モジュラ型トランスポンダ

summary:

モジュラ型トランスポンダとは,通信ネットワークにおける光信号の送受信機能を柔軟かつ拡張可能な形で提供するために,モジュール単位で構成される光トランスポンダの一種である.従来の固定構成型のトランスポンダと異なり,ハードウェア構成や機能構成を個別のモジュールとして差し替え・追加できる点に本質的な特徴を有している.これにより,伝送速度,波長,変調方式,前方誤り訂正[FEC]アルゴリズムの種類などを,運用要件に応じて動的に最適化することが可能となる.

モジュラ型トランスポンダの登場は,2010年代初頭のデータトラフィック急増と,インフラ投資における柔軟性とスケーラビリティの必要性に端を発している.従来の固定構成型WDM装置では,ネットワーク全体の構成変更や容量拡張のために大型の筐体や統合型シャーシ装置の全面刷新が必要であったが,これには高コストと長期の設備停止が伴った.モジュラ型のアーキテクチャはこうした課題を解決し,シャーシ本体を保持しつつ,機能単位で個別にアップグレードを行える構成を実現した.さらに,この構成により,初期投資を抑制し,需要の増加に応じて段階的に設備を拡張するpay-as-you-growモデルの採用が可能となった.

初期のモジュラ型トランスポンダは,主にキャリアグレードの長距離コアネットワークおよび中距離メトロネットワークにおいて,100Gbps以上の高速伝送を可能とする高機能なコヒーレント光モジュールを収容するために導入された.Ciena,Infinera,Nokia[旧Alcatel-Lucent],Cisco,Huawei,Fujitsuなどの主要ベンダーは,ホットスワップ対応のスロットベースで挿入可能な「ラインカード」形式の光モジュールと,それを制御・監視するシャーシ型筐体の製品を相次いで発表した.これにより,単一の筐体に複数種類のクライアントインターフェース[OTU4,100GbE,400GbE,FlexEなど]を混在させる構成が可能となった.

モジュラ型トランスポンダのもう一つの革新は,オープン性とマルチベンダー相互運用性[インターオペラビリティ]の確保である.OpenROADM,OIF[Optical Internetworking Forum],ITU-T,IEEEなどの標準化団体は,モジュール間のインターフェース仕様,管理プロトコル,光パフォーマンス監視機能を規定し,異なるベンダー間の相互接続性を高める努力を続けている.これにより,通信事業者は特定ベンダーへのベンダーロックインを回避し,CAPEX[設備投資]およびOPEX[運用費用]の最適化を実現することが可能となった.

技術的観点からは,モジュラ型トランスポンダは高性能DSP[デジタル信号処理]チップとプログラマブル光学部品を搭載し,BPSK,QPSK,8QAM,16QAM,32QAM,64QAMといった多様な高階変調方式を伝送路条件に応じて柔軟に選択可能である.また,SD-FEC[Soft Decision Forward Error Correction],符号化ゲイン制御,レート適応制御,自動レーザー最適化,光パワー監視,OSNR[光信号対雑音比]リアルタイム測定,分散補償,偏波モード分散補償など,多様な高度信号処理機能をソフトウェアで動的に制御できる点において,従来の固定構成型トランスポンダよりも格段に高機能である.

加えて,近年のデータセンターインターコネクト[DCI],クラウドプロバイダーインターコネクト,ハイパースケールデータセンター用途においても,コンパクトなモジュラ型シャーシ装置が重視されている.これは,400Gbps,800Gbps,さらには1.6Tbpsクラスの大容量伝送を複数スロットに分散して収容しつつ,データセンターの高密度設置要件[1RUから4RU],低消費電力,高効率冷却システムとの統合に対応する形で設計されており,電力効率[Watts per Gbps]の最適化にも配慮された製品群が市場に投入されている.

モジュラ型トランスポンダの進化は今後も継続すると見られ,400ZR,400ZR+,800ZRといったMSA[Multi-Source Agreement]ベースのオープンなコヒーレント光トランシーバ規格との統合を深める方向に展開している.また,AI/ML[人工知能・機械学習]技術の組み込みにより,予測的性能最適化,自動障害検出・回復,動的ルーティング最適化といった自律運用機能の実現が進んでいる.これにより,メトロレベルのアクセス・アグリゲーションネットワークから,コアレベルの長距離・超長距離伝送まで,単一のプラットフォームで一貫した運用とライフサイクル管理が可能となると期待されている.

さらに,Software Defined Networking[SDN]およびNetwork Function Virtualization[NFV]との連携により,ネットワーク全体のオーケストレーション,帯域オンデマンド提供,サービス品質保証といった高度なネットワーク運用機能も実現されつつある.

総じて,モジュラ型トランスポンダは,光通信ネットワークの柔軟性,拡張性,運用効率,経済性を同時に高める中核的要素であり,その意義は5G/6G移動通信,エッジコンピューティング,量子通信などの次世代技術と統合される将来のオールフォトニックネットワークにおいてさらに高まるであろう.

Mathematics is the language with which God has written the universe.





















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