ウンシュウミカン


概要

ウンシュウミカン(Citrus unshiu (Marcow.) Marcow.)は、真正双子葉類(Eudicots)、バラ類(Rosids)に位置するムクロジ目(Sapindales)ミカン科(Rutaceae)ミカン属(Citrus)に属する常緑低木である。日本を代表する果樹の一つであり、温州蜜柑とも表記される。原産地については長らく中国の温州(現在の浙江省温州市)とする説が有力視されてきたが、現在では日本(鹿児島県)で生じた自然交雑起源の品種であるとする見解が広く支持されている。種小名 unshiu は中国の温州に由来する。タネなし(種子をほとんど含まない)で皮が手で容易に剥ける実用性の高さから、日本国内で最も生産量の多い柑橘類となっており、生食のほか缶詰・ジュース・加工食品などに広く利用されている。ヨーロッパや北米では「サツマ(Satsuma)」の名で知られ、国際的にも重要な柑橘品種として位置づけられている。

形態的特徴

ウンシュウミカンは樹高2〜4メートル程度の常緑低木であり、枝は細くやや垂れ下がる傾向がある。幹の樹皮は灰褐色で縦に浅く裂け、若枝は緑色で稜角をもつ。刺(とげ)はほとんど生じないか、あっても極めて小さく退化的である点が多くの柑橘類との識別点となる。

葉は互生し、単身複葉(たんしんふくよう)であるが翼葉(よくよう)は極めて小さくほぼ退化しており、単葉状に見える。葉身は卵形から楕円形で、長さ7〜12センチメートル、幅3〜5センチメートル程度である。葉先はやや尖り、葉縁には浅い鋸歯または波状の鋸歯がある。葉面には光沢があり、葉裏には油点が散在する。葉を傷つけると精油成分による柑橘特有の芳香を発する。

花は5月頃に開花し、新梢の葉腋または枝先に単生または集散花序をなして数個つく。花は白色で直径3〜4センチメートル、花弁は5枚で厚みがあり蝋質の光沢をもつ。萼は5裂し、雄蕊は多数(20〜25本程度)で花糸は束をなす。雌蕊は1本で、子房は多室(通常10〜12室)である。花には芳香があり、リモネン・リナロール・酢酸リナリルなどの精油成分が含まれる。

果実は扁球形(上下に扁平な球形)で、横径6〜9センチメートル程度である。果皮はオレンジ色から橙黄色に熟し、厚さは品種により異なるが一般に薄く、海綿状の白色アルベドと外側の色素層(フラベド)からなる。果皮は手で容易に剥くことができ、剥いた際に実(じょうのう)が崩れにくい特性をもつ。果肉(砂じょう)は柔らかく多汁で甘みと適度な酸みをもつ。種子はほとんどの品種・系統で形成されないか、あっても極めて少ない(単為結果性)。

分布と生態

ウンシュウミカンの主要生産地は日本であり、和歌山県・愛媛県・静岡県・長崎県・熊本県などが主要産地として知られる。国外ではスペイン・中国・韓国・アメリカ合衆国(主にフロリダ州・カリフォルニア州)などでも栽培されている。

栽培適地は温暖で降霜の少ない地域であり、年平均気温15〜18度、冬季の最低気温がマイナス5度を下回らない地域が好適とされる。柑橘類の中では比較的耐寒性が高く、カラタチ(Poncirus trifoliata)台木を用いることでさらに耐寒性が向上する。日当たりと水はけのよい南向き傾斜地が最適であり、排水不良な土壌では根腐れを生じやすい。土壌pHは5.5〜6.5の弱酸性が適している。

単為結果性(受粉・受精なしに果実が発育する性質)が強く、花粉の稔性も低いため、一般的な栽培において他品種との交雑による種子形成はほとんど生じない。このため安定した無核果実の生産が可能である。果実の成熟期は品種系統により異なり、極早生(9〜10月)・早生(10〜11月)・中生・晩生(12月〜翌1月)の系統が揃い、長期にわたる出荷が可能である。

生理・化学的特徴

果実にはクエン酸・リンゴ酸などの有機酸、ショ糖・果糖・ブドウ糖などの糖類が豊富に含まれ、甘みと酸みのバランスが食味を決定する。完熟果では糖度10〜13度程度、酸度1.0〜1.2パーセント程度が標準的な指標とされる。

ウンシュウミカンはビタミンC(アスコルビン酸)の優れた供給源であり、果肉100グラムあたり30〜35ミリグラム程度を含む。また、果皮および果肉にはβ-クリプトキサンチンが柑橘類の中でも特に高濃度に含まれていることが知られている。β-クリプトキサンチンはカロテノイドの一種でビタミンAの前駆体となり、骨粗鬆症予防・抗酸化作用・抗がん活性などとの関連が疫学的・実験的に示されている。

