、乾燥には弱く、水分条件の変化に敏感であるため、生育地は局所的かつ断片的である。
このような環境特異性により、個体群はしばしば孤立し、遺伝的多様性の維持や集団の更新が重要な保全上の課題となっている。
シデコブシを含むモクレン属は、しばしば「生きている化石」と形容される。これは、モクレン科が被子植物の進化初期に現れた系統に属し、古い形態的特徴を現在にまで保持していることに由来する。
具体的には、花被片・雄しべ・雌しべがそれぞれ分化しているものの定数に固定されず多数存在する点、これらが花軸上に螺旋状に配列する点などが原始的形質として挙げられる。より進化した被子植物では花器官の数が定まり輪状に配列する傾向があるのに対し、モクレン属ではこの固定化が進んでいない。
なお、かつては「花被片と雄しべ・雌しべが分化しきらない」と表現されることもあったが、これは正確ではなく、各器官自体は明確に分化している。原始的とされるのはあくまでも配列様式と数の不定性という構造上の特徴である。
したがって、シデコブシは、現存する植物でありながら、被子植物の初期進化を理解する上で重要な形態的証拠を提供する存在である。
分布域の限定性と生育環境の脆弱性により、シデコブシは各地で保護対象となっている。環境省レッドリストでは絶滅危惧II類(VU)に指定されており、国レベルでの保護の必要性が認められている。湿地の埋め立て、都市開発、水文環境の変化(特に地下水位の低下や水流の変化)などが主な脅威であり、保全には生育環境全体の維持が不可欠である。
多くの自生地が天然記念物や自然保護区として指定されているほか、東海地方の湿地植生を特徴づける種として、地域の生物多様性保全においても重要な位置を占める。
シデコブシはその優雅な花姿により、庭木や公園樹としても広く利用される。早春に開花する性質は季節感を強く演出し、日本庭園や自然風植栽に適する。
また、コブシやハクモクレンなど近縁種との比較や交配も行われており、多数の園芸品種が作出されている。特に花被片の多さと淡紅色の変異は品種育成の上で重視される形質であり、園芸学および植物学的研究の対象ともなっている。
本属の主な近縁種として、コブシ(Magnolia kobus DC.)とタムシバ(M. salicifolia(Siebold & Zucc.)Maxim.)が挙げられる。シデコブシはこの両者の雑種起源種である可能性が分子系統学的研究によって示唆されており、分類学上の位置付けはなお議論が続いている。コブシとは花被片数(コブシは6枚、シデコブシは12枚以上)および生育環境(コブシはより乾燥した環境にも適応)の点で明確に区別される。
| 草丈/樹高 | 1mから8m. |
| 葉 | 葉序[phyllotaxis]は互生[alternate].単葉[不分裂葉].葉身の長さは5cmから10cm,幅は1cmから3cm.形状は長楕円形から倒披針形.単葉[不分裂葉].葉縁[leaf margin]は全縁[entire margin]. |
| 花 | 花序[inflorescence]は単生. |

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