ウラルカンゾウ

概要

ウラルカンゾウ(Glycyrrhiza uralensis Fisch. ex DC.)は、マメ目(Fabales)マメ科(Fabaceae)カンゾウ属(Glycyrrhiza)に属する多年生草本植物である。中国・モンゴル・ロシア(シベリア南部)・中央アジアにかけて広く分布し、乾燥した草原・荒地・河川沿いの砂礫地などに自生する。生薬名を「甘草(かんぞう)」といい、中国伝統医学(中医学)および日本漢方において最も重要かつ使用頻度の高い生薬のひとつとして位置づけられる。根および根茎に含まれるグリチルリチン(glycyrrhizin)はショ糖の約150〜250倍の甘味を有するトリテルペン配糖体であり、甘味料・矯味剤・医薬品原料として世界的に広く利用されている。同属のスペインカンゾウ(Glycyrrhiza glabra L.)とともに甘草の主要な基原植物として世界的に需要が高く、現代においても製薬・食品・化粧品・タバコ産業など多岐にわたる分野で利用される重要な植物資源である。

形態的特徴

ウラルカンゾウは多年生草本であり、地下に太く長い主根と横走する根茎を発達させる。主根は直径1〜3センチメートル、長さ数十センチメートルから1メートル以上に達することもあり、外皮は赤褐色から暗褐色、内部は淡黄色から黄色を呈する。根茎は水平方向に広く伸長し、各節から新たな茎を出す旺盛な栄養繁殖を行う。根および根茎には特有の甘みがあり、これがグリチルリチンをはじめとする甘味成分に由来する。

地上茎は直立し、高さ50センチメートルから1.5メートルに達する。茎は木質化の程度が低く草質に近いが、基部付近はやや木質化する。茎・葉・萼には腺毛と非腺毛が混在して密生し、触れると粘質感がある。

葉は奇数羽状複葉で互生し、小葉は5〜17枚、卵形から楕円形で先端は鈍形または微凹形、縁は全縁である。小葉の表面・裏面ともに短毛と腺点が見られる。托葉は小さく早落性である。

花は葉腋から伸びる総状花序に密につく。花はマメ科に特徴的な蝶形花であり、長さ14〜25ミリメートル、花色は淡紫色から青紫色で、旗弁・翼弁・竜骨弁からなる。萼は筒状で5裂し、腺毛が密生する。雄しべは二体雄しべ(9本が合着し1本が離生)で、雌しべは1本である。開花期は6〜8月ごろである。

果実は豆果(莢果)であり、線形から長楕円形で長さ2〜4センチメートル、表面に腺毛・刺毛が密生し粗雑な外観を呈する点がスペインカンゾウ(Glycyrrhiza glabra)との重要な区別点である。莢は熟しても裂開しにくく、数個の種子を含む。種子は腎形で緑褐色から褐色を呈する。

分布と生態

ウラルカンゾウの自然分布域は東アジアから中央アジアにかけての乾燥〜半乾燥地帯に広がっている。中国では内モンゴル自治区・新疆ウイグル自治区・甘粛省・寧夏回族自治区・山西省・陝西省・河北省・黒竜江省などに広く自生し、特に内モンゴルおよび新疆は中国における主要産地として知られる。モンゴル・ロシアのシベリア南部・カザフスタンなど中央アジアにも分布が確認されている。

生育環境としては、年降水量の少ない乾燥草原・砂漠縁辺部・河川沿いの砂礫地・塩性草地など、やや過酷な環境条件に適応する。深根性の根系によって深部の水分を利用でき、強い乾燥耐性をもつ。また根粒菌との共生による窒素固定能をもつため、窒素の乏しい痩せた土壌でも生育可能である。根茎による栄養繁殖が旺盛であるため、適した環境では群落を形成することがある。

マメ科植物に共通して根粒菌(Rhizobium類)と共生し、大気中の窒素を固定する能力をもつ。この性質は乾燥荒地における先駆植物・土壌改良植物としての機能をもたらし、砂漠化防止植物として注目される一因ともなっている。

花には蝶形花に訪花するマルハナバチ類・ミツバチ類などが送粉者として機能し、莢果の粗い毛・刺は動物の体毛への付着による種子散布(動物付着散布)に寄与すると考えられる。

生理・化学的特徴

ウラルカンゾウの最も重要な化学成分はグリチルリチン(glycyrrhizin、別名glycyrrhizic acid)であり、根および根茎の乾燥重量の2〜14パーセント程度含まれる。グリチルリチンはグリチルレチン酸(glycyrretinic acid)にグルクロン酸2分子が結合したトリテルペン系サポニン配糖体であり、強い甘味とともに多彩な生理活性を示す。グリチルレチン酸は体内でグリチルリチンが加水分解されて生じるアグリコンであり、それ自体も重要な薬理活性をもつ。