果皮(特に白色のアルベド部分)にはフラボノイドの一種であるヘスペリジン(ビタミンP)が豊富に含まれ、毛細血管強化・抗炎症・抗酸化などの機能が報告されている。また果皮精油にはリモネン・γ-テルピネン・β-ミルセンなどのモノテルペン類が主成分として含まれ、香料・芳香剤・工業用溶剤などに利用される。

葉・果皮・花に含まれる精油成分はアゲハチョウ科(Papilionidae)幼虫の忌避や植食性昆虫に対する化学的防御として機能すると考えられている。一方、アゲハチョウ(Papilio xuthus)はミカン属植物を食草として選択する際に葉の精油成分を産卵刺激物質として利用しており、植物と昆虫の間に拮抗的かつ共進化的な関係が存在する。

人との関わり

ウンシュウミカンの日本における栽培の歴史は古く、鹿児島県(薩摩地方)での栽培が江戸時代には確立していたとされる。明治時代以降に品種改良と栽培技術の普及が進み、大正・昭和期に生産量が急増した。現在、日本の柑橘類生産量の過半数をウンシュウミカンが占めており、年間生産量は70〜90万トン(近年の統計による)に達する。

生食用としての消費が中心であるが、缶詰(シラップ漬け)は国際的に輸出されており、「マンダリンオレンジ缶詰」として世界各国で流通している。果汁はジュース・ゼリー・ジャム・アイスクリームなどの原料となり、果皮は精油の採取・乾燥陳皮(ちんぴ)・マーマレードなどに利用される。

漢方・生薬の分野では、成熟した果皮を乾燥させたものを「陳皮(ちんぴ)」と呼び、健胃・去痰・理気などの効能をもつ生薬として利用する。また未熟果の果皮を乾燥させたものは「青皮(せいひ)」と呼ばれ、別の生薬として用いられる。温州みかんの産地である和歌山県有田地域・愛媛県などでは、果樹栽培が地域の産業・文化・景観の中核をなしており、段々畑の景観は地域固有の文化的景観として認識されている。

品種改良も活発に行われており、極早生・早生から晩生に至る多様な熟期の系統が選抜されてきた。さらにウンシュウミカンを親として育成されたポンカン・デコポン(不知火)・セトカなどの交雑品種も広く普及しており、国内柑橘産業の多様化に貢献している。

系統的位置と進化的特徴

ウンシュウミカンが属するミカン科(Rutaceae)は、真正双子葉類のうちバラ類(Rosids)、さらにその中のマメ類(Fabids)ではなく真正バラ類II(Eurosids II)に位置するムクロジ目(Sapindales)の主要科の一つである。ムクロジ目にはミカン科のほか、ムクロジ科(Sapindaceae)・ウルシ科(Anacardiaceae)・センダン科(Meliaceae)・ニガキ科(Simaroubaceae)などが含まれる。

ミカン属(Citrus)の系統関係と種の概念は長年にわたり議論されてきた。分子系統学的研究(特に2018年のWu et al.による大規模ゲノム解析)によれば、栽培柑橘類の大部分はマンダリン(Citrus reticulata)・ブンタン(Citrus maxima)・シトロン(Citrus medica)・パペダ類の少数の野生種を基本種とする交雑・倍数化の産物であることが明らかにされた。ウンシュウミカンはマンダリンとの近縁性が高く、ゲノム解析ではマンダリンと他の柑橘(クネンボなど)との交雑に由来すると推定されている。

ウンシュウミカンが示す種子をほとんど生じない単為結果性は、栽培下での選抜によって固定された形質と考えられており、野生の柑橘類には見られない高度に栽培化された特性である。また刺の退化・果皮の剥きやすさ・果肉の柔軟性なども、長期にわたる人為選抜の結果として獲得された形質とみなされる。

ミカン科全体の進化的特徴として、葉・果皮・茎などの組織に精油を分泌する油点(リジン分泌腔)を発達させた点が挙げられる。この精油生産能力はテルペン類・フラボノイド類・クマリン類などの二次代謝産物の蓄積と密接に関連しており、植食性昆虫・病原菌・草食動物に対する化学的防御として機能するとともに、送粉者の誘引にも寄与している。こうした化学的多様性はミカン科が熱帯・亜熱帯の競争的環境で多様化する上で重要な役割を果たしてきたと考えられている。


第2版:2026-06-29.

Vita brevis, ars longa. Omnia vincit Amor.





















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