マユハケオモト

概要

マユハケオモト(眉刷毛万年青、学名:Haemanthus albiflos Jacq.)は、ヒガンバナ科(Amaryllidaceae)マユハケオモト属(Haemanthus)に属する球根性常緑多年草であり、南アフリカ固有の植物である。英語圏では "Paintbrush plant"(ペイントブラシ・プラント)、"Shaving-brush plant"(シェービングブラシ・プラント)、"Elephant's tongue"(ゾウの舌)、"White blood lily"(白い血のユリ)などの通称で広く知られている。

和名「マユハケオモト(眉刷毛万年青)」は、白い小花と雄蕊が密集した花序の姿が化粧道具の眉刷毛(まゆはけ)に似ていること、および肉厚で幅広い葉がキジカクシ科のオモト(万年青、Rohdea japonica)に酷似していることに由来する。別名としてハエマンサスまたはハエマンサス・アルビフロスとも呼ばれ、属名のカタカナ読みが園芸流通名として定着している。

属名 Haemanthus はギリシャ語の "haima"(血)と "anthos"(花)の合成語であり、属内に深紅色の花を咲かせる種が多いことに由来する。種小名 albiflos はラテン語で「白い花」を意味し、本種が マユハケオモト属(Haemanthus)の中でも特徴的な白花を持つことを示している。本種は Nikolaus Joseph von Jacquin によって1797年に正式記載された。日本へは明治時代に導入されたとされており、その独特の花姿から観葉・観花植物として広く普及している。

形態的特徴

マユハケオモトは地下〜半地下に大型の卵形〜扁球形の鱗茎(球根)を持ち、球根の直径は最大8センチメートル程度に達する。鱗茎の上半部はしばしば地上に露出し、光にさらされると鮮やかな緑色に変色するという、マユハケオモト属(Haemanthus)の常緑3種(H. albiflosH. deformisH. pauculifolius)に共通する特徴的な性質を持つ。根は多数の肉質の繊維根からなり、鱗茎底部から水平方向に伸展する。

葉は鱗茎頂部から2〜6枚が2列対生状(二列性)に展開し、常緑性であることが マユハケオモト属(Haemanthus)の多くの種とは大きく異なる本種の特徴の一つである。葉身は長さ9〜40センチメートル、幅3〜11センチメートルの帯状〜広楕円形で、先端は鈍頭、基部は次第に細くなる。葉の質感は肉厚でやや革質、表面は光沢のある深緑色を帯びることが多い。葉縁には白色の短毛が生えることがあり、葉面に白色の斑点が現れる個体も観察される。なお、かつて葉に白色の斑点が現れる個体を別種 Haemanthus albomaculatus Baker として記載する見解があったが、その後の分類学的研究により斑点の有無は同一種内の変異にすぎないと判断され、両者は Haemanthus albiflos に統合された。その結果 Haemanthus albomaculatus はシノニム(旧異名)となった。葉脈は弓状に走る。

花茎(花梗)は多肉質で中実、葉の展開に先立って、あるいはほぼ同時に葉の間から直立し、高さ5〜35センチメートルに達する。花序は散形花序で、茎頂に直径25〜70ミリメートルの半球形〜筒状の花塊を形成する。25〜50個の小花が密集して集まり、突出した白色の花糸と黄色〜橙色の葯が眉刷毛状の外観をつくり出す。花序の基部を囲む苞(包葉、仏炎苞弁)は4〜8枚で白色・緑色の脈を持ち、縁に毛が生え、開花時には直立しつつわずかに開いて花を露出させる。個々の花の花被は長さ16〜23ミリメートルで、基部では長さ4〜7ミリメートルの短い筒状をなし、線形〜披針形の花被片(長さ10〜18ミリメートル、幅1〜2.5ミリメートル)に分かれる。雄蕊は6本、花糸は白色で細長く突出し、葯は鮮やかな黄色〜橙色を呈する。花柱は白色で雄蕊とほぼ同長。果実は液果(漿果)で卵形〜球形、直径10〜22ミリメートル、未熟時は白色〜緑色、熟すと橙色〜朱赤色に変色し、内部に象牙白色〜緑色の卵形種子を1〜6個含む。