グリチルリチンおよびグリチルレチン酸の薬理作用として、抗炎症作用・抗アレルギー作用・抗ウイルス作用(特に肝炎ウイルスへの抑制効果)・免疫調節作用・抗潰瘍作用・解毒作用などが明らかにされている。日本では肝炎治療薬としてグリチルリチン製剤(強力ネオミノファーゲンC等)が医療現場で使用されてきた歴史があり、現在も肝機能改善薬として利用されている。ただし、グリチルリチンの過剰摂取は偽アルドステロン症(低カリウム血症・高血圧・浮腫など)を引き起こすことが知られており、安全な摂取量に関する注意が必要である。

フラボノイド類も重要な成分群であり、リコカルコンA(licochalcone A)・リクイリチン(liquiritin)・イソリクイリチン(isoliquiritin)・リクイリチゲニン(liquiritigenin)などが含まれる。これらは抗菌・抗炎症・抗腫瘍・エストロゲン様活性など多様な生理活性をもつことが報告されている。

そのほか、クマリン類・多糖類・アミノ酸類・ステロール類なども含まれており、甘草全体としての薬理効果はこれら多成分の相互作用によるものと考えられている。中国薬典ではグリチルリチンおよびリクイリチン・リクイリチゲニンの含量規格が定められており、品質管理の指標として用いられている。

人との関わり

ウラルカンゾウを基原とする生薬「甘草」は、人類が最も古くから利用してきた薬用植物のひとつである。中国最古の本草書『神農本草経』において上品(最上位の薬)に分類され、「諸薬を調和し、毒を解す」薬として高く評価された。「国老(くにのおとしより)」という異名をもち、多くの処方において他の生薬の作用を調和・緩和する役割を担う調和薬として処方に組み込まれてきた。日本漢方においても甘草は頻用生薬のひとつであり、葛根湯・芍薬甘草湯・小柴胡湯・炙甘草湯など数多くの処方に配合されている。芍薬甘草湯はこむら返り・筋痙攣の即効性治療薬として現代においても広く処方されており、一般用医薬品としても流通している。

食品・甘味料としての利用も古くから行われており、甘草エキスは菓子・飲料・タバコ・醤油・味噌などの甘味付与・矯味剤として使用されてきた。グリチルリチンはショ糖の約150〜250倍の甘味をもちながら低カロリーであるため、砂糖代替甘味料としての利用が世界各国で行われている。

化粧品分野においても、グリチルリチンおよびグリチルレチン酸誘導体(グリチルリチン酸ジカリウムなど)の抗炎症・美白・保湿効果が利用されており、スキンケア製品・医薬部外品に広く配合されている。

需要の拡大に伴い野生資源の採取圧が高まり、特に中国内モンゴル・新疆における野生個体群は過剰採取により減少が著しいとされる。これを受けて中国では甘草の野生採取を規制する法令が整備されるとともに、人工栽培の振興が国家政策として推進されている。持続可能な資源利用のあり方が国際的な課題となっている植物のひとつである。

系統的位置と進化的特徴

APG体系においてウラルカンゾウは、真正双子葉類(Eudicots)の中の核真正双子葉類(Core Eudicots)に属し、バラ類(Rosids)の中のファバ類(Fabids)に位置するマメ目(Fabales)マメ科(Fabaceae)カンゾウ属(Glycyrrhiza)に分類される。

マメ科は被子植物の中でキク科(Asteraceae)・ラン科(Orchidaceae)と並ぶ最大級の科のひとつであり、世界でおよそ730属19500種以上を含む。マメ科はマメ亜科(Papilionoideae)・ジャケツイバラ亜科(Caesalpinioideae)・ネムノキ亜科(Mimosoideae)などに区分される(現在APG体系および関連研究ではこれらの亜科の扱いについて議論が続いている)。カンゾウ属(Glycyrrhiza)はマメ亜科に属し、蝶形花冠と根粒菌共生による窒素固定能をもつ典型的なマメ亜科植物である。

カンゾウ属は世界に約20種が知られており、ユーラシア・北アフリカ・北アメリカ・南アメリカに分布する。属内では旧世界(ユーラシア・アフリカ)起源の系統と新世界(アメリカ大陸)起源の系統に大別されると考えられており、ウラルカンゾウはユーラシア起源の系統の中核をなす種である。薬用として重要な種はウラルカンゾウ(Glycyrrhiza uralensis)のほか、スペインカンゾウ(Glycyrrhiza glabra)・コウライカンゾウ(Glycyrrhiza korshinskyi Grig.)・テンサンカンゾウ(Glycyrrhiza inflata Batalin)などがあり、これらは形態・分布・成分組成において互いに区別される。

グリチルリチンをはじめとするトリテルペンサポニン類の生合成は、オレアナン型トリテルペン骨格の合成経路(MVA経路を経るステロール・トリテルペン生合成)に基づくものであり、この経路はマメ科植物に広く見られる。しかしグリチルリチンのような構造的に特異な配糖体を高濃度で蓄積する能力はカンゾウ属に顕著であり、属固有の進化的特徴のひとつとして位置づけられる。乾燥・貧栄養環境への適応と根における防御性二次代謝産物の蓄積は、ウラルカンゾウが厳しい乾燥草原環境において競争的に生存するための進化的戦略を反映していると解釈されている。


第2版:2026-06-28.

Vita brevis, ars longa. Omnia vincit Amor.





















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