タチテンノウメ

概要

タチテンノウメ(立天の梅)は、バラ科テンノウメ属(Osteomeles)に属する常緑から半常緑の低木である。学名は Osteomeles schwerinae C.K.Schneid.(異名:Osteomeles boninensis(Decne.)Nakai)とされ、Plants of the World Online(Kew)などの現代的な分類体系では Osteomeles boninensisOsteomeles schweriniae var. schweriniae のシノニムとして整理されている。また、近年の分類研究では、シラゲテンノウメ(Osteomeles lanata)およびシセンテンノウメ(Osteomeles schwerinae 大陸産)を含め、これらをまとめて Osteomeles schwerinae として統合する考え方が有力となっている。

和名の「タチテンノウメ」は「立ち天の梅」を意味し、枝が立ち上がるように伸びる性質と、梅(ウメ)に似た白い小花が天の星のように見えることに由来する。小笠原諸島では「テンノミ」とも呼ばれる。なお、ウメはバラ科サクラ属(Prunus)に属しており、テンノウメ属とは分類学的に異なるグループである。

形態的特徴

タチテンノウメは樹高が通常0.5〜1.5メートル程度、場合によっては4メートルに達することもある小低木から低木であり、株立ち状になって斜上する傾向がある。枝は細長く断面が円形で、若い枝は赤褐色または紫色を帯び、初め灰白色の軟毛が密生するが、後に脱落する傾向がある。近縁種のシラゲテンノウメが地を這うように枝を広げるのに対し、本種は枝が立ち上がって伸びる点が大きな識別点となる。

葉は互生し、奇数羽状複葉である。小葉は13〜16対程度つき、形は線状楕円形から狭倒卵形で、先端は鋭頭、縁は全縁(鋸歯がない)、表面は鮮緑色で光沢を持つ。葉縁・主脈上および葉柄には綿毛が見られる。近縁のシラゲテンノウメと比較して、小葉の数がやや多く、樹高も高くなる傾向がある点で識別される。

花期は3〜4月(または5月)ごろで、枝先に散房花序を出す。花は白色の5弁花で、直径は約1センチメートル程度であり、バラ科に特徴的な雄しべを多数もつ。萼は5裂する。個々の花はウメに似た形態をもち、小さく可憐な印象を与える。

果実は球形のナシ状果(仁果)で、直径は約6〜10ミリメートル程度である。成熟すると黒紫色に変わり、果頂には萼裂片が残存する。果肉は甘みがあり食用になる。

分布と生態

タチテンノウメは日本では小笠原諸島(父島・母島など)に産する固有種(または固有変種)として知られる。大陸系の Osteomeles schwerinae は中国の甘粛・四川・貴州・雲南などの中部から西南部にかけて分布しており、植物学的に統合された広義の分類群として捉えた場合には、日本と中国大陸の植物がつながっていることになる。

小笠原諸島は年間降水量が約1,250ミリメートルと、同緯度の他地域と比較して少なく、火山性の島であるため土壌の発達が悪い。タチテンノウメは、こうした環境のなかで特に乾燥した岩礫地や山の尾根部に生育し、小笠原の「乾性低木林」と呼ばれる特徴的な植生の構成要素となっている。この乾性低木林は欧州の地中海性気候に見られる硬葉樹の森林に外見が似るとも指摘されており、小笠原の生物多様性を代表する植生の一つである。

本種の生長速度は遅く、強い日差しや乾燥、低栄養条件への耐性をもつとされる。移植試験などの観察においても、衰弱しにくい安定した生育が報告されている。

生理・化学的特徴

タチテンノウメが属するテンノウメ属(Osteomeles)の植物は、乾燥した岩礫地や尾根部という極めて厳しい環境に適応した生理的特性をもつとされる。硬葉性の光沢ある葉は蒸散を抑制し、強光・乾燥ストレスへの耐性に寄与していると考えられる。

果実はナシ状果(仁果)で、生食のほかゼリーやジャムなどの加工食品にも利用される。テンノウメ属の他種も含め果実には甘みがあり食用適性が認められているが、タチテンノウメの果実の化学成分(糖類・有機酸・ポリフェノール類など)については、現時点では詳細な研究報告は限られている。

人との関わり

タチテンノウメは小笠原諸島の固有植物として、地域の自然のシンボル的存在の一つである。小笠原諸島は2011年6月に世界自然遺産に登録されており、本種もその貴重な固有植生を構成する一員として注目される。

小笠原諸島固有植物等の増殖・保全に関する取り組みの中では、タチテンノウメも対象種の一つとされており、苗木を用いた移植試験が行われてきた。生長は遅いものの定着性は高く、固有植生の回復を目的とした植栽利用の可能性が検討されている。

観賞的価値も高く、春に咲く白い小花と光沢ある複葉の美しさから、盆栽素材としても用いられてきた。また、都立夢の島熱帯植物館や筑波実験植物園、京都府立植物園などの植物園でも栽培・展示されており、本土でも目にすることができる。中国語では「華西小石積(huá xī xiǎo shí jī)」と呼ばれ、中国でも観賞用・盆栽用に利用されることがある。

系統的位置と進化的特徴

タチテンノウメは、被子植物の中でも真正双子葉類(Eudicots)に属し、さらにバラ類(Rosids)のバラ目(Rosales)、バラ科(Rosaceae)に位置づけられる。バラ科の中では、アーモンド亜科(Amygdaloideae)のリンゴ連(Maleae)、リンゴ亜連(Malinae)に含まれる。リンゴ連はリンゴ・ナシ・カリン・サンザシ・カナメモチ・ビワなど、果実が仁果(ナシ状果)となる多様な木本類を含む単系統群であり、テンノウメ属(Osteomeles)もその一員である。

テンノウメ属(Osteomeles)の属名は、ギリシャ語の「osteon(骨)」と「melon(リンゴ)」を合成したもので、骨質の核をもつ果実の性状に由来する。属内には東アジアから太平洋諸島(ハワイ、南太平洋)にかけて分布する数種が含まれており、羽状複葉と小型の仁果を共通の特徴とする。ハワイ固有種の Osteomeles anthyllidifolia(ウレイ)がこの属の代表種として知られており、広大な太平洋を隔てた島嶼への分散・定着という、属全体の特徴的な生物地理的パターンを示す。

小笠原諸島の植物相は、大陸とつながったことのない海洋島の性格を反映し、樹木の約70〜75パーセントが固有種とされる高い固有率を示す。タチテンノウメ(小笠原産)の祖先が大陸産の Osteomeles schwerinae と共通の系統に由来しており、海流・鳥類・風などによる長距離散布の後に島嶼環境へ適応したと推定されるが、詳細な分子系統学的解析はなお継続的な研究課題となっている。バラ科全体の分子系統研究では、リンゴ連が白亜紀後期以降に急速な多様化を遂げたことが示されており、テンノウメ属もそうした多様化の産物の一つとして位置づけられる。


第1版:2021-07.
第2版:2026-06-16.

Vita brevis, ars longa. Omnia vincit Amor.





















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