分布と生態

マユハケオモトは南アフリカ共和国の固有種であり、西ケープ州・東ケープ州・クワズール・ナタール州の3州に分布が確認されている。具体的には、西ケープ州南部のスティルベイ付近から東ケープ州を経てクワズール・ナタール州のズールーランドに至る沿岸帯を中心に分布し、一部は内陸のフラーフ・ライネット周辺やクイーンズタウン付近まで及ぶ。本種は マユハケオモト属(Haemanthus)の中で唯一、冬雨型地域と夏雨型地域の両方に自生できる種であり、これは属内でも例外的な特性である。

自生環境としては、樹林の日陰や林縁の岩場、沿岸の岩礫地など、直射日光を避けた半日陰〜日陰の涼しい環境を好む。強い日光を嫌い耐陰性が高い点は同属他種と比べても際立った特徴である。乾燥への耐性もある程度備えており、岩礫の多い排水性の良い土壌に自生することが多い。

生育サイクルとしては、本種は マユハケオモト属(Haemanthus)の中でも特異な常緑性を持つ「冬生育型」に分類される。気温が低下する秋〜冬の時期に旺盛に生育・開花し、高温期の夏には生育が緩慢になり休眠状態に近い状態となる。ただし冬生育型でありながら葉を落とさず常緑を保つ点が、同じく冬生育型である アカバナマユハケオモト(Haemanthus coccineus)など落葉性の種とは異なる。開花時期は自生地では晩秋〜冬(南半球の4月〜8月頃)であり、日本では概ね9〜11月にかけて開花する。種子散布は重力落下、流水、および鳥類や齧歯類による液果の捕食を介して行われると考えられる。種子は非休眠性で発芽力の持続期間が短い。

生理・化学的特徴

マユハケオモトは、ヒガンバナ科植物に特徴的なアマリリダセアエアルカロイド(Amaryllidaceae alkaloids)を葉・鱗茎双方に含有する。これまでの植物化学的研究において、本種から同定・単離されたアルカロイドとして、ホモリコリン(homolycorine)、アルボマクリン(albomaculine)、O-メチルリコレニウム塩(O-methyl-lycorenium salt)の3化合物が主要なものとして報告されており、また鱗茎抽出物からはモンタニン(montanine)の存在も明らかにされている。これらはいずれもイソキノリン系アルカロイドに分類される。

これらアルカロイドを中心とした植物体成分に起因する多様な薬理活性が報告されている。抗菌活性、抗酸化活性、光防御(光毒性抑制)活性、チロシナーゼ阻害活性、アセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害活性、抗炎症活性、抗ウイルス活性、細胞毒性、さらにはセロトニン再取り込みトランスポーター(SERT)への親和性が確認されている。

なかでも抗ウイルス活性については比較的早くから注目されており、含水エタノール抽出物がモロニー白血病ウイルス(MoMLV)の感染クローン形成を88パーセント程度抑制するという報告や、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)に対する抑制作用を示すとする研究が存在する。また AChE 阻害活性と SERT 親和性は Haemantheae 連の系統的研究において マユハケオモト属(Haemanthus)に固有の特性として注目されており、アルツハイマー型認知症治療薬や抗うつ薬の先導化合物(リード化合物)探索の観点から学術的関心が高い。

植物体全体——とくに鱗茎——には毒性成分が含まれており、不用意な摂取は有害である。ヒガンバナ科に共通する毒性の観点から、本種も有毒植物として取り扱いに注意が必要とされる。

人との関わり

マユハケオモトは南アフリカの伝統医学において重要な薬用植物として広く利用されてきた歴史を持つ。コサ(Xhosa)族の伝統医療では、鱗茎の煎じ汁(煎液)を骨折の治癒を促進する目的で飲用し、または根部を骨折患部に湿布として貼付する施術が記録されている。さらに慢性の咳の治療にも鱗茎の煎じ汁が用いられてきた。東ケープ州のトランスカイ地方のコサ族の間では、炎症・傷・疼痛の治療を目的とした薬用植物として本種が調査で挙げられている。南アフリカ東部の皮膚科的民間療法においても葉の利用が報告されている。ズールー(Zulu)族の伝統医学においても、本種は "uzeneke" という現地名で取引される薬用植物市場に登場することが確認されており、ダーバンの民間薬市場での流通が文書化されている。また東ケープ州の伝統的療法家の間では、結核およびその関連疾患の治療に多用される植物の一つとして、本種は Clausena anisataArtemisia afra とともに高い引用頻度を示す。

17世紀初頭にはすでにフランドルの植物学者によってヨーロッパに紹介されたとされており、18世紀には南アフリカから持ち帰られた本種がヨーロッパの植物学者や温室栽培の愛好家の間で珍奇な植物として高く評価された。19世紀のヴィクトリア朝時代には植物画にも描かれ、独特の花姿が英国をはじめとする欧州の植物愛好家に広まった。日本へは明治時代に導入されたとされており、独特の花形が珍重されて以来、観葉・観花植物として現在も広く栽培されている。

園芸的には、同属他種と比較して耐陰性と比較的高い耐寒性(1℃程度まで)を持つ点が評価されており、室内の観葉植物として育てやすい植物の一つとして親しまれている。英国王立園芸協会(RHS)のガーデン・メリット賞(Award of Garden Merit)を受賞していることも、その園芸的評価の高さを示している。直射日光を避けた半日陰から明るい室内で管理でき、乾燥にも一定程度耐えることから、日本の家庭でも無理なく栽培できる南アフリカ原産球根植物として普及している。

系統的位置と進化的特徴

マユハケオモトの系統的位置は、APG体系(Angiosperm Phylogeny Group)に基づけば、被子植物、単子葉類(Monocots)、キジカクシ目(Asparagales)、ヒガンバナ科(Amaryllidaceae)、ヒガンバナ亜科(Amaryllidoideae)、マユハケオモト連(Haemantheae)に分類される。マユハケオモト連(Haemantheae)は液果(漿果)を果実とすることを共有派生形質とするヒガンバナ科内の連であり、アフリカを主な起源とする6属——マユハケオモト属(Haemanthus)、スカドクサス属(Scadoxus)、クリビア属(Clivia)、クリプトステファヌス属(Cryptostephanus)、アポドリリオン属(Apodolirion)、ゲチュリス属(Gethyllis)——からなり、約90種を含む。

マユハケオモト属(Haemanthus)は現在22〜25種が認められており、すべて南アフリカ・ナミビア・ボツワナ・レソト・エスワティニなどを含む南部アフリカ固有の植物から構成される。属の大部分は冬雨型のフィンボス(Fynbos)バイオームを中心とする西ケープ地方・ナマクワランド地方に集中しており、約15〜18種が冬雨型地域に分布する。

分子系統解析(葉緑体 trnL-F 領域および核リボソーム ITS 領域の塩基配列に基づく解析)の結果、マユハケオモト属(Haemanthus)は マユハケオモト連(Haemantheae)内においてスカドクサス属(Scadoxus)と姉妹群(sister group)の関係にある単系統群として強く支持されている。属内では、白花〜淡ピンク色の花を持つ夏雨型地域(主に東ケープ州)の種群と、赤色〜淡ピンク色の花を持つ冬雨型地域(主に西ケープ州)の種群がそれぞれ単系統のクレードを形成することが示されている。

マユハケオモト属(Haemanthus)の分類史においては、かつて多くの熱帯アフリカ産の種が同属に含まれていたが、1976年に Friis と Nordal によって染色体基本数(x = 8)や果実構造などの形態的差異に基づき、亜熱帯・熱帯性の種群がスカドクサス属(Scadoxus)として分離された。これにより マユハケオモト属(Haemanthus)は南部アフリカ固有の種群に絞り込まれ、現在の定義に至っている。

Haemantheae 連の起源は分子系統地理学的解析により南アフリカ東部地域にあると推定されており、そこから後に冬雨型の西ケープ地方方面へ複数回の分散が生じたと考えられている。冬雨型地域の マユハケオモト属(Haemanthus)における急速な種分化は、後期中新世〜鮮新世(約500万年前頃)の乾燥化と地中海性気候の成立に連動したと推定されている。

マユハケオモト(Haemanthus albiflos)は、常緑性という属内では例外的な特性(常緑種は本種・H. deformisH. pauculifolius の3種のみ)を持ち、かつ冬雨型・夏雨型の両地域に自生できる唯一の種であることから、マユハケオモト属(Haemanthus)の生態的多様化を考える上で重要な位置を占める。また、マユハケオモト属(Haemanthus)は マユハケオモト連(Haemantheae)内においてセロトニン再取り込みトランスポーター(SERT)への親和性を持つアルカロイドの産生が確認される唯一の属であり、その生化学的独自性も注目される進化的形質である。


第1版:2021-07.
第2版:2026-06-25.

Vita brevis, ars longa. Omnia vincit Amor.





















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